路面電車・LRTの役割

⒈はじめに

 今回のテーマは路面電車・LRTです。最後の研究ということで、テーマを何にするか悩んだのですが、部活の合宿や研修旅行で路面電車・LRTに乗る機会が多く、その経験を生かせると思い、このテーマに至りました。最後までお読みいただければ幸いです。

⒉路面電車・LRTとは

 まず、路面電車・LRTとはどんなものなのか、見ていきます。

 厳密な定義はありませんが、一般的に路面電車は、道路上を走る鉄道とされているようです(専用軌道を走ることもあります)。この研究では、基本的に軌道法で定められているものにのっとることとします。

 一方で、LRTという言葉はご存じでない方が多いかと思いますので詳しく説明します。

 LRTはLight Rail Transitの略で、次世代型路面電車システムなどと訳され、国土交通省は、

「低床式車両(LRV)の活用や軌道・電停の改良による乗降の容易性、定時性、速達性、快適性などの面で優れた特徴を有する次世代の軌道系交通システムのこと」としています。

⒊日本における路面電車・LRTのこれまで

 日本で初めて路面電車が営業運転されたのは、京都電気鉄道伏見線が開業した1895年のことです。これをきっかけに全国に路面電車が広がり、1950年代から1960年代にかけて全盛期を迎えます。しかしながら、1960年ごろになると、モータリゼーションの影響で路面電車は道路において“邪魔な”存在となり、多くの路線が廃止に追い込まれることとなりました。

 衰退していった路面電車ですが、2006年に廃線となったJR富山港線の線路を利用した路面電車である富山ライトレールが日本で初めてのLRTとして開業しました。新しい駅(電停)を設けたほか、運行本数を10~15分に一本と増やすなどし、利便性の向上に努めた結果、利用者数が増加しました(詳しくは後述)。この富山ライトレールの成功により、路面電車の再評価が進みました。このことにより、日本各地でLRTの整備計画が持ち上がってくることとなります。

4.LRT成功例その1~富山ライトレール~

 LRTの成功例として、先述の富山ライトレールが挙げられます。富山ライトレールは旧JR富山港線の線路を一部流用し、LRT化した路線です。LRT化に伴い、電停の数を増やし、本数も、日中でも15分に一本に増やすなど利便性向上に努めた結果、次のようにLRT化前よりも大幅に利用者数が増えました。


グラフを見ると、富山ライトレール時代はJR時代の1.5倍ほどに利用者数が増加しており、また、LRT化後も、わずかではありますが利用者が増加傾向にあることがわかります。

 富山市では、富山ライトレールなどの路面電車を軸にパークアンドライド※1やコンパクトシティ※2化を進めています。これらについては後程考えていきます。



__________________________________________________________________________

※1パークアンドライド…自宅から最寄りの駅やバス停、停留所まではマイカーで移動し、そこから先は公共交通機関で移動すること。都市中心部の交通渋滞防止や環境改善に役立つとされている。

※2コンパクトシティ…都市の中心部に高密度で都市機能をまとめた都市のこと。うまくいかなかった例も多い。




5.LRT成功例その2~福井鉄道~

 続いて、福井鉄道について見ていきます。





福井鉄道は軌道鉄道で初めて普通鉄道と相互乗り入れを開始した路線です。2016年3月にえちぜん鉄道との相互直通運転を開始したところ、2016年度の両路線の境界駅である田原町駅をまたいだ利用者の数は2015年の約2.7倍の約13万2600人と前年より8万5千人ほど増え、目標の5万人増を大きく上回りました。特にえちぜん鉄道の福大前西福井駅の近くにある高校に福井鉄道沿線から通う学生が増えたことで、通学定期の発行枚数がおよそ17%増えました。

 1本で行くことができる範囲が広がり、沿線住民の行動が変わったといえます。


えちぜん鉄道に直通する福井鉄道


6.路面電車のメリット

 ここまで、LRTの成功例などについてみてきましたが、そもそも路面電車やLRTは何が優れているのでしょうか。

(1)コストが低い

 普通の鉄道に比べて停留所などの設備は簡易的なもので済むため、普通の鉄道に比べて建設コストや車両製造費用などが抑えられます。

(2)バリアフリー

 路面電車は電停に行くまでほとんど段差がなく、低床車であれば停留所に入る時から路面電車を利用し、降りるまで上下差はほとんどなしで移動することができます。

(3)手軽に利用できる

 駅間距離が短く、本数が多いため、買い物等に伴う移動や観光など、街歩きに気軽に使うことができます。

(4)環境にやさしい

(1)~(3)だけでは、バスでもいいのでは、と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、路面電車は排気ガスを出さないため、自動車移動が路面電車に移れば、地域環境の改善が期待できます。また、渋滞の緩和も期待できます。

