JR北海道の未来を見据えて

第1章 はじめに

 皆さんおひさしぶりです。今回から復活しました**です。ほぼ3年ぶりに研究を書きますのでいろいろとわかりにくい所や日本語が間違っている所もあるかもしれません。今回の研究のテーマはずばり「JR北海道」についてです。近年経営難が叫ばれているJR北海道ですが、経営再建を達成するためにはどのようなことが必要なのか、書いていきたいと思います。なお、この研究で僕が言及するのはあくまでもJR北海道単体としての経営再建のみです。JR北海道のグループ会社については言及しません。ご了承ください。

第2章 JR北海道の特徴

資本金    90億円(2016年6月1日現在)
従業員数    6,797人(2018年4月1日現在)
主要株主   鉄道建設・運輸施設整備支援機構 100%

 まず初めに資本金90億円についてです。90億円と言われてもピンと来ないかもしれませんが、全国に7社あるJRグループ各社の資本金は次の通りで、JR北海道はJRの中でもかなり規模が小さいということがわかります。

 従業員数についてですが、JR北海道発足時、社員の数は約13000人だったことを考えると人員が半分程度削減され、人件費の削減を図っているとわかります。また主要株主が鉄道建設・運輸施設整備支援機構 100%となっていますが、そもそもこの機構は独立行政法人であり国土交通省の管轄下にあるため、JR北海道はこの機構を介してすべての株を日本政府が保有しているということになります。これがどういうことを意味するのかというと、資本金はすべて税金で賄われているということであり、また全ての株を保有している鉄道建設・運輸施設整備支援機構が経営に関して影響力を持っているということです。ちなみに、完全民営化を達成しているほかのJR4社はすべての株を民間企業が保有しており、JR北海道の完全民営化への道は遠いといえます。

第3章 現在の経営状況

 この章では、JR北海道がいまどのような経営状況なのか解説していきたいと思います。2017年度のJR北海道の経営状況を分かりやすく表で表すとこうなります。

※1 減価償却費とは、不動産などの大きな購入をするときに、その全額を決算のなかに入れてしまうとその年の決算が大赤字になってしまうため、購入したものを資産として考えて、減っていくその資産の価値を1年ごとに支出としてカウントすること。
※2売り上げから本業にかかったコストを差し引いたものを営業利益といい、この営業利益に財務活動などの本業以外の損益を加えたのが経常利益です。一般的に経常利益は企業が通常の経済活動で毎期に経常的・反復的に生じる利益です。企業本来の本業における強さを見るときには営業利益を見て、財務活動などを加えて企業全体の強さを見るときに経常利益を見ることになります。これから各年度の業績を比較する時は原則として経常利益で比較することとします。

 この表を見ると、営業利益をみると525億円の赤字と経営が非常に苦しいことが読み取れます。また、事業以外で得た収入(以下営業外収益)が325億円と非常に多く、これの利益で多額の赤字をカバーしていることがわかりますが、このお金の大部分は「経営安定基金」と呼ばれるJR北海道発足時に定められた国からの補助金によるものです。まとめると、JR北海道の収支は補助金による収入を考慮しなければ多額の赤字を抱えていて、企業の経営状況としては非常に苦しいことがわかります。

 次にJR北海道発足時からの年度別収支をグラフで表すとこうなります。相次ぐ不祥事によって経営状況が悪化してきた2011年からは全年を載せています。それまでの収支は5年ごとに載せています。図の中の運用収益とは、経営安定基金による収入だと思ってください。

 このグラフから、近年の不祥事の多発によって経営状態が悪化していることがわかります。また、前述した2017年度を含めJR北海道の収支は経営安定基金にかなり左右されている、ということがわかります。経営安定基金の運用収益が少ないときは経営が悪化し、運用収益が多いときは経営が好転しています。運用収益は年によって変動(全体的に低下傾向)するのでJR北海道の経営は安定しておらず、むしろ悪化していると言えるでしょう。

第4章 経営難の原因

 この経営難の原因はいくつかあります。そこでこの章では、原因を北海道の鉄道の歴史とともに時系列順に述べて、どうしてこのような状況になってしまったのか考えていきたいと思います。

