ホームドアの整備と未来

1.はじめに

 皆さんはホームドアというものをご存知だと思います。関東の各線で急速に整備が進んでいるホームドアですが、JR線や関西圏ではあまり設置が行われていません。今回の研究では、このホームドアについて詳しく見ていきたいと思います。

2.ホームドアとは

 ホームドアは、ホーム上における乗客の転落を防止するために、ホームの線路寄りに設置されるものです。世界では1961年にロシアのサンクトペテルブルク地下鉄(当時はソビエト連邦のレニングラード地下鉄)に設置されたものが最初のホームドアとされています。日本においては、臨時的なものであったものの1970年の大阪万博のモノレールに、常設駅では1974年に東海道新幹線の熱海駅にそれぞれ初めて設置されました。

 ホームドアには大きく分けて4つの種類があります。それらに「固定式ホーム柵」という固定型の柵を加えた5つについて紹介していきます。

(1)フルスクリーン型ホームドア

 フルスクリーン型ホームドアは東京メトロ南北線などの地下鉄や横浜シーサイドラインといった新交通システムで多く採用されている方式です。転落防止の効果は非常に高い一方、設置するためにかかるコストが非常に高いのに加え地上駅に設置するのが難しいことから既存路線に追加で整備されることは少なくなっています。先程述べた通り、目黒駅を除いた東京メトロ南北線の各駅や京王電鉄の布田駅などに設置されています。

京王線布田駅のフルスクリーン型ホームドア

車両のドア部だけでなく、窓の部分にまで転落防止目的の壁が設けられています

(2)可動式ホーム柵

 可動式ホーム柵は様々な鉄道会社で採用されているホームドアの1種です。フルスクリーン型ホームドアに比べ導入コストが低く、スマートホームドアや昇降式ホーム柵(※後述)よりも頑丈かつ汎用性も高いため首都圏では広く普及しており、JR京浜東北線の東神奈川駅や横浜駅 (ともに一部ホームのみ)、京急電鉄の京急川崎駅や横浜駅などに設置されています。ただ、「4扉の20m車両」に対応した可動式ホーム柵を導入した駅では「3扉の20m車両」が客扱いを行うのは基本的に不可能になってしまう(*1)ので、ドア数の異なる車両や車両長の異なる形式が運用されている路線において可動式ホーム柵を導入するにはハードルが高くなっています。

*1 製造時から4扉の20m車両のドア位置に合わせている3扉20m車両であれば可能です。

しかし、ホームドア側に3扉車両に対応したプログラムを組んだうえで車両側と連動させる必要

があり手間がかかります。

JR京浜東北線東神奈川駅の可動式ホーム柵

(3)スマートホームドア

 スマートホームドアは現在JR東日本が積極的に導入している可動式ホーム柵から派生した形といえるものです。可動式ホーム柵と違い実際に稼働する部分が棒状になっています。JR東日本によると、


・スマートホームドアは従来型のホームドアに比べ、扉部をフレームで構成したシンプルな構造で内部機構を簡素化し、軽量化を実現しています

・ホームドア設置の工期が、従来型に比べ最大40%短縮可能となります

「2021年度ホームドア整備について」JR東日本ホームページより抜粋


とされており、従来の可動式ホーム柵より工期を大幅に短縮することが可能になっています。JR京浜東北線の新子安駅や淵野辺駅などに設置されています。

JR横浜線淵野辺駅に設置されているスマートホームドア

(4)昇降式ホーム柵

 関西の駅で時折みられるのが昇降式ホーム柵です。昇降式ホーム柵は開口部がほかのホームドアの方式に比べて大きいので扉の数による制約を回避することができますが、先述の通り開口部が広くなってしまうため転落防止の観点からいえば最適とは言い難いです。JR西日本の大阪駅や高槻駅などに設置されています。かつてはJR八高線の拝島駅(一部ホームのみ)にも運用されていましたが、現在は撤去されています。

(5)固定式ホーム柵

 ホームドアが本格的に整備されるようになる前から一部の主要駅に設置されていることがあったものです。現在でも東急池上線・東急多摩川線の各駅、京急電鉄の品川駅などに設置されています。先述したいずれよりも導入コストが少なく済むのが最大の利点といえるでしょう。ただ、転落防止の効果は先述したどれよりも薄いというのは間違いありません。

3.ホームドアの課題

 ここまでホームドアとそれに近いものについて、それぞれの種類と特色についてみてきましたが、ここから先は「ホームドア」そのものの課題を提起したいと思います。その課題とは、

会社によってホームドア整備の進みに大きな差がある

ことです。どういうことなのか、具体的に見ていきましょう。

図1 東急電鉄のホームドアとそれの準ずる設備の整備率

 図1は2021年12月現在の東急電鉄におけるホームドアとそれに準ずる設備が設置された駅の割合を示した円グラフです。これを見ると、東急電鉄においては多くの駅において可動式ホーム柵あるいは固定式ホーム柵が設置されていることがわかります。

では、他の関東の大手私鉄ではどうでしょうか。

図2 京王電鉄のホームドアとそれに準ずる設備の整備率

 こちらは京王電鉄における整備率を示したグラフですが、全69駅のうちフルスクリーン型ホームドア・可動式ホーム柵・固定式ホーム柵のいずれかが設置されている駅が13駅と、先ほどの東急電鉄よりホームドアの整備が明らかに遅れています。