(5)定時性

 また、路面電車は自動車に比べれば定時性に優れています。自動車よりは道路状況に左右されにくいです。また、バス専用レーンを整備したとしても、熊本市では市内中心部のバス専用レーンに各方面からのバスが集中したために渋滞し、遅れを引き起こしていたという事例があります。

このように、路面電車はバスよりも規模が大きく、鉄道よりも規模が小さい交通手段として、唯一無二の存在であるのです。


7.JR吉備線のLRT化

 JR吉備線は岡山県岡山市の岡山駅から同総社市総社駅を結ぶ路線です。



2018年にJR西日本と岡山市、総社市はJR吉備線をLRT化することで合意しました。2003年にJR側が両市に提案し、構想から15年で正式に合意したのです。費用は240億円を見込んでいて、内訳は車両基地などの地上設備が約135億円、車両が約36億円、7つの新駅設置が約25億円、道路拡幅などが約44億円です。LRT化後もJRが運営することになっており、JRが路面電車を運行するのは初めてとなります。本数については現在ピーク時3本/時、通常時1~2本/時ですが、LRT化後は、通常時が3本/時、ピーク時が岡山駅~備中高松駅で6本/時、備中高松駅~総社駅で4本/時、となる見込みです。運賃は20%増えるそうですが、整備費用が回収できれば下げることも可能でしょう。

8.宇都宮市のLRT計画

(1)計画の概要

 この計画は宇都宮駅の東西約18kmにわたり、LRT路線を整備する計画で、駅の東側14.6kmが優先整備区間になっています。以下の事項は基本的にこの優先整備区間についての情報です。自動車との併用区間が約9.4km、専用軌道が5.1kmとなる見込みで、電停は19か所、車両は3車体連接で全長約30m、定員155人のものを3編成導入する予定です。運行本数はピーク時が10本/時、通常時が6本/時で、快速の運転が予定されています。

LRT導入の理由としては、

・宇都宮市の人口が2018年に減少に転じるなかで、消費を維持する仕組み作りを行うため

・高齢者が自立した生活が送れ、全ての世代が安心して暮らせるまちをつくるため

・自家用車依存(下図)やそれによる公共交通衰退の防止、高齢者の移動手段確保

 などがあげられています。


また、バスの利便性も向上します。現在、宇都宮市のバスの利用者は減少しています(下図)。


そこで、多くの人が移動する宇都宮市の東西方向に、輸送力が高く時間に正確な運行が可能なLRTを整備して公共交通の軸をつくり、そこを走っていたバスの一部を郊外に割り振り、路線バスの本数やコースを増やし、乗換施設であるトランジットセンターでLRTと乗り換えることでバスも便利になります。バスと路面電車を組み合わせることで広範囲をカバーすることができます。

(2)計画のこれまで

宇都宮市が新交通の導入を検討し始めたのは1990年代で、2001年には導入に向け、栃木県と合同で調査を始めました。2000年に計画中止を訴える福田昭夫氏が栃木県知事選挙で当選し、計画は一時凍結したものの、2004年に福田富一氏が栃木県知事となったことで計画は再び動き出し、2012年度に基本方針を定めました。このときはBRT(バス高速輸送システム)も候補となっていましたが、結果的にLRTがふさわしいとの結論に至りました。その後、宇都宮市に隣接する芳賀町もプロジェクトに加わりました。

このころから整備費用が高いとして計画反対を唱える人も目立ってきます。理由は主に整備費用の高さですが、これについては後程説明します。

2015年には営業事業者の選定を開始しますが、応募したのは関東自動車※3のみで、この提案は自治体への依存度が高かったことから、自治体が関東自動車と相談し、営業主体を第三セクター方式とすることで合意し、同年11月、宇都宮ライトレール株式会社が発足しました。

(3)費用

市長選が行われる前は整備費用が宇都宮駅の東が260億円、西が123億円とされていましたが、朝夕の需要が以前の予測よりも大きくなったことなどに伴う車両費用や快速導入を理由に駅の東だけで458億円となりました。費用は国が負担し、芳賀町の負担は23億円、宇都宮市負担は206億円となっています。