A 国鉄分割民営化以前①

 明治時代に北海道初めての鉄道が開通して以来、北海道の鉄道は旅客輸送・貨物輸送ともに非常に栄えていました。このころは道路の整備よりも鉄道の整備が日本各地で推奨されたために道路は使いやすいものとは言えず、人々はみな鉄道を使っていました。また、貨物輸送も炭鉱から産出される石炭輸送により繁栄していました。炭鉱業が最盛期を迎える1960年ごろに北海道の鉄道は旅客・貨物輸送とともに最盛期を迎えたといっていいでしょう。

B 国鉄分割民営化以前②

 1960年代後半から貨物輸送において、稼ぎ頭であった石炭輸送がエネルギー革命によって炭鉱業自体が不振に見舞われ、輸送量は年々低下していきました。北海道の地方線区の多くが炭鉱からの石炭輸送と炭鉱周辺に住んでいる住民の旅客輸送から成り立っていたため、二重の輸送量減少に苦しみました。その頃日本各地では走りやすい道路の整備が推進されるようになりました。さらに、自動車の低価格化に伴い自動車は一気に大衆化し、人々の移動手段はだんだんと鉄道から自動車へと代わりました。俗に「モータリゼーション」と呼ばれるこの現象が日本各地で起こり国鉄の経営を圧迫していきました。そこで、国鉄はバス転換が望ましいとされる赤字路線を「赤字83線」として指定し廃止を行いました。北海道では2路線が廃止されました。このように地方の鉄道は苦境に見舞われていたにもかかわらず、日本鉄道建設公団※による地方の鉄道建設は着々と進められました。もともと採算の取れないと見込まれていた路線を次々に押し付けられた国鉄の経営は悪化していきました。

※日本鉄道建設公団とは、国鉄を路線の経営に集中させるため、本来国鉄が担当していた新線建設業務を引き継ぎ1964年に発足した特殊法人。建設した線区は国鉄に貸し付けまたは無償譲渡されたが建設した線区の多くは採算が取れない赤字ローカル線であり、国鉄が採算が取れないことを理由に引き受けを拒否した線区(白糠線、油須原線など)さえあった。

C 国鉄分割民営化以前③

 1980年代になると、道路の整備が全国と比べて遅れていた北海道でも道路の整備が行われモータリゼーションが進行しました。加えて、道内の各空港が滑走路延長などの改良工事を行ったり、新たな空港が開港したりして本州から北海道のメインルートであった鉄道と青函連絡船を利用するルートから乗客を奪っていきました。また、新千歳空港から道内各空港への路線も設定され、鉄道からシェアを奪っていきました。例を挙げると以下のような空港が改良されています。

 また、1980年、国鉄再建法が成立し、1977年度 - 1979年度の平均の輸送人員等によって国鉄路線を「幹線」「地方交通線」に分類、さらに地方交通線のうち輸送密度が4,000人/日未満である路線はバスによる輸送を行うことが適当であるとして「特定地方交通線」に指定し、廃止対象としました。ここから採算が取れない赤字ローカル線の一斉廃止が始まります。北海道では、以下の路線が廃止されました。

 なお、特定地方交通線の廃止は国鉄分割民営化とともに行われたと認識されることがありますが、国鉄分割民営化は1982年7月末の答申によって行われた(後述)もので、まったく別の政策です。

D 国鉄分割民営化後

 前述の国鉄再建法によって特定地方交通線の廃止が進められている最中の1982年に国鉄分割民営化の提案がなされました。それまで政府は国鉄単独での経営再建を目指していましたが検討の後それはあきらめられ、国鉄を分割民営化することが決まりました。その結果、北海道地区の国鉄路線網はJR北海道として再スタートを切ることになりました。JR北海道は不採算路線を多く抱え、当初から経営は厳しくなるだろうと予想されていました。そこで、政府はJR北海道に対して6800億円に上る国債を発行し、国債の利子による収入でJR北海道の経営を安定させることにしました。これが経営安定基金です。また、国鉄が抱えていた巨額の債務のうちの一部は、JR東日本、JR東海、JR西日本、JR貨物、新幹線鉄道保有機構(1991年解散)が返済することになりましたが、経営難の予想されたJR北海道はJR四国、JR九州とともに、債務の返済を免除されました。

