鉄道路線の災害復旧について

1.はじめに

 新入生のみなさんこんにちは。高校二年の**です。鉃研の中ではPrime Plannerという部旅行や撮影会の企画をする役職についています。

 今回は鉄道路線の災害復旧について研究していきたいと思います。近年増加している地震や大型台風、集中豪雨などによって、列車の運行が困難になることが多々あります。また被害を受けたのが集客の見込めないローカル線であった場合、不通になった区間が廃止され、一時的な措置として運行されていた代行バスが、そのまま路線バスとして鉄道の代わりに運行されるというケースもあります。今回はそんな鉄道路線の災害復旧について考察していきたいと思います。

2.不通区間の現状

 今現在JRと私鉄を含め10路線の一部区間で不通になっています。次の表は不通路線と不通区間、また不通区間の距離を表した表です。


 この表のとおり多くの路線が採算の見込みが低いローカル線になっています。特にJR日高本線の鵡川駅~様似駅間の場合、災害発生から4年たっており、JR北海道は鵡川駅~様似駅間を2020年度を目途に廃止することを発表しました。

 また今年の3月22日まで東日本大震災の影響で不通になっていたJR山田線の宮古駅~釜石駅間は、経営が三陸鉄道に移管し現在は三陸鉄道リアス線の一部区間として列車が運行しています。またJR気仙沼線とJR大船渡線の不通区間では現在BRT(バス高速輸送システム)によって、不通区間の輸送需要を賄っています。また大船渡線は2015年に、気仙沼線は2016年に、それぞれBRTによる不通区間の本復旧に地方自治体が合意しました。

3.鉄道とバスの協調

 災害復旧の際、不通区間の沿線需要を補うのはバスになります。

 しかしこのBRTなどのバスには設備面で鉄道に劣るところがあります。例えば大船渡線や気仙沼線のBRTに使用されるにバスには、トイレなどの設備がついていないことが挙げられます。気仙沼線BRTには本吉駅でトイレ休憩が一回ありますが、大船渡線BRTにはトイレ休憩はありません。

 さらにBRTは交通事情などにより、鉄道のように時刻通り正確に走ることは不可能です。そのため時刻の調整のためにトイレ休憩の時間が削られることがあるかもしれません。それにより最長で気仙沼線の柳津駅~気仙沼駅間の約2時間をトイレなしで過ごすことになりうるのです。

気仙沼線BRTのバス。ごく一般的な路線バスと同じ車両でトイレなどの設備はついていません。

(提供:部員)

 またバスは先ほど述べた通り、鉄道のように時刻通り正確に運行できないという欠点がります。これによりバスと鉄道が接続を取ってくれていないということが稀にあります。交通事情によりバスが遅れ、接続予定の電車の出発を遅らせているときりがないため、接続を取らないということがあるそうです。このことが顕著に表れているのが常磐線の代行バスです。ダイヤ上では列車に合わせてバスのダイヤを組んでいますが、JR東日本の常磐線の不通区間代行バスのダイヤのページに注意書きとして「列車と列車代行バスの接続はしておりませんので予めご了承ください。」と記載されてあります。これはバスの時間の不正確性が原因だと考えられます。

 次の時刻表は常磐線の不通区間とその周辺の電車の時刻を表したものです。

 代行バス1便や7便は乗り換え時間が5分ほどしかなく、バスが交通事情により遅れた場合、接続が行われない可能性があります。このように代行バスによる輸送には大きな問題が付きまとうのです。

 さらにバスでの運賃の回収の仕方にも問題があるようです。BRTは除きますが、ほとんどの代行バスは一般の路線バスを使用しています。定期券や青春18きっぷを持っている場合はそれを運転手に提示すればいいのですが、そうでない切符で乗車する場合は事前に乗車する区間の切符を購入しなければならないという少々面倒な問題が発生します。改札機器がある駅から乗車する場合は別ですが、改札機器などがない駅から乗車する場合、事前に乗車する代行区間のバスの切符を購入しておくことが困難なため、利用客にとっては不便となります。

