西武新宿線について

1.はじめに

 皆さん、こんにちは。中学3年の**と申します。みなさんは、各鉄道会社同士の直通運転を利用したことがあるでしょうか?主要路線ではほとんど行われているので、1度はあると思います。特に、都営浅草線を軸として相互直通運転を行う京急線・京成線や、東京メトロ副都心線を軸として相互直通運転を行う東急東横線・東武東上線・西武池袋線は非常に広いネットワークを形成しています。最近では、相模鉄道もJR線と直通運転を開始しました。関東の大手私鉄の主要路線はかなりの数が他社と直通運転をしています。

 が、そんな中、西武新宿線は、主に同じ西武鉄道の拝島線・遊園地線のみとしか直通運転をしていません(ただし、西武球場で試合などがあるときには池袋線・狭山線にも直通します)。都心側での直通運転はありません。

 おまけに、都心側の終着駅の西武新宿駅は他社線の新宿駅よりも少し北に位置していて、かなり不便になっています。そのため、多くの乗客は一歩手前の高田馬場駅で山手線や東京メトロ東西線に乗り換えています。

 今回は、首都圏大手私鉄路線の中で孤高の存在である、西武新宿線について研究していきたいと思います。

2.西武新宿線とは

 西武新宿線とは、東京都新宿区の西武新宿駅から、埼玉県所沢市の所沢駅を経由し、同県川越市の本川越駅までを結ぶ、西武鉄道の路線のことです。現在の区間がすべて開業したのは1952年です。西武新宿駅~脇田信号所(※)が複線、脇田信号所~本川越駅は単線となっています。

(※)脇田信号所:本川越駅から約900m離れたところにある信号所。この信号所から本川越駅までの間は単線になっています。駅設置の計画もありましたがが、地元住民の反対により中止になりました。

 車両は、特急「小江戸」用の10000系(ニューレッドアロー)、追加料金不要列車のほかに拝島ライナーにも運用される40000系、料金不要列車には2000系や新2000系、6000系、20000系、30000系が運用についています。このほかに、臨時列車(「52席の至福」など)として、4000系も入線します。

特急「小江戸」に使用される10000系

新2000系


西武新宿線・拝島線の路線図 △は乗車専用

(通勤急行は上りのみ、快速急行・拝島ライナーは下りのみの運行)


 途中の小平駅からは拝島線、東村山駅からは国分寺線・西武園線が分岐しています。また、所沢駅では西武鉄道のもう一つの主要路線である、西武池袋線とも乗り換えができます。ほかの鉄道会社との直通運転は行っておらず、東京メトロ・東急電鉄などに乗り入れる池袋線とは対照的です。

 池袋線と違い、新宿線は路線改良があまり行われてきておらず、そのかわり現在様々な計画などがあります。この研究では、まずこれらの計画についてみていきたいと思います。

3.西武新宿線の地下化・高架化計画について

 現在進行中の計画に、西武新宿線の地下化・高架化計画があります。東村山駅前後の区間を高架化するものと、中井駅~西武柳沢駅の区間を地下化・高架化するというものの二つがありますが、前者は現在すでに工事が進行中で、付近のほかの区間では連続交差事業の計画がなく、独立した計画なので、ここでは割愛させていただきます。

 後者についても、中井駅~野方駅の区間では地下化工事が進行しています。

 では、中井駅~野方駅の地下化ではどのような効果が得られるのでしょうか。最も大きい効果としては、沿線にある7つの踏切を廃止できるというものがあげられます。現在、西武新宿線は8時台に高田馬場駅を発着する列車で上り列車を25本、下り列車25本を運転して、非常に本数が多いといえます。そのため、列車が通過したばかりでもまた次の列車が接近し、なかなか踏み切りが開かない、いわゆる「開かずの踏切」になってしまっています。地下化することで、踏切を廃止でき、「開かずの踏切」問題を解決することができます。踏切がなくなることによって、踏切事故の発生もなくなります。南北の移動も活発化され、地域の一体化も見込めます。