E 発足から2000年あたりまで

 1987年に発足したJR北海道は当時バブル景気の最中だったことも有り、経営は想定よりも堅調に推移していました。また、1988年に青函トンネルが開通し、本州・北海道間の輸送においてシェアを奪われていた航空機から若干取り返すことが出来ました。しかし、1991年にバブル景気が崩壊するとJR北海道にも徐々にその影響が出てきました。観光客の減少により旅客輸送収入が減少しました。また、かねてより起きていた札幌圏への人や企業の集中が加速し、北海道の地方都市は人口が軒並み減少、それにより乗客数も札幌圏以外で減少し、地方線区の収益は悪化しました。1997年、ついに北海道全体での人口減少が始まり、地方線区の乗客減少に歯止めがかからなくなりました。

F 2000年から現在まで

 前述のとおり、地方線区の乗客は減少の一途をたどりましたが、札幌から各地方都市への特急列車は好調だったことや、懸命な営業費用削減(人件費の削減、保守費用の削減など)によりJR北海道は何とか持ちこたえていました。その結果、1998年度から2009年度までリーマンショックの影響があった2008年度を除き黒字を計上しています。そんな中、2011年に石勝線特急列車脱線火災事故が発生し、経営は急激に悪化します。そのあとの経営状態は前に示したグラフの通りです。この事故からのJR北海道の動向を表にまとめてみました。

G その他の原因

 まず、貨物列車がJR北海道の経営を圧迫していることについて説明します。そもそも、貨物列車はJR北海道とは違うJR貨物によって運行されています。JR貨物は貨物列車を走らせる時にJR各社の線路を借りて運行しているので、JR各社に対して線路使用料というものを支払っています。この線路使用料の算出方法がきわめてJR貨物に有利な算出方法となっています。たとえば、JR貨物はJR北海道に対して線路の除雪費用などは支払っていません。このようなことから実際に支払われている線路使用料(16億~17億円)に対して、実際の負担費用は10倍以上になっているとされています。また、青函トンネルについても同じことが言えます。青函トンネルには旅客列車だけでなく貨物列車も多数運行され、天候に左右されずに安定して農作物などを輸送することが出来るようになりましたが、これらの貨物列車はトンネル自体の維持費などは払っておらず、JR北海道がトンネル自体の維持費年間4億円程度と設備部分の維持費年間8億円程度の大部分を支払っています。

 2つ目に、自然災害からの復旧費用が経営に重くのしかかっていることが挙げられます。たとえば、2016年に起きた台風による災害では、32億円の減収と復旧費用34億円、合計で約66億円の損失となっています。また、2018年6月に起きた北海道胆振東部地震でも相当の被害と損失が起きています。

 3つ目に、JR北海道が発足した時と比べ、経営安定基金の運用益が減少したことも経営悪化の原因となっています。具体的な金額で言うと、発足時(1987年)に498億円あった基金の運用益は2017年には255億円にまで減少しています。減少分を補填するため、表に書いてある通り2011年度から経営安定基金が55億円分増額されました。

 4つ目に、高速道路網の整備が挙げられます。JR北海道発足時北海道内の高速道路の総延長は167kmでしたが、2016年6月には約6.5倍の1093kmとなりさらに近年は無料で利用できる区間が増えています。それに伴って札幌圏から地方都市へ向かう特急列車は高速バスとの激しい競合にさらされています。北海道内の自動車保有率も上昇を続けていて、道路交通は鉄道の最大のライバルであるのかもしれません。

 最後に、バブル崩壊以後、北海道経済が低迷していることも要因として挙げられます。例えば、北海道民の1人あたりの平均年収は約411万円と、全国平均の約432万円を下回っています。

 というわけで、長く書いてきましたがここまで書いてきた北海道の鉄道の苦境の原因をまとめると以下のようになります。

①モータリゼーション
②新たな航空路線との競合
③高速道路の開通による高速バスとの競争激化
④北海道全体の人口減少
⑤自然災害
⑥経営安定基金の運用益低下
⑦北海道経済の不況

 このように、やはり収益が悪化してしまった原因はたくさんあります。皆さんもJR北海道がいかに逆境に立たされているかが分かったのではないでしょうか。

第5章 JR北海道がとるべき対策

 では、JR北海道は具体的にどのような対策をとればよいのでしょうか?鉄道輸送は他の交通機関と比べて以下のような特徴があります。


※柔軟性とは、需要に応じた経路変更や停留所・駅の新設のしやすさを指す。鉄道はレールの上しか走れないため経路変更がしにくいが、バスは道路があれば走れるので経路変更がしやすいと言える。

