首都圏の鉄道施設におけるWi-Fiについて

1.はじめに

 こんにちは。もう高校生になってしまった**です。今回は鉄道施設における通信サービス、特にWi-Fiについて書いていきたいと思います。皆さんも使われたことがあるのではないでしょうか。しかしWi-Fiがある駅や電車は限られており、あまり使う機会は多くないのではないでしょうか。そんな鉄道施設のWi-Fi、とりわけ政府が推進する”Japan Connected-free Wi-Fi”について触れていきたいと思います。

2.Japan Connected-free Wi-Fiとは

 Japan Connected-free Wi-Fiは国土交通省の観光庁とNTTBPが提供する無料公衆無線LAN対応のスマートフォンアプリです。このアプリはJR-EAST FREE Wi-FiやMetro Free Wi-Fi、Toei Subway Free Wi-Fiなどの各鉄道会社が運営するFree Wi-Fiをより使いやすくするアプリです。特に訪日外国人にはとても重宝されています。

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに訪日外国人が増えると予想されるため、通信環境の改善が急務となっています。またこのサービスは訪日外国人にだけでなく我々日本人も使うことができるため、とても有益なサービスになるでしょう。

3.鉄道施設でのWi‐Fiの現状

ⅰJR東日本

 JR東日本では東京駅や上野駅、新宿駅などの都心ターミナル駅と、東京モノレールの羽田空港駅やJR成田空港駅、空港第2ビル駅にあるJR EAST Travel Service Centerで”JR-EAST FREE WI-FI”を使用できるサービスを配信しています。このサービスは主に訪日外国人向けのものですが、我々日本人も使うことができます。

 またJR東日本の一部駅構内でもWi-Fiを使用することができますが、このサービスを使うには通信会社との契約が必要になります。また特急ひたちやときわで使用されているE657系の車内やJR東海の東海道新幹線のN700系・N700Aの車内、東北新幹線のE5系の車内でもWi-Fiのサービスが導入されていますが、これもまた通信会社との契約が必要です。

常磐線特急に使用されるE657系

車内でWi-Fiが使用可能

東京モノレールの羽田空港駅にある

JR EAST Travel Service Center

ⅱ私鉄

 今度は首都圏の私鉄にスポットライトを当てていきたいと思います。

 こうして見ると東急電鉄と相模鉄道にはWi-Fi設備が足りていないように思えます。それに比べ小田急や西武は有料特急などにもFree Wi-Fiがついているので設備面では優位に出ているといえるでしょう。また東京メトロや都営地下鉄は、今後設備が充実することでしょう。この他に、つくばエクスプレスなどの会社でもWi-Fiのサービスが導入されています。

車内でFree Wi-Fiが使用可能な

小田急ロマンスカー30000系

他に50000系車内でもFree Wi-Fiが使える

京成電鉄のスカイライナー

指定席券を買う際にパスポートを提示するとパスワードが発布される

4.Wi-Fiの需要

 今日本では2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、急ピッチで通信環境の整備が行われています。主に訪日外国人をターゲットとしたサービスが増えてきています。次のグラフをご覧ください。

 この表は総務省が訪日外国人にとったアンケートです。上の表の通り空港に次いで駅や車内でのWi-Fi需要は高いといえます。そのため駅構内だけでなく車内でもWi-Fiの設備を整えることは、決して無駄ではないと考えられます。

 上のグラフから見て取れるように訪日外国人のWi-Fiの需要は高いことがわかります。また有料Wi-Fiよりも無料Wi-Fiの方が需要を見込めます。街を歩いていても有料Wi-Fiの方が多く、訪日外国人には通信会社と契約するのも一苦労であることから、外国人には契約制のWi-Fiは不向きであるため、外国人向けの無料Wi-Fiの設備の充実化は急務であるといえます。

 以上のことから、Wi-Fiの通信環境の整備は急務だといえます。

*1 国際ローミング:契約している国内の通信会社のサービスを外国でも利用できるサービス。ただし国際ローミングでは通信の利用量に応じて課金されるシステムであるため、請求金額が高額になる傾向にある。

*2 プリペイドSIM:携帯端末の通信に必要なSIMカードをある一定期間だけ携帯会社から借りるサービス。コンビニなどで買え、簡単な契約だけで済むため訪日外国人には重宝されている。

*3 レンタル契約:その名の通り携帯を一定期間レンタルすること。ただ契約には多少面倒な手続きが必要なため、訪日外国人には少しマイナーなイメージがある。

5.今後の展望

 日本では2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて急ピッチで訪日外国人への設備が充実化されるでしょう。とりわけ携帯電話などの通信機器の設備は重要であり、需要が高いことは目に見えています。

 東京メトロは今後、駅施設、駅構内並びに車内までFree Wi-Fiの設備を拡大すると発表しましたし、都営地下鉄では2020年までには全編成でFree Wi-Fiが使えるように設備を整えると発表しました。ですがJRはいまだFree Wi-Fiの導入には消極的です。実際成田エクスプレスの車内では契約が必要なWi-Fiしかありません。それに引きかえ京成のスカイライナーには車内で使える無料のFree Wi-Fiがあります。また京急線の羽田空港駅にはFree Wi-Fiが完備されていますが、JR東日本の傘下にある東京モノレールの羽田空港駅はJR EAST Travel Service Centerの周辺でしかFree Wi-Fiを使うことができません。