 さらに、広場など、駅前の施設を充実させることやエレベーター・エスカレーターの設置で駅の利便性も向上できます。

 事業後の各駅の情報について、以下の表にまとめてみました。



 現在地下化工事のため通過線を1本廃止し、2面3線になっている沼袋駅の配線も元の2面4線に戻され、円滑な列車運行が可能になると思われます。

 中井駅~野方駅の区間が地下化されるのは2026年、工事が終了するのは2027年を予定しています。


地下化工事が進行中の沼袋駅


 中井駅~野方駅以外の、野方駅~西武柳沢駅の区間はどうでしょうか。このうちの、井荻駅~西武柳沢駅の区間は、東京都建設局のホームページで高架方式で事業を行うと明言されています。

 これに対して、野方駅~井荻駅の区間では建設方式がまだ検討中となっています。この研究では、どちらが適しているか検討していきたいと思います。

 まず、それぞれのメリット・デメリットについてみていきましょう。次の表をご覧ください。


 筆者は高架方式での建設がふさわしいと思います。理由としては、高架方式のメリットが大きく、デメリットに対してうまく処置していけばあまり大きな問題は発生しないと考えられるからです。

 では、どのようにしたら高架方式のデメリットをカバーできるかを考えていきます。高架方式で建設される井荻駅~西武柳沢駅の区間の事業パンフレットによると、列車の振動や騒音に関しては現状より高架化で改善されると見込まれ、さらにロングレールの採用や車両や線路の整備点検で振動や騒音の発生を極力抑えるよう努力できるので、地域住民と話し合えばあまり問題はないと思われます。

日陰の発生については、一部地域では法や条例の規制を上回る時間の日影が発生してしまうとみられますが、側道を設けたりして、建物に当たらないような工夫は可能です。

 景観の悪化は、西武新宿線沿線が住宅街になっていて、橋脚が町の景観に融和するので、問題はないと思います。

 逆に、地下方式で建設したときのデメリットの改善はほとんど不可能なので、高架方式のデメリットについてよく対策して建設するのがいいと思います。

 ただし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、経済が不安定になっているので、事業準備中の井荻駅~西武柳沢駅の区間で高架化が実施されるかどうかは今のところ不透明です。

 参考程度ですが、田無駅~花小金井駅の区間も事業の検討区間になっています。

4.西武新宿線のJR新宿駅乗り入れ計画について

 西武新宿駅は先述したとおり、ほかの鉄道会社の新宿駅から独立した場所に位置しています。そもそも、なぜ少し使いにくい位置に駅が存在しているか説明していきたいと思います。

 西武新宿線(この時期は「西武村山線」という路線名でした)は、戦前にすでに高田馬場駅まで開業していました。高田馬場駅から先、国鉄新宿駅まで延伸する計画があり(実際、事業免許も発行されました)、その前段階として仮駅として西武新宿駅が開業しました。この段階で、村山線は現在の新宿線に改称されました。続いて、新宿駅の東側に建設が予定された駅ビル(現在のルミネエスト新宿)の北側に駅を設置することが決定し、6両編成列車が2編成停車できるホーム設置が計画されました。

 しかし、その後西武新宿線の利用者が増加していったため、6両編成では乗客をさばききれなくなり、これに対してホーム長を変更するのは用地的な問題で厳しかったので、国鉄新宿駅乗り入れを断念し、高田馬場駅を軸として輸送力強化に注力していくことになります。ちなみに、計画上では山手線の新大久保駅付近に西武大久保駅を設置する計画もあったそうです。

 このような経緯があり、また新宿駅周辺は建物が密集しているので、路線をJR新宿駅に乗り入れさせることは厳しいと思われます。なので、ほかの方法で、乗り換え客の利便性向上を考えていくことが必要となります。その方法としては、ペデストリアンデッキの設置が考えられます。ペデストリアンデッキを設置できれば、道に迷うことなく、また屋根も同時に設置すれば雨にぬれることなく移動できます。乗り換え時間の見当がつきやすいというメリットもあります。設置の問題点としては、(ⅰ)用地の確保方法、(ⅱ)周辺の店舗に客が入りにくくなる、などが考えられます。それぞれについてみていきたいと思います。