(4)選挙と計画延期

工事が始まる前の2016年11月にも宇都宮市長選挙が行われ、佐藤氏がこの時も当選しましたが、対立候補との票差は6000票と、僅差での当選となりました。様々な要因が考えられますが、その一つにLRTの整備費用に関する問題が考えられます。

※3関東自動車…正式名称は関東自動車株式会社。本社は栃木県宇都宮市。路線バス、高速バスなどを運行しているバス会社。

対立候補は、駅西側も含め、整備費用は1000億円以上と予測し、すべて市民の税金で賄われるとして「最終費用は1000億円」と訴え、反対しました。しかしながら、西側の費用が東側と同じ割合で増えたとしても多く見積もって700億円であるうえ、反対側は「1000億円とも」、「だろう」などあいまいな表現を使っており、内訳も公表しておらず、根拠が薄いと指摘する声もありました。

また、LRT反対派は建設費が高いと主張する際に、富山ライトレールの建設時に富山市の支出が10億円であることを引合いに出していますが、先述の通り、富山ライトレールは旧JR富山港線の線路を流用したために新設区間が約1kmであったため、単純に比較するのは無理があるといえます。一方で、日本ではLRTの敷設事例が富山ライトレールぐらいしかないこともこれに影響しています。

9.路面電車と街づくり

 ここでは、近年注目されている、街づくりの際に路面電車が果たす役割について考えます。

(1)コンパクトシティ

 先ほども名前を出しましたが、まず、語義について説明します。明確に定まっているわけではないようですが、内閣府は「市町村の中心部への居住と各種機能の集約により、人口集積が高密度なまち」としていて、「機能の集約と人口の集積により、まちの暮らしやすさの向上、中心部の商業などの再活性化や、道路などの公共施設の整備費用や各種の自治体の行政サービス費用の節約を図ること」が目的です。これらを掲げて内閣府は「中心市街地活性化基本計画」を定めてコンパクトシティを推進しているのです。

 日本でこれを試みた都市としては富山市や青森市などが有名で、少子高齢化や人口減少などの問題を抱える地方都市で注目されています。

①メリット

住民にとっては、都市機能が特定の地域に集中する利便性の向上や時間の節約といった利点があります。

一方で、住民の集中により、行政の効率化やサービスの充実も期待できます。

また、都市機能を集約することで、自動車の利用が減少し、地域の環境改善や交通渋滞緩和などが期待できるほか、高齢者なども町を容易に動けるようになります。

②デメリット

 デメリットとしては、都市機能を町の中心部に集約するため、郊外の利便性が落ちてしまう可能性があることがあげられます。

 また、都市機能を町の中心部に集約する、といっても、郊外に大規模な商業施設が存在するとうまくいきません。住民が定期的に町の中心部を利用するようにならないと意味がないのです。

ここまで、メリットとデメリットを見てきましたが、具体例を見ていきましょう。

Ⅰ富山市

 富山市は日本におけるコンパクトシティ成功例のパイオニアといえます。富山市は人口減少と少子高齢化、市街地の低密度化が進んだことに加え、1999年のパーソントリップ調査によると自動車への依存度が全国トップとなり、公共交通の衰退が顕著でした。この一方で、自家用車を自由に使えない人が市民の30%いるという事実もありました。これらの課題を解決すべく、

・規制強化ではなく、誘導的手法が基本

・市民がまちなか居住か郊外居住かを選択できるようにする

・公共交通の活性化によるコンパクトな街づくりを推進

・地域拠点の整備により、全市的にコンパクトな街づくりを推進

の4つを基本方針として掲げ、

「お団子と串」によるコンパクトシティ化を進めました。「串」とは一定以上のサービス水準の公共交通を、「お団子」とは串で結ばれた徒歩圏を指します。

 このための公共交通活性化の一つとして、富山市はLRTネットワークの形成を打ち出します。富山市内を走る路面電車は、富山地方鉄道市内線、先述した富山ライトレールの2路線がありますが、富山地鉄市内線の環状化や両路線の富山駅接続を行いました。今後、この両路線はつながる予定です。

 このような富山市のコンパクトシティ化政策は、一定の成果を収めたといえます。

Ⅱ青森市

 青森市も、富山市と同様にコンパクトシティ化を掲げました。再開発組合を1990年に認可し、市街地をインナー、周辺をミッド、郊外をアウターと3つのエリアに分け、それぞれに合った施策を試みました。