 これは京王電鉄に限った話ではなく、東武鉄道や西武鉄道、小田急電鉄や京急電鉄も可動式ホーム柵を主要駅のみにしか整備できていません。この状況は懸念すべきです。

 もちろん、東急電鉄がホームドアの整備に積極的だったというのもありますが、乗り換え客を含めた乗降客数が約18万人と大きな駅である京王線の明大前駅や乗降客数20万人超えを誇る小田急線の町田駅にもホームドアが整備されていないというのは望ましくないでしょう。

 また、この話は大手私鉄だけに限られた話ではありません。JR東日本も2032年度末までに首都圏の243駅に可動式ホーム柵またはスマートホームドアのどちらかを導入するとしていますが、裏を返せば首都圏の駅の大半にホームドアが整備されるにはあと10年以上必要であり、新型コロナ感染症による収益の減少も踏まえると2032年度末に整備できるとは考えにくい状況になっています。

 このように、各鉄道会社によってホームドアの整備状況というのは全く違う状況になってしまっているのです。どのような改善策を打てばホームドアの整備をより一層推し進めることができるのでしょうか。

4.改善策

 改善策について触れる前に、一つだけ確認しなければならないことがあります。それは、各鉄道会社にはそれぞれの事情があり、すべての鉄道会社に対して同一の対策を講じるのは不適当である、ということです。

 例として京急電鉄を見ていきましょう。現在の京急電鉄に在籍する車両は3扉の18m車両か3扉車両対応のホームドアに対応している2扉18mの車両となっていますが、2019年6月までは4扉で18m車両の800形が在籍していました。その結果、京急電鉄は800形を全編成置き換えるまで大多数の駅へのホームドア設置ができず、ここ1,2年でようやくホームドアの整備を進めることができるようになりました。

京急電鉄800形

4扉という特性が仇となり急速に置き換えが進められた

 小田急電鉄も同様で、フラッグシップ特急であった50000形「VSE」がホームドアに対応していないことから、ホームドアをロマンスカーが通過する駅やロマンスカーが使用することのないホームにしか整備できていません。

 これらのことから、私は今回全鉄道会社、あるいは路線を三つに分けたうえで、それぞれの対応策を考えることにしました。

 初めに「既に車両の規格が路線内で統一されている主要路線・会社」における対応策です。これらにおいては、JR東日本が開発したスマートホームドアをベースにしたものを積極的に導入していくのがいいと思います。先述の通りスマートホームドアは軽量であることからホームの基礎を強化する作業が省けると推定されるうえ、工期の短縮にも貢献します。また、同形状のものを大量生産するとスマートホームドア一基当たりの生産コストを減らせるので、私鉄各社も同様の形状のものを整備していくといいと思います。

 続きまして「路線内で車両の規格が統一できていない、又は特急車両などのイレギュラーな車両が存在する場合」の対応策です。この場合は、先述の京急電鉄や小田急電鉄のように車両の規格を統一するというのが望ましいでしょう。しかし、ここ1年の新型コロナ感染症の世界的流行に伴う減収を考慮すると、大量の車両を導入して既存車両の置き換えを実施するというのは極めて難しいように思えます。よって、このケースでは主に関西圏で導入されている昇降式ホーム柵を導入するべきだと考えます。昇降式ホーム柵はドアの数や位置が統一されていない場合でも整備することができます。しかし、安全性の面からするとスマートホームドアや可動式ホーム柵が望ましいというのは否定できません。昇降式ホーム柵は可動部とホームとの間の間隔が広く、子供なら通り抜けて線路上に落ちてしまうということが起こりかねないからです。

したがって、現状は昇降式ホーム柵を導入したうえで既存車両の置き換え時期に車両規格を統一し、ホームドアの更新時期に到達した段階で可動式ホーム柵へ換装するのが良いと思います。

最後に「ホームドアを独力で整備することが難しい鉄道会社」におけるケースです。こういった鉄道会社ではまず固定式ホーム柵を全駅に導入するべきでしょう。固定式ホーム柵もあったほうが安全対策として間違いなく有用であり、可動式ホーム柵より大幅にコストを抑えることができます。

5.まとめ

・「既に車両の規格が路線内で統一されている主要路線・会社」はJR東日本が開発したスマートホームドアをベースにしたものを導入していくべき

・「路線内で車両の規格が統一できていない、又は特急車両などのイレギュラーな車両が存在する場合」は暫定的に昇降式ホーム柵を導入したうえで既存車両の置き換え時期に車両規格を統一し、ホームドアの更新時期に到達した段階で可動式ホーム柵へ換装する

・「ホームドアを独力で整備することが難しい鉄道会社」は固定式ホーム柵を全駅に導入するべき

6.さいごに

 関東地域では着々と整備が進められているホームドア。しかし、未だに関西圏においては関東ほど整備が進められていません。ホームドアの整備が完遂され、ホーム上からの転落事故が通年で0になる日を夢見て、この研究を締めさせていだたきます。

7.参考資料

・JR東日本

https://www.jreast.co.jp/

・東急電鉄

https://www.tokyu.co.jp/

・京王電鉄

https://www.keio.co.jp/

・小田急電鉄

https://www.odakyu.jp/

・京急電鉄

https://www.keikyu.co.jp/

・「関東の私鉄格差」小佐野カゲトシ著 河出書房新社


おことわり:Web公開のため一部表現を変更させていただきました。掲載されている情報は研究公開当時のものです。現在とは若干異なる場合があります。

浅野学園鉃道研究部 『停車場』アーカイブ

浅野学園の鉃道研究部が発行する部誌『停車場』のアーカイブサイトです。過去に発行された『停車場』を自由に閲覧することが出来ます。

0コメント

  • 1000 / 1000