 この表からわかる鉄道の強みをまとめると、大量輸送・高速輸送・定時輸送の3つです。筆者はやはり鉄道の強みを生かしてほかの交通機関に対抗していくことが大切だと考えます。逆に言えば、この鉄道の強みが生かせないと思われる区間は原則として他の交通機関への転換が望ましいと言えます。考えられる対策を挙げてみました。

対策A 不採算路線の処分

 JR北海道はすでに2016年に「当社単独では維持困難な線区について」を発表し、JR北海道が運営している路線を以下のように分けました。

※北海道高速鉄道開発とは、高速化事業を行った線区の地上設備や車両を保有し、JR北海道に貸し付けている第三セクター型の会社。JR北海道が半分の株式を保有しているほかは北海道やその他の市町村が出資している。

輸送密度200人/日未満の線区

対象線区は以下の通りです。

・札沼線 北海道医療大学~新十津川

・根室本線 富良野~新得

・留萌本線 深川~留萌

 この区間は筆者も廃止の後バス転換が望ましいと考えます。輸送密度(1日1km当たりの平均輸送量のこと)が200人/日以下の区間は国鉄分割民営化の時の廃止基準が4000人/日未満だったことを考えるとこれらの区間は輸送密度が非常に低いといえます。よって鉄道の強みである「大量輸送」がそもそも必要ないと思われる線区です。100円儲けるのに必要な経費を表す営業係数はそれぞれ2213、1854、1342となっており(つまり100円を設けるのにそれぞれ2213円、1854円、1342円必要)、採算も取れていません。

輸送密度200人/日以上2000人/日未満の線区

対象区間は以下の通りです。

・宗谷本線 名寄~稚内 ・根室本線 釧路~根室

・根室本線 滝川~富良野 ・室蘭本線 沼ノ端~岩見沢

・釧網本線 釧路~網走 ・日高本線 苫小牧~鵡川

・石北本線 新旭川~網走 ・富良野線 旭川~富良野

 この区間のうち、根室本線の滝川~富良野間と富良野線の旭川~富良野間は結んでいる区間を考えると共に函館本線から富良野を結んでおり、どちらか1つの路線があれば十分であると思います。どちらを残すのがよいかと考えると、言うまでもなく富良野線です。富良野線は北海道第二の都市の旭川に通じていることや観光列車が運行されていること、これらのことから営業係数がよいことが理由です。

 上記の根室本線を除く区間は、営業係数が約300~1000程度と赤字路線となっていますが、北海道の輸送網の骨格をなしている路線も多く、冬季に並行する道路や航空路線網などが使えなくなった場合、影響を受ける貨物や旅客も一定数いると考えられます。また、特急列車が運行されている路線もあり、以上のことを勘案すると廃止は望ましくないと筆者は考えます。よってこの区間には「上下分離方式」を導入することが最適です。

 そもそも鉄道における上下分離方式とは、鉄道を運行するために必要なインフラ(土地、線路、信号機、トンネル、橋梁など)を行政が保有・整備・保守し、それを鉄道会社が借り受けるなどして運行・運営のみを行う営業形態をとることです。この方法を取ることにより、運行設備の維持管理を行政側が費用を出すことで鉄道会社側の費用と手間が省けるようになります。その結果、運行経費が削減され、赤字が改善されます。また、上下分離方式の導入によってその路線の経営が好転しただけでなく、鉄道が危機に立たされているという意識が住民に芽生えたことで鉄道を利用しようという意識が増し、鉄道会社が行うイベントなどの参加者が増えたりするなど良い効果が生まれている事例が多くあります。上下分離方式はその種類もいろいろあります。上下分離方式を導入した日本全国の鉄道路線の例を見てみましょう。以下の表を見て下さい。