 青森市は、コンパクトシティの必要性について、「毎年除排雪作業に莫大な経費を費やして」いて、「除排雪しなければならない道路の距離は、過去10年間で約230kmも増加して」いること、「大型ショッピングセンターや公共施設が郊外部に建設されることにより」「中心商店街などの空洞化が深刻な問題に」なっていることなどを理由に挙げています。市街地がやたらに拡大することを抑制し、都市機能をなるべく市の中心部にまとめようとしたのです。

 ところが、バブル崩壊が計画を狂わせます。1994年、駅前のビルの中核テナントとして入居予定だった西武百貨店が入居を取りやめるなど、計画は大きくつまずきました。2001年に185億円をかけ、商業施設「アウガ」を開業しましたが、赤字が続いています。居住区域を集めるという点においては多少成果を上げましたが、郊外に大型商業施設の進出が相次いでいることもあり、一般的に青森市のコンパクトシティは失敗といわれます。

(2)コンパクトシティは成功するのか

 そもそも、コンパクトシティという政策自体が効果を持つものなのかを考えていきます。

 一定の成果を上げた事例もあるものの、総務省が地域活性化政策の状況や国の支援政策の状況、効果を調査したところ、結果が以下のようになりました。



 「全指標が目標達成」、「全指標が目標達成度7割以上」に該当する計画はなく、厳しい結果となりました。このため、「中心市街地活性化基本計画は所期の効果が発現しているとみることは困難」との結論に至り、「中心市街地活性化施策について、改めて目標達成が困難な原因の分析、改善方策の検討」を勧告しました。

 このように、コンパクトシティは政策として成功した、とは言い難いのです。

(3)フライブルクにおける公共交通機関中心の街づくり

 では、公共交通を中心とした街づくりはどのような手法が効果的なのでしょうか。例えば、ドイツのフライブルクの例を見てみましょう。

 フライブルクはドイツ南部にある人口20万人程度の都市で、先進的な環境政策で知られ、その一部には交通政策があり、大気汚染対策として自転車や公共交通機関の強化する政策をとりました。都心への自家用車乗り入れを制限し、環境定期券を発売しています。

都心の自家用車乗り入れを制限することにより、道路や駐車場などの土地をほかの公共交通に回すことができ、騒音、排気ガス、交通事故の危険性を減らせます。環境定期券はフライブルクとその周辺のほぼすべての公共交通機関で利用することができます。料金はVAG(フライブルク交通公社、フライブルクのトラムを運営する会社で市が株100%を保有)のみ市内限定の場合、大人が1か月19ユーロ(2018年7月のレートではおよそ2500円)で、日曜・祭日にはさらに大人1人、子供4人まで一緒に利用することができます。

この便利さと値段の安さで、1985年には33万人だった利用者が70万人に達しました。この背景には、環境保護に貢献できる、という好ましいイメージや公共交通機関のサービスの質の高さも影響しています。ちなみに、環境定期券は値段が安いために大幅な赤字であり、6つの公社からなる連合体の利益で補てんしています。

また、トラムが鉄道の駅に直結していること、徒歩圏には必ず公共交通機関の駅を設けること、自転車でもこれに乗車できるようにすること、市内中心部の駐車場の料金を非常に高くすることなどの政策も公共交通機関利用が普及した大きな理由です。

(4)日本における街づくりの考察

 では、今後日本で路面電車を中心とした街づくりを行うには、どのようなことが必要なのでしょうか。先ほどのフライブルクは小規模な街であること、郊外の大型商業施設の制限を行っていることなど、日本と異なることも多く、また、日本は路面電車が発達している都市はそこまで多くありません。これを踏まえ、取り入れることが可能なものは取り入れ、そうでないものは日本に合うように考えていきたいと思います。

①フライブルクから取り入れられるもの

 まず、フライブルクのシステムで、日本でも活用できるであろうものについてみていきます。

Ⅰ環境定期券

 環境定期券のシステムは日本にも取り入れることができるでしょう。特に、地方自治体が経営する路面電車であれば、その地域に住んでいる人に対し、住民サービスというかたちで行うことができます。また、自家用車の運転が難しい高齢者などに対しては安く販売すれば、昨今問題となっている高齢者ドライバーの問題にも一定の効果を上げることができるでしょう。また、家族が同伴することができる、というシステムがあれば家族で少し出掛けたり、買い物に行ったりする際に路面電車の利用が期待できます。

