1.はじめに
今回は横須賀線について研究していきたいと思います。今や首都圏の交通の大動脈となりつつある横須賀線ですが、武蔵小杉駅~西大井駅間の朝ラッシュ時の混雑率は196%と非常に高くなっています。特に武蔵小杉駅の混雑がひどく、遅延が発生すると駅に入るために駅の周りに長蛇の列ができるほどの混雑ぶりです。大きな原因は周辺地域の人口増加、特に武蔵小杉駅周辺の再開発による人口増加です。また同じく武蔵小杉駅を通る南武線も武蔵中原駅~武蔵小杉駅間の混雑率が189%になっています。さらに東急東横線も祐天寺駅~中目黒駅間の混雑率が168%と武蔵小杉駅を発着する路線の混雑率は高くなる傾向にあります。今回はそんな横須賀線や湘南新宿ラインの混雑についてみていきたいと思います。
2.武蔵小杉の現状
次の表は武蔵小杉駅が位置する川崎市中原区の人口の推移を表したグラフです。
ここ4~5年で人口が急激に増えてきているのがわかります。大きな理由は武蔵小杉駅周辺に建てられた11もの高層マンションの存在です。東京方面の通勤客をターゲットにした高層マンションの建設により、東京方面の通勤客が増え横須賀線の混雑率が増加しているのです。そのため朝の武蔵小杉駅の混雑も悪化する一方です。次の表はJR武蔵小杉駅の年度別の一日平均乗車人員を表したグラフです。
この表の通り武蔵小杉駅の乗車人員は増えています。また川崎市はさらなる再開発を予定しており、武蔵小杉駅の利用者は確実に増加していくことが考えられます。そのため朝ラッシュの駅構内の混雑はさらに悪化すると思われ、JR東日本は何らかの対策を講じることが必要になってきます。
武蔵小杉駅では今年4月に南武線の2番線ホーム(立川方面ホーム)を拡張しました。北改札から入場した利用客が横須賀線ホームに行くには南武線の2番線ホームを通るのが最短ルートなので、朝ラッシュ時には横須賀線ホームに向かう乗客と南武線の立川方面の電車を待つ乗客とでホームが飽和状態になっていました。それを打開すべく、武蔵小杉駅の南武線2番ホームのホーム幅を縦50mほどにわたって横1mほど拡張しました。
また武蔵小杉駅の南側の地区の高層マンションの増加により新南改札が混雑していたため、朝7時~9時の間だけ利用可能なICカード専用の臨時改札が新たに設置されました。
上の図は武蔵小杉駅の駅構内図を簡略化したものです。この拡張工事により北改札からの人の通りはよくなったと思われます。また臨時改札を設けたことにより、多少武蔵小杉駅の混雑は解消されたと思われますが、抜本的な解決になっているとは言えません。
3.横須賀線の現状
次の表は首都圏の路線を混雑率が高い順に並べた表です。
上の表のとおり横須賀線の武蔵小杉駅~西大井駅間の混雑率は196%ととても高い数字になっています。また同じ武蔵小杉駅を通る南武線も4位の189%と高い数字になっており、武蔵小杉駅の混雑は悪化する一方です。
上の時刻表は武蔵小杉を7時台に発着する横須賀線・湘南新宿ラインの時刻表です。武蔵小杉駅を発着する列車は1時間に16本になっています。
また上の図のように、西大井駅近辺の旧蛇窪信号所と大崎駅を結ぶ貨物線、通称大崎支線の線路と西大井駅と品川駅を結ぶ横須賀線の線路が平面交差しています。そのため湘南新宿ラインの列車と横須賀線の列車の行き来がスムーズに行えず、列車渋滞が起こる可能性があるためこれ以上本数を増やすことができません。またJRと相鉄の直通運転により、さらに多くの列車が通過することが見込まれるので、この大崎支線には何らかの対策が必要になります。
4.問題点
・輸送力の不足
やはり輸送力の強化はこの問題を解決するうえで大変重要です。横須賀線の混雑を緩和するにはやはりさらに輸送力を増強するしか方法はありません。
しかし横須賀線はそう簡単に本数を増やすことはできないのです。理由は3つほどあります。
・湘南新宿ラインとの兼ね合い