(ⅰ)用地の確保方法

 もちろん、新しく建物を作るのですから、用地確保は問題になります。新宿駅の東口から西武新宿駅が入っている西武新宿ペペを結べればいいのですが、幸い、JR線の東側(西武新宿駅のある側)は道路があるのみなので、私有地に対する立ち退き問題はあまり多くは発生しないと思われます。建物への接続も、新宿駅側、西武新宿駅側いずれも大きな問題はないと思われます。あとは、交通整理を行いながら、慎重に建設していけば大丈夫だと思います。

(ⅱ)周辺の店舗に客が入りにくくなる

 西武新宿駅付近の歌舞伎町は、飲食店等が密集する商業エリアになっています。もし、ペデストリアンデッキが完成すると、それらの店を通過することになるので、店の業績が悪化してしまうことが考えられます。そのため、周辺の店舗などはペデストリアンデッキの建設に反対すると考えられます。

 しかし、筆者はあまり問題がない、むしろ良い効果をもたらすと思います。というのも、新宿駅との乗り換えが便利になれば、高田馬場駅から乗車していた人の多くが、西武新宿駅を利用し、西武新宿駅の利用者が増えると思われるからです。西武新宿駅付近を通る人が増えれば、各店舗の収入も増えるのではないでしょうか。



現在の多くの人の動きのイメージ

西武新宿駅付近のお店はスルーされがち


西武新宿駅と新宿駅が結ばれた後の人の動きのイメージ

お店に人が入るようになる!

 ペデストリアンデッキを建設するという方法のほかにも、新宿駅に直結する連絡地下道を建設するという方法も考えられます。この場合、用地の確保問題は小さくなり、また建物の改良もそこまで必要ではなくなりますが、代わりに建設費は高くなります。周辺の店舗にも、ペデストリアンデッキの例と同じようにそこまで悪影響はないと思われます

 まとめると、利便性向上のため西武新宿駅と新宿駅を結ぶペデストリアンデッキまたは直結地下道を建設するべきで、用地確保に関しては特に大きな問題はないと思われます。また、現在の高田馬場駅利用者の多くが西武新宿駅に流入すると考えられるので、周辺店舗にもメリットがあると思います。

5.西武新宿線の東京メトロ東西線乗り入れ計画について

 西武池袋線・有楽町線が東京メトロの有楽町線や副都心線に直通しているのに対し、西武新宿線は地下鉄との直通運転を行っていません。現在、西武新宿線から地下鉄路線に出るには、中井駅で地下鉄大江戸線に乗り換えるという方法と、高田馬場駅で東京メトロ東西線に乗り換えるという方法があります。しかし、前者については中井駅には各駅停車しか停車していないので利用しにくく、後者も乗り換え客が多く、ホームが非常に混雑してしまうので、いずれも便利であるとは言えません。

 この状況を解決するために存在するのが、東京メトロ東西線乗り入れ計画です。西武鉄道の現社長の喜多村樹美男氏の就任時に掲載された記事には、以下のような内容が書かれています。

――西武ホールディングスの株主総会では、新宿線沿線に住む株主から、「池袋線ばかり設備投資や開発が進んでいる。新宿線はどうなんだ」という質問がしばしば出ています。
 それはおっしゃるとおり。(中略)新宿線は西武新宿止まりなので、高田馬場で乗り換えて都心に向かう人が多い。そこにお客様の不満がある。都心乗り入れの可能性をどうあげていくかは当社にとっての大きなテーマ。株主総会でもつねに要望が上がっており、経営課題であるのは間違いない。
――西武新宿から延伸して都心に乗り入れるのですか。
いや、西武新宿より手前だ。高田馬場から東京メトロ東西線に乗り入れるとか、いろいろな選択肢がある。関係者が多いので、これから詰めていくことになる。
東洋経済オンライン『「新宿線―東西線直通」へ、西武社長の意気込み』より一部抜粋