 表に書かれているように、行政側が費用を負担するのみで実際の作業は鉄道事業者がする方式や、行政側が設備を保有して、実際の作業も行政側がしてしまうタイプがあります。全体的に、赤字額が大きい路線ほど行政側がすることが多くなる傾向にあります。例えば、表に書かれている若桜鉄道線は2012年までは行政による保有は運行設備のみでしたが、それでも経営が苦しくなり2012年から行政側が車両も保有しています。今後の車両の更新時も行政側が費用を全て出す予定です。

では実際にこれらの区間に上下分離方式を導入する時どのような手法を取ったほうが良いのでしょうか。

 各線の営業係数が全国の上下分離方式を導入している事業者と比べてもかなり悪い(ほぼすべての事業者が100~300台)ことから、筆者は前述した若桜鉄道線の手法を取ることが望ましいと思います。若桜鉄道線では、路線の設備を沿線の2つの自治体が直接保有しています。しかしこれらの区間は路線の沿線自治体が多数あるので、若桜鉄道線のように直接保有しようとすると混乱が発生する可能性があります。そこで、沿線自治体や北海道、JR北海道が運行設備を保有・維持・管理するための会社(以下新会社)をつくり、それにそれぞれが少しずつ出資する形にすればよいのです。

 この方法を導入すると、車両の保有までを別会社がするようになり、そうするとJR北海道が保有している形式との互換性が損なわれてしまう恐れがあります。よって、互換性を持たせるため、JR北海道に新会社へのある程度の影響力が必要です。これはJR北海道が新会社の筆頭株主(会社の株を最も多く保有している株主)となることで解決します。

すでに話し合いを始めている線区

対象区間は以下の通りです。

・石勝線 新夕張~夕張(通称 夕張支線)

・日高本線 鵡川~様似

 これらの区間は話し合いが進んでいて、前者は2018年(平成30年)3月23日、夕張市とJR北海道は夕張支線(新夕張駅 - 夕張駅間)16.1kmの鉄道事業廃止について、

・鉄道事業廃止日を2019年4月1日とすること
・JR北海道は夕張市で持続可能な交通体系を再構築するための費用として7億5000万円を拠出すること
・JR北海道は夕張市が南清水沢地区に整備を進めている拠点複合施設に必要となる用地を一部譲渡すること

という3つの条件で最終的な合意に至り、後者については2015年の線路流出をきっかけに周辺の自治体と協議を進め、かなり難航しましたが2016年11月に復旧を断念し2020年を目処に廃止することを発表しました。

対策B 不要な設備のスリム化

 不要な設備のスリム化とは、「もう使われなくなった設備を縮小する」ことです。JR北海道の路線の中には現在は石炭輸送の衰退に伴って使われていない、かつて石炭輸送が全盛だったころの良い設備(複線区間、駅構内の多くの引き込み線、貨物列車が通れる頑丈な線路など)がいまだに残されているところがあります。本来ならより少ない設備で列車が運行できるにもかかわらず設備が残っているため、費用が余計にかかっていることになります。維持費をできるだけ削減するため、不要な設備のスリム化は急務です。

 スリム化を行うべきであると筆者が考える線区・駅はたくさんありますが、1つ目の例として「輸送密度200人/日以上2000人/日未満の線区」において前述した室蘭本線の沼ノ端駅~岩見沢駅間が挙げられます。この区間は現在、1日に貨物列車と旅客列車を合わせて沼ノ端方面に13本、岩見沢方面に10本のみ運行されていますが、それに対してこの区間の全長約67kmのうち約40kmが複線区間となっています。本数を考えると間に交換駅(すれ違いができる駅)が1~2駅あればさばける本数であり、余計な設備がかなり残っています。複線区間の単線化を進めるべきです。

 2つ目の例としてJR北海道が単独で維持可能としている室蘭本線の室蘭~沼ノ端間の電化設備が挙げられます。この区間は全列車が気動車の特急「スーパー北斗・北斗」と全列車・全区間ディーゼル機関車けん引の貨物列車以外に、2012年のダイヤ改正までは特急「すずらん」とほぼすべての普通列車の2種類が電車を使用していましたが、2012年のダイヤ改正以後はワンマン運転を可能にするためと編成を短くするため、普通列車にも気動車が使用されるようになりました。これによって電化区間であるにもかかわらず電化設備を利用するのは1日6往復の特急「すずらん」のみとなり、せっかくの電化設備が無駄になっている感は否めません。電化設備を残しておくと、架線や架線柱、変電所などに余計な維持管理費がかかってしまうので、すずらんにJR北海道が気動車特急の標準車両としているキハ261系を投入し、この区間の電化設備を廃止することが必要だと思います。