 このようにJR東日本はWi-Fiの観点からみると、ほかの首都圏の鉄道会社からは一歩遅れをとっています。

6.車内Free Wi-Fiの利点

ⅰ利便性

 利点は何と言っても利便性でしょう。特に訪日外国人にとっては、自国以外でSIMカードが有効でない人には大変に便利なものだと思われます。また訪日外国人だけでなく我々日本人にとっても非常に有益なサービスだといえます。特に車内でのWi-Fiサービスは通勤客などの乗客に大変便利なものでしょう。

ⅱサービス面

 利便性と被ってしまうかもしれませんが、Free Wi-Fiの設置はサービスの向上をもたらすでしょう。特に車内Wi-Fiにおいて、京成電鉄などのように、有料特急や有料のライナーなどにFree Wi-Fiを設置することで、一般の通勤電車と差別化を図ることができます。それによって有料特急や有料のライナーの需要が高まる可能性も十分にあります。

7.車内Free Wi-Fiの問題点

ⅰ設備費用

 鉄道会社にとって一番負担になるものは設備費用でしょう。下の図をご覧ください。

 上の図の通りつくばエクスプレスは車内2か所にあるアンテナを使ってWi-Fi基地局と通信を取り、Wi-Fi基地局を介してIPネットワークに接続し、光ファイバーを通してインターネットに接続する仕組みです。

 ですが東海道新幹線の場合は少し仕組みが異なります。東海道新幹線は列車との通信を行うために使われていたアンテナやLCXを改造し、車内でのインターネット通信を可能にしました。そのLCXを使い車内と地上の通信を行い、その後は光ファイバーを通してIPネットワークとインターネットと通信を取るという方式をとっています。また地下鉄も同じような方式をとっています。LCXを介して、車両と駅にあるアンテナや子機と通信を取っており、そこから光ファイバーを通して、インターネットと接続しています。

 このように各鉄道会社は基地局となるところまでの通信手段を確立し、車両と基地局を結ぶために列車にアンテナを付けなくてはなりません。そのため鉄道会社はその分のコストを負担しなければなりません。

*1 Wi-Fi基地局:通信端末をインターネットと相互に通信する無線機の一種。

*2 光ファイバー:光を離れた場所に伝送する線。インターネットの速度が一番速く、安定しています。

*3 LCX:信号伝達に使われるケーブルに穴をあけてアンテナ機能を持たせたもの。

ⅱセキュリティ面

 Free Wi-Fiの一番の弱点、それはセキュリティが薄いことです。Free Wi-Fiはロックがされていないため、脆弱性が見つけやすいです。そのためサイバー犯罪者はいとも簡単にFree Wi-Fi使用者の見ている画面を覗き込めたり、コンピューターウイルスを感染させたりすることができてしまうのです。またMITM攻撃にもさらされる危険性がありFree Wi-Fiはセキュリティ面ではとても貧弱なのです。

 しかし契約が必要なWi-Fiならばセキュリティは盤石です。パスワードでロックがかかっているため、サイバー犯罪者もサイバー攻撃を仕掛けるのはたやすいことではないです。そのため契約が必要なWi-Fiはセキュリティの面ではFree Wi-Fiよりも優れていると言えます。

ⅲ認知度

 整備済みの公衆無線LANの認知度の低さも問題といえるでしょう。実際2013年に使用を開始したJapan Connected-free Wi-Fiも訪日外国人には認知度が低いようです。認知度が低ければ使ってもらうためのWi-Fiが使われず、設備費の無駄になってしまいます。そのため政府並びに鉄道会社は宣伝活動にも力を入れていくべきです。

ⅳ通信速度

 通信速度の遅さも無視できない問題点です。家などで使われているWi-Fiよりも公衆無線LANの方が圧倒的に通信速度が遅いです。

 例えば街の街頭で使用可能な無線LANは通信速度が遅いです。そのため多くの人がFree Wi-Fiの設備を使っていません。なぜ家などで使うWi-Fiよりも公衆無線LANの方が通信速度が遅いのか、その理由は使用者の多さです。使用者が多ければ多いほど、通信速度が低下するのです。まして電車内ならば使用人数が多いため通信速度が低下するのは容易に想像できます。

 以上より通信速度向上は急務だといえます。

*1 脆弱性:コンピュータのOSやソフトウェアにおいて、プログラムの不具合や設計上のミスが原因で発生する、セキュリティの欠陥のこと。

*2 MITM攻撃:別名中間者攻撃通信。通信しているユーザーの間に第三者が通信者になりすまし、通信ユーザーに気付かないように通信を盗み見や制御すること。

*3 OS:パソコンや携帯のアプリやデバイスを動作させるための基本となるソフトウェアのこと。

8.改善策

ⅰ設備費用

 設備費用の問題はとても大きな問題です。しかし設備を整えるのに多くの資金が必要なのは当然のことであります。

 また電車内や駅などの商業施設でのWi-Fiの工事は民間が主導で行うことになっているので、国からの補助金はあまり給付されません。政府や総務省はWi-Fiの設備の設置を促進するために地方自治体に分配された交付金を交通施設に分配してはいますが、その交付金も全体の設備費に比べれば微々たるものなので、やはり各鉄道会社は多くの設備費を負担することになります。