 このように、西武鉄道は西武新宿線の東西線乗り入れに前向きな姿勢を見せています。この計画を実現させるには、下落合~高田馬場間など高田馬場駅の手前で分岐し、東西線に高田馬場駅手前で合流するという方法などが考えられます。しかし、建設方式以前にそもそもこの計画は実現すべきなのでしょうか。

 僕は、実現させるべきではないと思います。なぜなら、現在東西線はJR中央・総武線各駅停車(以下、総武線)や東葉高速鉄道と直通運転を行っていて、すでに複雑な運行体制であるからです(以下の図1)。これに西武新宿線が加わる(図2)と、行き先が煩雑化し、わかりにくくなるほか、運行範囲が大幅に広がるため、遅延発生時に収拾がつかなくなるので、逆に使いづらくなると考えられます。

↑図1 現在の東西線と、東西線にかかわる路線の路線図


↑図2 西武新宿線と東西線が直通運転を開始した時の東西線にかかわる路線図

 西武新宿線の改良の根本的事項は東西線直通ではなく、地下化・高架化やJR新宿駅へのアクセスの改良であると思います。

よって、東西線との直通運転はあまり妥当ではなく、都心アクセス改善には先ほど述べたJR新宿駅へのペデストリアンデッキを建設するなど、西武新宿駅の改良を進めていくべきだと思います。

6.西武新宿線のその他の計画について

 ここまで紹介してきたもののほかにも、西武新宿線にはいくつか計画・構想があります。それらについて軽く触れていきたいと思います。

①複々線構想

 西武新宿線にも、複々線化構想は存在していました。上石神井駅から西武新宿駅の間の地下に新しく急行線を建設し、列車本数の増加と踏切閉鎖時間の短縮を狙ったものです。中間駅は高田馬場駅のみ設置、地下急行線は他社線の新宿駅乗り入れをするという構想でしたが、混雑の改善などの理由より、1995年に事業の無期限延期が決定し、2019年に正式に中止されました。

②安比奈車両基地計画

 西武鉄道の廃線のひとつに南大塚駅から分岐していた西武安比奈線があります。この路線はもともと貨物線でしたが、1963年に休止されています。その後、①の複々線化構想で車両を多く必要とし、南入曽や上石神井の車両基地のみでは容量が不十分であることから安比奈線を車両基地として活用させようという目的で構想が練られました。しかし、南入曽車両基地が増強されたため、新しい車両基地が不要となり、2016年に計画が中止、2017年に安比奈線も正式に廃止されました。

7.西武新宿線の問題点

 ここでは、現在具体的な計画はないが、発生している問題についてみていきたいと思います。

①対川越輸送が優れていない

 次の表は、各路線の特定区間の列車の所要時間(目安)と運賃を示したものです。


※参考:新宿駅~池袋駅は山手線が約9分、埼京線・湘南新宿ラインが約6分、運賃は157円

 都心と川越を結ぶ路線には、西武新宿線のほかに、JR埼京・川越線や東武東上線などがあります。新宿エリアを出発地として考えると、西武新宿線の急行が最も運賃が安くなります。しかし、所要時間では東京メトロ・東武東上線のFライナーが最速で、特急「小江戸」よりも安く、かつ速くなっています。そのため、対川越輸送では、現在西武鉄道はかなり不利になっているといえます。

 ちなみに、池袋駅から西武池袋線を利用し、所沢駅から新宿線に乗り換え、本川越駅に向かうという方法も考えられますが、こちらも東武東上線より所要時間はかかってしまいます(うまく乗り継げれば約50分、特急列車を利用すれば約45分、運賃は東上線と同じになっています)。