対策C 新型車両の導入

 JR北海道の旅客輸送の大部分を担う普通列車用気動車は、1995年に老朽化したキハ22形の淘汰などを目的にキハ150形27両を投入した後、1997年に事故廃車の補充としてキハ160形1両、札幌圏の通勤輸送に特化したキハ201系12両を投入したのみで、これ以外に普通列車用気動車については本格的な新造車の量産・投入を行わず、引き続き国鉄時代に製造されたキハ40系気動車やキハ54形が普通・快速列車の主力車両として用いられてきました。

 このため、2017年3月時点で保有する一般型気動車の経年は平均33年、うち、キハ40形については経年が平均36年、初期車13両は40年に達し老朽化が進行し、部品の生産中止によるメンテナンス上の課題が生じています。

 よって、JR北海道の地方非電化線区の営業費用を削減するためには、従来の車両を更新工事する方法と、新たに環境性能の高い普通列車用気動車を導入する方法が考えられます。環境性能の高い気動車とは、例えばハイブリッド気動車や蓄電池車両などがありますが、これらの車両はまだまだ発展途上の技術のため、調達価格が高くなる傾向にあります。経営の厳しいJR北海道にとってあまり高価な車両は購入できません。よって、調達価格を抑えられ、かつ環境性能が従来の気動車と比べて向上している「電気式気動車」が導入に適していると思います。

 この電気式気動車(以下電気式)は従来広く日本の気動車に用いられてきた液体式気動車(以下液体式)とは仕組みが大きく異なります。仕組みについて簡単に説明すると、従来の液体式がエンジンを回してその回転を変速機を通して車輪へ伝えるのに対し、電気式はエンジンを回して発電機で電気を起こし、その電気でモーターを回して走ります。わかりやすく自動車で言うと、液体式が従来のガソリン車で電気式は日産が開発したe-powerのようなものです。

 電気式は液体式と比べ、以下のような特徴を持ちます。

 何が言いたいのかというと、電気式は液体式に比べ優れた方式であり、この方式の気動車を導入することで営業費用の削減を見込めるということです。H100系の導入によって国鉄時代に製造されたキハ40系やキハ54形を淘汰していき、非電化線区での営業費用削減を図ります。すでに、JR北海道は老朽化したこれらの車両の置き換えを目的として2018年にJR東日本の電気式気動車GV-E400系をベースとしたH100形気動車を走行試験用にまず2両製造しました。2019年度から順次キハ40系の淘汰を進めていく予定でしたが、その後走行試験を続けていましたがその数か月後に資金繰りが見通せなくなったとして2019年からの導入を断念したと報じられました。

 しかし、旧型車両の経年劣化は否めません。このまま車両を更新していかなければメンテナンスコストが余計にかかるだけでなく、最悪の場合事故が起きてしまう可能性があります。

 ここで上下分離方式の利点が生きてきます。上下分離方式によって車両への投資のほとんどが各自治体の予算によって賄われるため、JR北海道の負担がほぼなくなります。よって、従来に比べて非常にスムーズに新型車両への移行ができるようになるでしょう。

 余談として、現在JR東日本ではすでにH100系の原型であるGV-E400系の導入が秒読み段階となっており、GV-E400系と同じ時期にH100系を製造すれば量産効果によって車両の単価が下がりますが、この機を逃すと車両価格が増額してしまうと考えられます。この点からも結局は導入することになるのであれば安いうちに早く導入して営業費用の削減を図るべきだと筆者は考えています。

対策D 主な特急列車の利便性向上

 前述した度重なる不祥事を受けて、安全性を確保するために道内の主要な特急列車は車体傾斜装置の運用停止や最高速度を130km/hから110km/hまで落としての運行を行っています。また、経年により毎年廃車が続いているキハ183系の代替車両を購入する予算が確保できず、2017年3月のダイヤ改正では、一部の宗谷本線の特急は札幌駅~旭川駅間を廃止され特急「ライラック」との乗り継ぎが必要となるなど、貴重な収入源である特急列車の競争力を低下させてしまう対応が続いています。現状では特急列車は高速バスと比べると運賃が高く、本数が少なく、所要時間は短い、というような状況になっています。都市間輸送の主なライバルである高速バスとの激しいシェア争いに勝つためにも道内の各特急列車を再度最高速度130km/hまで上げてスピードアップを図ることや、札幌への直通運用を増やして利便性を向上させることが必要です。