値段についてですが、公営鉄道でない場合は事業者の利益を確保しなければならないため、フライブルクほど安くすることは難しく、まちづくりの一環として自治体が支援を行ったり、環境保護に貢献できるという面をアピールして路面電車のイメージを向上させ、住民の生活に路面電車を根付かせたりすべきでしょう。

Ⅱ自転車の乗車可能化

日本では、フライブルクほど路面電車が発達している都市は非常に少ないため、徒歩圏に電停がない、というケースも多いでしょう。そこで、自転車を路面電車に乗車できるようにすれば、少し電停から離れたところに住んでいる人の利用が期待できます。しかし、超低床車両でないと乗降が難しいことや混雑時には邪魔になってしまうことが問題点としてあげられます。このため、低床車両の整備を前提としたうえで曜日や時間を限定すれば良いでしょう。これが難しい場合は、電停周辺に駐輪場を整備することも一つの手立てでしょう。

②それ以外の施策

 続いて、フライブルクにはないですが、日本における路面電車中心の街づくりにおいて、有効な施策を考えていきます。

・バスとの連携

 先述の通り、日本では路面電車がそこまで発達しておらず、地域の広い範囲を公共交通機関でカバーするには、バスの存在が必要です。競合になってしまうのでは、と思われるかもしれませんが、例えば市がバスとトラムを運営しているアムステルダム(オランダの首都)では、トラムがメインで、バスがそれを補完する役割を担っていて、両社が客を奪い合い、無駄な交通量が発生する、ということはありません。ただ、アムステルダムの場合、バスとトラムが重複している区間ではバスも軌道上を走行し、停留所も共通となっていて、どちらでも行ける場合は先に来たほうに乗ることができるのですが、日本では安全上の観点や制度の問題から難しいかもしれません。

以上を踏まえ、日本ではこの両者の運行区間の被りをなるべく少なくし、路面電車がいわば“幹”となり、バスが“枝”となるようにすればよいでしょう。宇都宮市のLRT計画ではトランジットセンターを設ける計画ですが、このように、バスと路面電車との関係を強固にするために、バスと路面電車の連絡券を発売するとよさそうです。また、定期券も需要があると思います。熊本市では民間会社のバスと市電に共通乗車ができる通学回数券や普通回数券が発売されたケースがあり、これらの交通機関が、自治体が運営するものでなくても、このようなものを発売するハードルはそれほど高くないでしょう。

10.吉備線のLRT化と宇都宮市LRT計画の役割

 先ほど、JR吉備線のLRT化計画と宇都宮市のLRT計画について触れましたが、この二つが成功するか、というのは今後の日本において路面電車・LRTが普及するかどうかのターニングポイントになると思われるからです。

この二つが成功すれば、路面電車・LRTが注目されるきっかけとなり、先ほど述べた路面電車の長所が活かされ、まちづくりの一助となり、住みやすい街を形成することができるでしょう。

一方で、この二つの計画が失敗してしまった場合、路面電車・LRTに対する負のイメージが先行してしまうでしょう。こうなると、路面電車・LRT の計画が起こったとしても、期待感が薄れてしまい、日本の路面電車・LRTは衰退に向かってしまうでしょう。

11.既存の路面電車の利用を増やすには

 ここでは、街づくりなどにとらわれず、日本の路面電車が利用者を増やしていくにはどうすれば良いのか、考えていきます。

(1)観光客の利用促進

 まず、観光客について考えていきます。札幌、函館、東京、広島、長崎、熊本などは観光需要が見込めます。いくつかの観光名所を楽に巡ることができ、本数も多い路面電車は観光にはもってこいの移動手段ですが、路面電車自体にも付加価値を持たせることを考えてみましょう。

例えば、路面電車を含む街の風景をPRするのはどうでしょうか。路面電車に似た性質を持つ鉄道路線として江ノ島電鉄がありますが、この路線は鎌倉高校前駅近くの電車が通る風景が一つの観光名所となっており、休日には写真を撮っている人が多く見られます。ここまで有名になるのはなかなか難しいでしょうが、それぞれの街の特徴と路面電車を絡めた風景をPRしたり、街の特徴を列車の内装に取り入れ、街並みを眺めながら移動時間を楽しむ列車を運行したりするとよいでしょう。