4.国からの補助金

 国による災害復旧の補助金には2種類あります。1つは鉄道軌道整備法に基づく災害復旧補助、もう1つは特定大規模災害等鉄道施設災害復旧補助です。ここではそれぞれについて解説していきたいと思います。

ⅰ鉄道軌道整備法に基づく災害復旧補助

 この補助制度は大雨や台風、地震、噴火などの天然現象によって直接的に列車の運行に支障をきたす災害が発生した場合、その被害を受けた鉄軌道事業者が自力での災害復旧が困難と判断された際に、この災害復旧に必要な費用の一部を国が負担するシステムです。このシステムの災害復旧の対象になる鉄道会社にはいくつか規則があります。条件を以下にまとめました。

・当該災害復旧事業の施行が、民生の安定上必要であること
・当該災害復旧事業に要する費用の額が、前事業年度における当該災害を受けた鉄軌道の運輸収入の1割以上の額であること
・被災年度前3年間における各年度の鉄軌道事業の損益計算において欠損若しくは営業損失を生じていること又は被災年度以降おおむね5年間を超えて各年度の全事業、または鉄軌道事業の損益計算において欠損若しくは営業損失を生ずることが確実と認められること
・当該災害復旧事業を補助を受けないで施行することとした場合に、その経営の安定に支障を生ずると見込まれること
・当該災害を受けた鉄軌道の収益のみによっては、当該鉄軌道の運営に要する費用を償い、かつ、当該災害復旧事業に要する費用を回収することが困難であると認められること


鉄道・運輸機構 Ⅶ国における鉄道助成制度より抜粋

 以上の条件を満たす場合のみ、補助が適用されます。補助額は工事にかかる費用の最大25%を国が負担するという制度です。通例この最大25%の国からの補助金と、地方自治体も工事費用の25%を負担し、そして鉄道会社が50%を支出し災害復旧工事を行っていくことになります。

 実はこの鉄道軌道整備法に基づく災害復旧補助は、はじめは赤字の鉄道事業者のみが対象になっていました。しかし平成30年8月の改正で、黒字事業者の赤字路線(たとえばJR東日本が運行する只見線など)にも適用されるようになりました。

ⅱ特定大規模災害等鉄道施設災害復旧補助

 この制度の概要としては、特定大規模災害*によって鉄軌道が被害を受け、鉄道会社自己資本のみで施設や設備の復旧が困難な場合、速やかな復旧と民生の安定のために災害復旧事業に要する経費の一部を補助するものです。

 この制度の条件は大変に複雑で多いため一部を抜粋しました。おおまかに以下の4つの条件を満たすことが必要になります。

・当該の路線の再生が周辺の地方自治体の民生の安定上必要であること
・復旧費用が鉄道会社の災害発生年度一年前の運輸収入以上の額であること
・復旧工事によって生じる財務的損失をその先の5年間で穴埋めできず、経営に支障をきたす
・災害発生年度の前年度末からさかのぼり3年間の損益計算において経常損失もしくは営業損失を受けている
鉄道・運輸機構 Ⅶ国における鉄道助成制度

 このように大規模災害等鉄道災害復旧補助は特別な場合でないと発動しません。

5.復旧の断念

 国からの補助金などの災害復旧を手助けするシステムなどがある中で、残念にも鉄道での復旧を断念する路線も少なくありません。前述したとおり、東日本大震災の津波の影響で不通になった大船渡線や気仙沼線の一部区間は列車での復旧を断念し、BRTでの復旧を決定しましたし、JR北海道の日高本線の鵡川駅以南の区間を廃線にすることを決定しました。このように鉄道での災害復旧を断念し、廃線にしたりバスでの運行に変更にしたりするという例は少なくありません。岩手県を走っていたJR岩泉線や宮崎県を走っていた高千穂鉄道などがそうです。こういった路線のほとんどはいわゆるローカル線で、乗客が少なく、復旧を再開しても採算が取りづらい路線なのです。そのため鉄道での復旧を断念し、廃線にし、バスでの運行に切り替えることもしばしばあります。