 まず、スピードアップをするときに問題となってくるのが車両側の安全性ですが、考えられる対策が2つあります。そしてここでも上下分離方式の恩恵が受けられるのです。

 まず1つ目に前述した上下分離方式の導入により、車両への投資(購入費、維持費、修理費など)に税金が投入されることで車両にかけられる予算を増やすことができます。すると、当然車両の状態は良くなり従来と比べて長期間使用することができるようになると思います。

 2つ目に、JR北海道がすでに進めていることですが車両の統一をすることでメンテナンスを簡単にするという方法があります。現在、JR北海道になってから投入された特急形気動車にはキハ281系、キハ283系、キハ261系の3系列がありますが、このうちキハ281系とキハ283系はカーブを高速で通過するために振り子式車両として開発されました。その結果、この2系列は所要時間が大幅に短縮された代わりに、振り子式車両特有の複雑な構造により高価かつメンテナンスが面倒な車両となってしまいました。そこで、JR北海道はカーブの高速通過性能を若干犠牲にした代わりにお手頃価格でメンテナンスのしやすいキハ261系を継続して投入し、厳しい天候下での酷使によって老朽化が進んだキハ281系とキハ283系を淘汰することにしました。これにより、特急形気動車は近い内にキハ261系にまとめられることになり、メンテナンスの手間が軽減されます。

キハ283系。その高性能があだとなり、置き換えが決まった。

キハ261系。もともと宗谷本線高速化のために投入された。

対策E JR貨物に対しての線路使用料の値上げ

 前述したように、JR北海道はJR貨物が運行する貨物列車から線路使用料を受け取っていますが、これが実際にかかるすべての費用に比べて低く抑えられていることが問題になっています。よって、できればJR貨物に対する線路使用料の値上げをしたいところなのですが、JR貨物は発足時、経営を維持するために線路使用料の算出方法を低く抑えられる方法を適用すると政府から定められました。そのため、線路使用料の改定もしくは算出方法の変更には政府(鉄道建設・運輸施設整備支援機構)の許可が必要と考えられ、困難です。そこで、負担を求める費用のすべてを要求するのではなく、まずは除雪費などをJR北海道区間のみの特例として費用負担を要求していくことが重要です。

対策F 企画切符の充実

 北海道は全国的に見ても観光地を多数抱えています。それを利用して、観光客向けに観光地までのJR往復切符+観光地でのお得な特典が付いた企画乗車券などをもっと増やす、という作戦があります。例えば、北海道には冬季にたくさん降る雪を利用したリゾート地(星野リゾートなど)やスキー場がいくつかありますが、そことの企画切符はほぼありません。それに対してJR東日本は「JR SKI SKI」というスキー場との企画切符を発売しています。JR北海道も同じようにスキー場との企画切符を発売したほうがいいと思います。

対策G 値上げ

 そもそもなぜ経営難に陥っているのかといえば、簡単に言えば営業費用に対して営業収益が少ないからです。よって、単純に運賃を値上げすれば営業収益が上がり赤字は改善されますが値上げをした場合、値上げ→乗客減→さらなる値上げ→乗客減という負のスパイラルに陥る恐れがあり、そのためJR北海道は創業以来なるべく値上げは行わず営業費用を切り詰めて赤字の改善に努めてきました。しかし現在、経営努力は限界を迎えており、収益を改善する手段として値上げはやむを得ないと思います。

 値上げの話に入る前に、JR北海道の運賃体系について説明します。JR北海道だけでなくJR各社は自社の路線を輸送量の大きい「幹線」と輸送量の小さい「地方交通線」に分類しそれぞれに別の運賃を適用しています。地方交通線の運賃はおおむね幹線の1割増し程度です。

 値上げをする路線ですが、まず札幌と各都市を結んでいる特急が走っている路線を値上げするのは不適当です。高速バスと激しい競争を繰り広げていることから、値上げを行うとバスのほうに乗客が流れてしまうことが主な理由です。