(2)地元住民の利用促進

 地元住民の利用を増やす、即ち日常生活に路面電車を根付かせるには、ほかの交通機関と比べて優れている面をアピールする必要があります。それには、先ほど街づくりについての章で述べたことに加え、本数の多さ、定時性、電停の多さなどの利便性をアピールすればよいでしょう。

12.総括

 路面電車は、一時衰退してしまいましたが、様々な取り組みにより、利用者数を増やすことができるでしょう。街づくりにおいては、街の公共交通機関の中心に据え、バスとの連携を図るなどするとよいと思います。しかし、急な改革というのは反感を買います。実際、路面電車を中心とした街づくりを行っているフランスのストラスブールでは、マイカーの都心乗り入れを制限するに当たり、「マイカー乗り入れをできなくしたら客が減る」という反対意見がトラム開通直前までありましたが、開通後はこのような声はなくなったそうです。今後の日本で宇都宮市や吉備線のLRTが先例となり、着実に、一歩ずつ日本で路面電車が発展すればよいと思っています。

13.おわりに

 最後の研究は路面電車にスポットライトを当ててみましたが、いかがでしたか。日本において路面電車は唯一無二の存在であり、街づくりの肝となってきます。皆さんがこの問題に少しでも興味を持ってくださったなら幸いです。

14.参考資料

・鉄道ジャーナル1996年12月号(通巻362号)

・鉄道ジャーナル2016年9月号(通巻599号)

・鉄道ジャーナル2017年9月号(通巻611号)

・道路;LRT(次世代型路面電車システム)の導入支援、国土交通省

http://www.mlit.go.jp/road/sisaku/lrt/lrt_index.html

・富山市都市整備事業の概要

http://www.city.toyama.toyama.jp/data/open/cnt/3/9075/1/all.pdf

・富山ライトレールへの支援、国土交通省

www.mlit.go.jp/common/000056382.pdf

・路面電車のLRT化を中心とした公共交通体系の再構築の検討調査報告書、国土交通省

http://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/souhatu/h16seika/02tetsukidou/02_hi_3.pdf

・バリアフリー;札幌市交通局「地下鉄・路面電車の乗降場等の整備、マナー教育の徹底等ハード・ソフト一体となったバリアフリーの実現」、国土交通省

http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/barrierfree/sosei_barrierfree_tk_000132.html

・地域活性化に関する行政評価・監視<調査結果に基づく勧告>、総務省

http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/106278.html

・路面と郊外電車の相互乗り入れ好調、社会、福井のニュース、福井新聞ONLINE

http://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/219800

・第3節 コンパクトシティの形成へ向けて、内閣府

http://www5.cao.go.jp/j-j/cr/cr12/chr120303.html

・コンパクトシティのまちづくり、青森市

https://www.city.aomori.aomori.jp/toshi-seisaku/shiseijouhou/matidukuri/toshidukuri/compact-city.html

・青森市のまちづくり

https://www.city.aomori.aomori.jp/toshi-seisaku/shiseijouhou/matidukuri/toshidukuri/documents/compactcity.pdf

・西武も逃げ出した青森駅前再開発ビルの今、日経ビジネスONLINE

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/012600153/?P=1

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/012600153/?P=2

・JR吉備線LRT化「最終合意」 岡山、総社両市とJR西、産経WEST

https://www.sankei.com/west/news/180405/wst1804050018-n1.html

・東西基幹公共交通(LRT)、宇都宮市公式Webサイト

http://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/kurashi/kotsu/lrt/index.html

・宇都宮の将来〜交通未来市うつのみや〜MOVE NEXT LRTからはじめる、次の暮らし

https://u-movenext.net/future/

・環境先進都市ドイツ・フライブルグ市の取り組み、独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター海外動向ユニット

https://www.jst.go.jp/pr/img/sjsympo2010/presentation_takano.pdf

・平成20年度海外出張に関して、次のとおり報告する、大阪市会

http://www.city.osaka.lg.jp/shikai/cmsfiles/contents/0000022/22292/ozasahukugicyo3.pdf

 

浅野学園鉃道研究部 『停車場』アーカイブ

浅野学園の鉃道研究部が発行する部誌『停車場』のアーカイブサイトです。過去に発行された『停車場』を自由に閲覧することが出来ます。

0コメント

  • 1000 / 1000