②本川越駅手前の単線区間

 2.でも書きましたが、現在西武新宿線は本川越駅手前の約0.9㎞のみが単線になっています。実際に西武鉄道はこの区間の複線化の免許を取得しています。この部分も複線化できれば、現在よりも運行管理が楽になると思われます。

③速達列車への利用者の集中

 西武新宿線は、ラッシュ時間帯も含めて幅広く速達運転をしています。急行など、速達列車はいいのですが、各駅停車は所要時間が長くなっています(表)。特に、ラッシュ時間帯は速達列車に人が集中し、鷺ノ宮駅では各駅停車から速達列車に乗客が移動しています。鷺ノ宮駅ではこの移動が非常に激しく、ホーム上が非常に混雑し、速達列車では積み残しが発生することが日常茶飯事になっています。乗客にとっても不快であるうえ、ホーム上に乗客を詰め込む要員を設置する必要があり、また発車に時間もかかってしまい、定時運行が厳しくなっています。サービス向上や人件費のことも考えると、この問題について考えていく必要があります。


表 朝の西武新宿線の列車時刻表例

8.解決策

 各問題点に対する解決策についてみていきたいと思います。

①対川越輸送が優れていない

 この点についてできる解決策として、線形改良がまず考えられます。西武新宿線は、高田馬場~鷺ノ宮の区間に急なカーブが多く、スピードを落として運転しています。この区間の線形を改良できれば、スピードアップを多少は期待できますが、周辺が住宅密集地であるので、地下化工事の副産物で若干の改善が見込める程度のみだと思います。

 しかし、西武新宿線の所要時間が長い根本的な原因はこれではなく、そもそも西東京に向かってから北上して本川越駅に至るというコースになっていることであるといえます。先ほどあげた表をご覧ください。西武新宿線は、東武東上線に比べてかなり距離が長いといえます。そのため、線形上では西武新宿線が東武東上線などと対川越輸送で競合するのはかなり厳しいです。したがって、線形改良以外の方法での対策を考える必要があります。

 その方法として、まず運賃を下げるという方法がありますが、西武鉄道の運賃は他社に比べて極端に高いわけではなく、また下げすぎると減収につながるためあまり得策であるとはいえません。

 また、無料の速達列車を運行していくという方法も考えられます。実際、2020年3月14日のダイヤ改正で、土休日朝に快速急行が設定されました。しかし、快速急行を利用しても所要時間は約50分で、とても副都心線・東武東上線にかないません。通過駅の利用者はただ不便になるだけなので、運行する効果は希薄だと思われます。

 ただし、西武新宿線での川越アクセスには川越観光の中心地にもよりなのは本川越駅であり、川越に到着した後の徒歩移動が少なくなるというメリットがあります。現地での移動が少ないことは家族連れを中心に非常に大きなアドバンテージになるので、この点の強調は大切だと思います。

 また、特急列車の運行を強調していくという方法もあります。着席が保証され、快適に移動できることは、ビジネスで利用する人にとっても、休日に観光利用する人にとっても魅力的です。特急料金を下げるキャンペーンを行い、快適に移動できることを強調していけば、多少は利用者が集まるかもしれません。

 ただ、いくら運賃値下げをしたり、中心地に近い事のアドバンテージや特急の存在を強調したりしても、やはり時間面で東武東上線に勝ることはできないので、ある程度で対川越輸送には見切りをつけてしまい、JR線との競合があるが競争力のある拝島線方面に力を入れていくのがいいと思います(実際、西武鉄道も拝島ライナーの新設など、拝島方面への輸送に注力し始めています)。

②本川越駅手前の単線区間

 本川越駅手前の複線化についてですが、僕はその必要はないと思います。単線区間の周囲はすでに住宅街になっていて、複線化のための用地買収が必要となります。本川越駅手前は列車本数も減り、複線化することのメリットは小さいと思われます。メリットが小さいのに対して、費用をかけることは妥当ではないので、本川越駅手前の複線化は不必要だと思います。