6.問題点

ⅰ地方自治体への負担

 現行の補助金の制度だと、周辺の地方自治体への負担は無視できないほど大きいものになります。それに加え地方自治体の災害後の財政は厳しいことが予想されます。そのような状況下で、さらに鉄道事業者へ復旧費を支払うことは容易なことではありません。そのため鉄道での復旧をあきらめ、廃線にしたり、バスでの復旧にするということになってしまうのです。そのため地方自治体への負担を軽減することが出きれば、より早急に復旧が可能になるのではないでしょうか。

ⅱ迂回や代行

 第3章で述べたとおり災害を受けた区間の代行バスや迂回路を確保することは、災害時にはとても重要になります。たとえば2018年に発生した集中豪雨による土砂崩れによって中国地方の輸送の大動脈である山陽本線が三原駅~白市駅間で長期間にわたり電車が運行できなくなりました。そのためJR貨物は九州地方からの貨物を下関駅から山陰本線、伯備線を経由させ岡山駅まで迂回するという手に出ました。なお、JR貨物は災害発生から約1か月半で迂回貨物の運転に漕ぎ着つけました。

 しかし被害を受ける鉄道の中には迂回路を確保することが困難な路線があるかもしれません。このような路線の迂回路として考えられるのが代行バスになります。しかしこの代行バスにも問題を抱えています。

 この特定大規模災害等鉄道施設災害復旧補助を適用する場合、今まで鉄道会社が所有していた鉄道施設を、地方自治体が保有したうえで、国が地方自治体にかかる復旧費の50%を支出することになっています。そのため地方自治体が背負う負担はとても大きいものになります。

 *特定大規模災害とは内閣に緊急災害対策本部が設置された災害のことを指します。過去には2016年の熊本地震、2011年の東日本大震災、1995年の阪神淡路大震災などがあげられます。

 先述の通り、バスは鉄道ほど時刻に正確に運行できないという欠点があります。気仙沼線や大船渡線のBRTには専用道路があり、幾分か正確に運行できます。しかし、他の代行バスの場合は一般道を走るため混雑や渋滞に巻き込まれる可能性があるため、時刻通りに運行できず、接続をとる列車が遅れてしまったり、常磐線のようにそもそも列車との接続を保証されないという事態になってしまうのです。

ⅲ復旧にかかる費用

 当然ながら被害を受けた路線を復旧するのには莫大な費用がかかります。実際当時の試算では気仙沼線を鉄道で復旧させるのには約700億円、大船渡線を復旧させるには約400億円かかるといわれていました。この金額にはもちろん高台移設などの工事費が含まれていますが、両路線を復旧させるのには合計約1100億円かかります。

 被災した路線が採算の取りづらいローカル線の場合、このような莫大な費用を使って復旧することにメリットがあるとはあまり考えられません。しかし地元の人は鉄道での復旧を望む声が多いのが現実です。ですが鉄道で復旧するのはコストがかかるため、採算が取りづらいローカル線においては鉄道での復旧が厳しいのが現状です。

7.改善点

ⅰ地方自治体への負担軽減

 前にも述べたとおり、鉄道の復旧には地元の地方自治体の協力が必要になります。第4章で述べた鉄道軌道整備法に基づく災害復旧補助では工事費の25%、特定大規模災害等鉄道施設災害復旧補助の場合は、地方自治体が被害を受けた鉄道会社の鉄道施設を復旧後に管理し、その上、政府からの補助金は50%のみで地方自治体も工事費の50%を負担しなければならないのです。ただでさえ災害で被害を受けているのに、そのうえ鉄道の復旧に工事費の25%ないしは50%を支出する必要があるのです。

採算の取れないローカル線が大規模災害にあった場合、主要な幹線と違い復旧にかかる費用に見合う分の利益を上げられるとは限りません。そのため私が提案したいのは、後述することになりますが、バスでの復旧を目指すことです。鉄道で復旧するための費用より、バスで同じ区間を復旧するほうが幾分か安価に抑えられます。地方自治体が支払わなければならない費用も鉄道での復旧よりも抑えることができます。