3章でも話した通り、旧蛇窪信号所で横須賀線と湘南新宿ライン(大崎支線)の線路が平面交差しています。下の図のように列車が線路をまたぐ際に、もう一方の線路を走っている列車が停止しなければならなくなり列車が詰まるため、横須賀線と湘南新宿ラインの本数は制限されているのです。また平成31年度までに開始が予定されているJR線と相鉄線の直通運転により湘南新宿ラインがさらに増発することが予想され、現状でも限界に近いダイヤを組んでいるので何らかの改善策が必要になってきます。
・編成本数の不足
もう一つの問題、それは編成両数の不足です。現状よりも列車を増発するにはさらに多くの編成が必要になります。現在横須賀線のE217系は鎌倉車両センターに51本が配属されており、そのうち48本が運用についています。ゆえに横須賀線の運用についていない編成、予備編成は3両しかないのです。そのため増発するにも簡単に本数を増やすことができないのです。また横須賀線には新車の導入予定もないので、現在ある51本の編成で運用を回すしかないのです。そのため列車を増発するとしても1~2運用に限られてしまうのです。
・西大井駅の積み残し
4つ目の問題点、それは西大井駅での積み残しです。武蔵小杉駅ですでに東京方面に向かう乗客で混雑しているにも関わらず、西大井駅で東京方面に向かう乗客がさらに乗車してくるので、列車に乗りきれない乗客が発生します。これが積み残し問題です。
5.解決策
・本数の増加
問題点でも書いたように本数の増加は乗り越えなければならない壁がいくつかあります。まず予備編成が3編成しかないということ、湘南新宿ラインとの本数調整などが挙げられます。ですがこの横須賀線の混雑を解決するためには増発は必要不可欠です。そのため私が提案したいのは平日の朝に武蔵小杉始発東京方面行の横須賀線の列車を新設することです。
しかし、現状の武蔵小杉駅の設備では折り返しは不可能です。そのためJR貨物の新鶴見操車場の一部を間借りして折り返しを行います。下の図は武蔵小杉駅と新鶴見操車場の配線の一部です。また一部の側線は都合により省略しています。
上の図の灰色の線路を新設し、一番手前の貨物線を留置線として使用します。幸いこの朝ラッシュの時間帯は山手貨物線を経由する貨物列車は設定されていないため、ライナー以外の列車は留置線として使う線路に一本も通りません。
またこの計画は灰色で示した線路を一つ新設するだけなので、あまりコストはかからないと思われます。
上の時刻表は増便した場合の横須賀線の時刻表になります。これにより西大井駅の積み残しは解消できると思われます。
・車両不足の解消
また車両不足の問題ですが、相鉄線への乗り入れ開始によって湘南新宿ラインは減便されると思われます。湘南新宿ラインで使用されているE231系は東京駅の横須賀線ホームへの入線実績があるため、横須賀線で運用するには小規模の機器更新のみで済むと思われます。よって減便された分のE231系で増発分の編成を賄うのがベストの選択だと思われます。
・湘南新宿ラインとの兼ね合い
もう一つの大きな問題は湘南新宿ラインとの兼ね合いです。4章でも書いた通り湘南新宿ラインと横須賀線の兼ね合いのため、列車の停滞が発生し、本数に制限がかかってしまいます。実際西大井駅付近の平面交差により発生している交差支障時分は3分30秒であり、ダイヤ作成上の大きな支障となっています。また今後湘南新宿ラインが相鉄線と直通するので、より多くの列車がこの大崎支線や西大井駅付近の平面交差を通ることになるでしょう。
この現状を打開すべく提案したいのが大崎短絡線です。次の図をご覧ください。
*交差支障時分
列車がポイントを交差し終わり、もう一方の線路にいる列車が前進できるまでにかかる時間のこと。
この図は現状の西大井駅付近の配線です。3章でも述べた通り、横浜方面から来た列車が湘南新宿ラインの線路に転線するときに、東京方面から来た横須賀線の列車が入線できず、列車の停滞が発生し、遅延するのです。またこの横須賀線の線路の隣には東海道新幹線の高架橋が立っており、おいそれと線路の新設や改良工事などはできないのです。
そこで、これらの問題を打破するのが大崎短絡線計画です。次の図をご覧ください。