③速達列車への乗客の集中

 この問題の解決方法としては、(ⅰ)列車の増発をする、(ⅱ)各停の利用を呼び掛ける、(ⅲ)千鳥停車を導入する、(ⅳ)車両を調整する、(ⅴ)時差通勤の強調などが考えられます。

(ⅰ)列車の増発をする

 まず最初に、列車の増発をするという方法が考えられます。列車が増発されれば必然的に混雑を緩和されますが、現在、西武新宿線は非常に多くの本数を運行しているので、現行設備のままでは増発は不可能でしょう。先ほど述べたように、複々線化は非現実的なので、地下化・高架化に合わせて待避線や折り返し設備を新設していくのがよいでしょう。

 また、列車増発のために保安装置を改良するという方法も考えられます。西武鉄道は現在、「西武ATS」という保安装置を使用しています。この保安装置はATSの中では割と多くの本数を運航できるようになっていますが、ATC化したほうがより列車を詰めることができるので、定時性確保や列車増発が可能と考えられます。しかし、車両や路線への投資額に対して、増発可能の本数は少ないので、すぐにこれ行う必要性はないと思います。

ATSとは、自動列車停止装置のこと。信号現示や線形などに合わせて車両を原則または停止させる装置である。
ATCとは、自動列車制御装置のこと。先行列車との距離や列車の進路などに合わせて、車内に信号を現示し、その現示に従って自動に速度を下げる装置である。 

(ⅱ)各停の利用を呼び掛ける

 速達列車から各停に利用者が移動すれば、速達列車の混雑は緩和できると思われます。しかし、ただ単に呼びかけるだけでは効果がほとんどなく、実際現在朝の鷺ノ宮駅では各駅停車の利用を促す放送をしていまが、やはり速達列車に利用者が集中しています。では、どのようにすればいいのでしょうか。

 筆者は、京急電鉄が実施している「KQスタんぽ」のようなサービスを西武鉄道でも導入すればいいと思います。このサービスは、京急線で朝ラッシュ時間帯に快特や特急などの速達列車は非常に混雑しているのに対して、普通列車はかなり空いている、という状況を改善するために導入されているものです。スマートフォンアプリの「KQスタんぽ」で、対象区間(平和島駅~鮫洲駅、青物横丁駅~品川駅)のそれぞれの区間で、車掌の放送に合わせてスタンプを取得すると、翌日自動的に登録した京急プレミアムクレジットカードに20ポイントが付与されるというものです。付与されたポイントは京急プレミアムポイント加盟店で500ポイント単位で利用することができます。


 このように、下位種別を利用した乗客にポイントを付与すれば優等列車の混雑改善につながるといえます。しかし、ポイントを付与しすぎると今度は下位種別に乗客が集中してしまい、混雑の均衡化にはつながりません。どれくらいのポイントを付与するかのさじ加減が大事となるのですが、導入時にはどのくらいの乗客がサービスを利用するか読めないので、まずは付与されるポイントの量を少なくするべきだと思います。そこから、利用者数に合わせて随時付与するポイントの量を変えていけばいいと思います。

 少なくとも、西武新宿線は各駅停車の利用者数が極端に少ないわけではないので、付与するポイントは京急線よりも少なくなると思われます。

(ⅲ)千鳥停車を導入する

 西武新宿線と並び、西武鉄道の主要路線である西武池袋線では、「千鳥停車」と呼ばれる、あえて主要駅を通過する種別が設定されています。例えば、西武池袋線の追加料金不要の最上位種別である快速急行が停車するひばりヶ丘駅をそれより下位種別である通勤急行が、石神井公園駅を同じく下位種別である通勤準急が通過しています。これにより、乗客をうまく分散させようという方法です。