 よって、バスに対して鉄道が圧倒的なシェアを誇り、値上げをしてもあまり影響が出ないと思われる札幌圏の路線と輸送量が少ないにもかかわらず幹線運賃が適用されているローカル線が値上げをするのに適当な路線です。

 前者についてですが単純に運賃の値上げを行うのではなく、定期券運賃の値上げがよいと思います。現在、JR北海道の定期券運賃はバスなどのほかの交通機関と比べてもかなり高い割引率が設定されていることがその理由です。例えば通勤定期券で札幌圏の銭函~札幌を乗車するとき、幹線運賃が適用され、通常運賃は360円で定期券運賃は1か月で11520円です。1日に1往復したとして運賃総額を比較すると360円×30日×2回=21600円となり割引率は約47%に及びます。バス事業者の一般的な定期券の割引率は25%程度であり、いかにJR北海道の定期券の割引率が高いかがよくわかります。したがって、定期券の割引率を落とすような値上げを行うとよいと思います。

 次に後者について、該当区間は以下の通りです。

・函館本線長万部~小樽間 

・室蘭本線沼ノ端~岩見沢間 

・根室本線釧路~根室間 

 この区間は輸送量が少ないにもかかわらず幹線運賃が適用されています。この3区間の運賃を幹線運賃から地方交通線運賃に変えることが必要です。

第6章 まとめ

 JR北海道は今会社発足時以来の危機に立たされており、これ以上赤字が続くと最悪の場合倒産ということになりかねません。JR北海道は発足から約30年間、経営を改善するため、できる限りのことはしたと筆者は思っています。営業費用を徹底的に削減し、社員の給与を北海道内のほぼすべての自治体よりも少ない額にまで減額しました。利用者のため、値上げはほぼしていません。日本にこれほど乗客のことを思っている会社がほかにあるでしょうか。それなのに、本来JR北海道とともにこの問題について真剣に取り組まなければならないはずの北海道庁は、トップである高橋はるみ北海道知事が財政支援について「経営努力を優先すべきだ」と批判を繰り返すだけで対案を示さないことや、北海道が作成した「北海道交通ネットワーク総合ビジョン」を見ても、在来線に赤字という問題があることはわかっているはずなのに新幹線についてしか言及していないなど、この問題について全く真剣に考えていないと言わざるを得ません。

 道内の各自治体も主な行動は国を頼って財政援助を要求することや何の支援策も示さずにJR北海道に対して路線の維持・存続を求めるだけであり、これでは他力本願と言うに等しいと思います。この文章で示した経営改善策の最大の主軸である上下分離方式の導入は、簡単に言えば鉄道の維持に税金を投入するということであり、行政側の協力は不可欠です。このまま行政側が上記のような態度のままであるなら、すべての対策が中途半端に終わってしまい、JR北海道は近いうちに倒産するでしょう。北海道の各自治体には大切な交通インフラを担っているJR北海道が今どのような危機に立たされているのか、ということをよく理解し真剣に考えていってほしいと思います。

第7章 おわりに

 いかがでしたか?筆者は久しぶりにここまで長い文章を書いて、もう指が疲れていますが、振り返ってみると調べているときは楽しかったです。また次も研究を書こうと思いますのでよろしくお願いします。また、この研究を書くにあたって北海道の現状について教えていただいた**先生には感謝申し上げます。最後に…ここまで読んでいただきありがとうございました。

第8章 参考文献

JR北海道

https://www.jrhokkaido.co.jp/

タビリス

https://tabiris.com/archives/jrf2017/

国土交通省

http://www.mlit.go.jp/

ダイヤモンドオンライン

https://diamond.jp/

K’z Lifelog

https://www.kzlifelog.com/

国土交通省北海道運輸局

http://wwwtb.mlit.go.jp/hokkaido/

北海道経済連合会

http://www.dokeiren.gr.jp/

東洋経済オンライン

https://toyokeizai.net/articles/


おことわり

掲載されている情報は研究公開当時のものです。現在とは若干異なる場合があります

浅野学園鉃道研究部 『停車場』アーカイブ

浅野学園の鉃道研究部が発行する部誌『停車場』のアーカイブサイトです。過去に発行された『停車場』を自由に閲覧することが出来ます。

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