この計画は現在の旧蛇窪信号所の平面設備を残しつつ、大宮方面の湘南新宿ラインの列車だけ平面交差よりも東京寄りで横須賀線と分岐し、そのまま大崎駅構内へ進入するための短絡線を新たに建設するものです。これによって横須賀線のダイヤを組む上での一番の障害となっていた、平面交差の問題は解決できます。
しかしこの大崎短絡線にも多少の乗り越えなければならない障害があります。
①用地
先ほども申し上げた通り、横須賀線の隣を東海道新幹線が走っており、東海道新幹線の高架橋の邪魔にならないように短絡線を新設しなければいけません。幸いなことに一か所だけ横須賀線の線路が東海道新幹線の高架橋よりも外側に出ている箇所があり、そこから単線の連絡線を大崎駅まで渡すことになっています。しかしそこから短絡線を新設する場合、大型高層マンションの横を通ることになります。そのためJR東日本と近隣住民の話し合いや、線路への防音壁などの設置が重要になってきます。
短絡線と横須賀線の分岐点になる場所。
左側が東海道新幹線、右側に横須賀線の高架橋がある
短絡線の建設予定の場所。付近の高層マンションに挟まれる形となる
②短絡線の長さ・カーブの厳しさ
①で述べた通り分岐点は限られているため、短絡線の長さも限られてしまうのです。そのため短絡線の長さは、貨物列車はおろか、15両編成の列車も収まりきらないものになってしまうのです。もし山手貨物線内の遅延によって大崎駅のホームに先行列車が停車している場合、短絡線が短いため横須賀線にまで遅延を広げてしまう可能性があります。
この問題の解決策として、現在の大崎駅の8番線ホーム(湘南新宿ラインの大宮方面)を渋谷方面に移動させ、短絡線内に15両編成を収められるようにすること、また貨物列車については今まで通り大崎支線を介して運行することを提案します。またカーブの厳しさですが、実施基準上の最も厳しい半径で短絡線を新設し、防音壁と並行して脱線防止ガードも設置することが予定されています。
・改善策の総括
・朝ラッシュ時に武蔵小杉発東京方面行の横須賀線を増発し、JR・相鉄直通線の運行開始により余剰になった湘南新宿ラインの列車でカバーします。
・大崎支線の交差支障を解消するために新たに大崎短絡線を建設し、近隣住民のために防音壁を設置し、カーブが厳しいため脱線防止ガードを設置します。
6.終わりに
いかがでしたでしょうか。今後横須賀線沿線は更なる沿線開発によって人口が増加するでしょう。また相鉄線との相互直通運転によってより多くの列車が横須賀線を通過することになるでしょう。この先横須賀線及び湘南新宿ラインにどのような変化が生まれるのかわかりませんが、今後の行方に注目したいところです。
7.参考資料
・JR東日本横浜支社 武蔵小杉駅の混雑を解消します
https://www.jreast.co.jp/press/2017/yokohama/20171206_y01.pdf
・JR東日本東京工事事務所 湘南新宿ラインに関わる平面交差支障の解消について
http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00061/2005/32-04-0005.pdf
・都市生活ラボ 相鉄待望の相互直通運転と大崎短絡線の行方 直通運転のデメリットも
http://civillifelab.com/transport/1591/
・東洋経済 急上昇した「武蔵小杉駅の混雑」緩和策は?
https://toyokeizai.net/articles/-/130866?page=3
・配線略図.net 東海道線
https://www.haisenryakuzu.net/documents/jr/east/toukaidou/
・川崎市中原区 ホームページ
http://www.city.kawasaki.jp/nakahara/
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