 西武新宿線でも、実は以前、千鳥停車を行う快速や通勤急行(現在の通勤急行とは停車駅が異なります)が存在していました。どちらも基本的には急行停車駅に停車していましたが、快速は上石神井駅、通勤急行は鷺ノ宮駅を通過していました。しかし、2001年のダイヤ改正で快速は廃止、通勤急行は現在の停車駅に変更となりました。

 これらを復活させればいいのではないかと思われますが、再導入したところで各駅停車に乗客が流れることはなく、結局速達種別が混雑してしまうので、意味がないと思います。

(ⅳ)車両を調整する

 現在、西武新宿線の通勤車両には、2両、4両、6両、8両、10両編成の列車が混在しています。2つ以上の編成を連結して運転すると、使用されていない運転台の部分だけ定員が減ってしまうため、混雑悪化を招いてしまいます。ただし、新宿線に所属する車両のうち、2両、4両、6両編成の車両は、割と古い部類となる2000系、新2000系のみとなるので、今後車両の老朽化による置き換え時に8両編成または10両編成に統一すべきだと思います。

(ⅴ)時差通勤の強調

 時差通勤が進むとピーク時の乗客自体が減るので、列車ごとの混雑均衡化にはなりませんが、速達列車を含めた全列車の混雑緩和にはつながります。

 東京都は近年、時差通勤を進める時差Bizという働き方改革を推し進めています。時差通勤が定着すれば、速達列車の混雑率も自然と下がっていくと考えられますが、社会全体を変えていくことになるので、すぐに効果は出ないと思います。

 しかし、個人単位での行動を変えることを促すことはできると思います。例えば、朝早くの電車に乗って都心に向かうことのメリットをまとめたポスターを掲示したり、テレビでメリットを放送したりすることはそこまで難しくありません。また、各停の乗客に付与するポイントとは別に、時差通勤に協力した乗客にポイントを付与するとある程度の効果があると思われます。

9.まとめ

・野方駅~井荻駅、井荻駅~西武柳沢駅間のどちらの区間も高架方式で建設するのがよい。ただ

し、財政状況によっては事業内容に変更が出る可能性もある。

・ペデストリアンデッキ、地下通路どちらの方式かで西武新宿駅と他社線の新宿駅をつなげると利便性が向上し、西武新宿駅付近の町がより活気づく。

・東京メトロ東西線との直通運転は、行先の煩雑化の防止や遅延等の影響を少なくとどめるため、するべきではない。

・対川越輸送で東武東上線と競合しているが、経由地の都合上、所要時間で太刀打ちするのは厳しい。特急列車の運行の強調や、JR線と競合している対拝島輸送に注力していくべきだ。

・本川越駅手前の単線区間は無理に複線化する必要はない。

・各停と速達列車の混雑均衡化のためには、各停に乗車した乗客にポイント付与などをするとよい。


10.おわりに

 まず、西武新宿線を丸ごと研究対象にしてしまったので、いまいち研究の内容にまとまりがないように自分では感じています。次回以降はもう少し内容を絞っていこうかな...

 世間では池袋線より発展が遅れていると見られがちの新宿線ですが、少しレトロな電車がバリバリの現役だったり、面白いラッピング列車(今はドラえもんですね)が走っていたりと乗っていて楽しい路線です。一度は乗りに行ってはいかがでしょうか?

 最後に...

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!!!

11.参考

西武鉄道

https://www.seiburailway.jp/

京急電鉄

https://www.keikyu.co.jp/

中野区

https://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/

中野区議会

https://kugikai-nakano.jp/

東京都建設局

https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/

東京都都市整備局

https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/

東洋経済

https://toyokeizai.net/

乗り物ニュース

https://trafficnews.jp/

産経ニュース

https://www.sankei.com/


おことわり:Web公開のため一部表現を変更させていただきました。掲載されている情報は研究公開当時のものです。現在とは若干異なる場合があります。


浅野学園鉃道研究部 『停車場』アーカイブ

浅野学園の鉃道研究部が発行する部誌『停車場』のアーカイブサイトです。過去に発行された『停車場』を自由に閲覧することが出来ます。

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