ⅱBRTへの移行の促進

 理想はやはり鉄道での全線復旧ですが予算の都合上そううまくいかないのが現状です。やはり、採算の取れる見込みが低いローカル線が被害にあった場合、復旧に莫大な費用を費やした後、思った利益が上げられず廃線に追い込まれるという可能性があります。

 そのため採算が見込めないローカル線の場合は、無理に鉄道での復旧をせずにバスやBRTでの復旧を目指すことが賢明だと思われます。鉄道会社と地方自治体との協議が必要になりますが、バスにすることにはさまざまなメリットがあります。

 1つ目は復旧の費用が安価であることです。大船渡線と気仙沼線を例に挙げますと、高台移設を含む両路線の総復旧費は約1100億円かかるのに対し、バスでは現状復旧費用が430億円で、鉄道よりも安く済むので金額面では鉄道よりも圧倒的に有利です。

 2つ目のメリットとしてバスのほうが、自由が利きやすいというところです。バスの停留所の設置についても、鉄道駅に加えて地元の主要施設に立ち寄ったりすることができ、地元の人の需要によりフィットした運行ができるというメリットがあります。

 需要に応じて本数を増やしたり、減らしたりでき、ここでもバスが持つ”自由度”を発揮することができます。

 3つ目のメリットとしてBRT専用道路の活用です。被害を受けた路線の線路を舗装し、BRT専用の道路として復活させることができるのです。気仙沼線や大船渡線では現在一部区間をBRT専用道路を走っており、これにより定時運行に近づけることができています。次の表をご覧ください。


 この表のとおりBRT専用道路を走行すれば一般道を走るよりも時刻に正確に走ることができるのです。これにより第3章で述べた問題も解決できると考えます。

 そのため国はローカル線が被災した場合、国は地方自治体や鉄道事業者に復旧のための補助金の割合を増やすなどしてBRTやバスでの復旧を促すべきだと考えます。

ⅲ早急な代行バス運転

 被災した路線の代行バスを早急に確保するのは大変に重要な問題になってきます。代行バスの運行に関しては地元のバス会社やJRバスなどのバス会社と、起こりうる災害に備えて代行バスをよりスムーズに運行できるように連携を取っていく必要があります。

8.おわりに

 いかがでしたでしょうか。今後南海トラフ地震や首都直下地震、さらには大型台風などの災害が、より高確率で発生するといわれています。いつ災害が発生してもおかしくないからこそ、こういった災害後の復旧に備えておくことは非常に意味のあることだと考えます。また今回は災害が起きた後のことをお話しましたが、災害が起きる前、つまり防災や減災についても今後非常に重要な意味を持つでしょう。

9.参考資料

国土交通省 鉄道の災害復旧補助について

http://www.mlit.go.jp/common/001246485.pdf

鉄道・運輸機構 ⅳ国における鉄道助成制度

https://www.jrtt.go.jp/02Business/Aid/pdf/bookGuide07.pdf

JR東日本公式ホームページ 気仙沼線・大船渡線BRT(バス高速輸送システム)

https://www.jreast.co.jp/railway/train/brt/

国土交通省 地方運輸局 気仙沼線・大船渡線のBRTによる復旧

http://wwwtb.mlit.go.jp/hokkaido/bunyabetsu/tiikikoukyoukoutsuu/68shinpojiumu/290612/06jrhigasi.pdf

JR東日本 JR常磐線(富岡駅~浪江駅「一部原ノ町駅」間)・列車代行バス時刻表

http://www.jrmito.com/eq/pdf/20180326_01_info.pdf

鉄道コム 鉄道長期不通路線マップ

https://www.tetsudo.com/traffic/map/


※おことわり:Web公開のため一部表現を変更させていただきました。掲載されている情報は研究公開当時のものです。現在とは若干異なる場合があります。

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