 ですが訪日外国人にとっては鉄道施設におけるFree Wi-Fiはなくてはならないものです。そのためやはり鉄道会社が自費で設備費用を賄い、外国人観光客や利用客へのサービスを向上させるしか手立てがありません。

ⅱセキュリティ

 セキュリティ対策の対策として提示したいのはVPNアプリというものです。VPNとは別名仮想プライベートネットワークと呼ばれ、通信業者の公衆回線を経由して作られる仮想的な組織内ネットワークのことを言います。

 上の図のように、VPNアプリによりスマートフォンやインターネットなどの通信端末とインターネットとの間の通信が、トンネルのように外部のネットワークと遮断するため、覗き込まれたりコンピューターウイルスに感染したりという被害のリスクを下げることができます。

 またVPNアプリと同じような機能を果たすSSLというアプリもあります。このシステムは通信端末とインターネットとの通信を暗号化することによって、第三者からの盗み見やサイバー攻撃などのリスクを下げることができるサービスです。しかしSSLサービスもVPNアプリも完全にサイバー攻撃や盗み見のリスクを取り除くことができるわけではありません。

よってセキュリティ対策の解決策としては各鉄道会社がこのVPNアプリやSSLアプリのインストールを推奨するということであります。

ⅲ認知度

 認知度の低さは無視できない問題です。2013年から始まっているJapan Connected-free Wi-Fiですが訪日外国人の使用度や認知度が低いのが現状です。そのため多くの訪日外国人に、このJapan Connected-free Wi-Fiを利用してもらうための宣伝活動が必要になってくると思われます。例えば成田空港や羽田空港での広告活動、また羽田空港駅や成田空港駅にあるJR EAST Travel Service Centerで訪日外国人にJapan Connected-free Wi-Fiのことを知ってもらうなどの対策が必要になってくるでしょう。それによって訪日外国人が鉄道施設で各鉄道会社のFree Wi-Fiの設備を使用するようになるでしょう。

ⅳ通信速度

 通信速度の低下は技術的な面もあるため、抜本的な解決策はありません。ですがアンテナを増やす、基地局を増やす、光ファイバーやLCXケーブルを改良するなどの工事を重ねれば通信速度の向上は可能です。しかしこれはⅰで述べたような鉄道会社側の設備費用がさらに膨らむことを意味します。また最新の技術を導入するにも同様に巨額のコストがかかるわけですから、通信速度の向上と設備費用の増額は表裏一体というわけです。

 そのため通信速度の向上の決定的な解決策というのはありません。

9.終わりに

 いかがでしたでしょうか。今日本の鉄道会社では2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて駅設備や車内設備の利便性向上を急ピッチで進めています。その一環で車内Wi-Fiや駅構内でのWi-Fiの設備も設置が進んでいます。しかしそこにはコストの問題や通信速度の問題など現状では決定的な解決策がない問題があります。これらの問題を2020年までにどのように解決するか気になるところであります。また観光庁とNTTBPが主導で設置を推進しているJapan Connected-free Wi-Fiが、各鉄道会社が設置しているWi‐Fiにどのような影響を与えるのか楽しみです。

最後になりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。

10.参考文献

・NTT公式サイト 列車内高速インターネットアクセスについて

http://www.ansl.ntt.co.jp/history/wireless/wi0107.html

・総務省公式サイト 無線LANの整備の促進について

http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/public_wi-fi/index.html

・総務省 国内と諸外国における公衆無線LANの提供状況及び 訪日外国人旅行者のICTサービスに関するニーズの調査研究

http://www.soumu.go.jp/main_content/000292482.pdf

・JR東日本公式サイト 駅での無線LANサービス

http://www.jreast.co.jp/musenlan/

・京成公式サイト 京成電鉄の一般車両に公衆無線LANサービス「au Wi‐Fi SPOT」

「Wi2 300」導入

http://www.keisei.co.jp/keisei/kouhou/news/130328_02.pdf

・東武鉄道公式サイト 「TOBU FREE Wi‐Fi」提供駅を101駅拡大

http://www.tobu.co.jp/file/pdf/2d28c218172ce4ddd35c405a4bf11ed8/160324_2.pdf?date=20160324110351

・東洋経済オンライン 「無料Wi-Fi」、最も普及している通勤電車は?

https://toyokeizai.net/articles/-/147918?page=2

・Wi‐Fiセキュリティとは

http://www.sourcenext.com/product/pc/sec/pc_sec_000898/


おことわり・Web掲載に伴い、表現を一部変更させていただきました

また、掲載されている情報は研究公開当初のものです。現在と若干異なる場合があります。

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