公営鉄道の在り方

⒈はじめに

 こんにちは、**です。ついに高校二年となり、引退が迫ってきました。さみしいですね。

 さて、今回のテーマは公営鉄道です。浅野学園の近くだと横浜市営地下鉄がこれに当たるわけですが、少子高齢化社会を迎える今、公共交通のうち、一部バス路線などは維持が困難になってきています。そんな中で、公営鉄道はどのような存在であるべきなのかを考えていきます。最後までお読みいただければ幸いです。

 なおこの研究では、特記がない限り、「公営鉄道」とは地方自治体が運営する鉄道(路面電車を含む)を指し、「公営交通」とは、公営鉄道に加え、バスなど地方自治体が運営する交通を指すものとします。

⒉公営鉄道とは

 日本において公営鉄道とは「公」が「営む」、つまり、地方自治体が営業する鉄道をさします。一般的に、収益を上げるよりも住民に対するサービスが目的です。日本には、現在以下のものがあります。

☝東京都が運行する都営浅草線

 現存するものは表の通りですが、廃止された路線も多くあり、そのうち多くは、横浜市電や川崎市電などの路面電車で、廃止の理由はモータリゼーションが主であることが多いです。

⒊公営鉄道の現状

 表を見ると、公営鉄道は大都市に多く、市営鉄道の場合、鹿児島市以外は全て政令指定都市となっています。当然収益も安定している…と思うかもしれませんが、収益にはばらつきがあります。

最初に、今後経営状況が良好であると推定されている例として、福岡市営地下鉄です。

次のグラフをご覧ください(年度の間隔が一定ではありません)。


福岡市地下鉄長期収支見通しについて・福岡市営地下鉄収支より作成

グラフは、2009年になされた福岡市営地下鉄の単年損益予想と、2017年度までの実際の単年損益をグラフ化したものです。現在のところ、予想を上回る利益を上げており、順調な経営状況となっています。

 これは、2035年ごろまで増加するといわれている福岡市の人口があるからです。福岡市は2010年から2015年の人口増加率が全国の政令指定都市中トップとなっていて、その背景には住みよいまちづくりなどがあげられます。

 一方、苦しい状況となっているのが仙台市営地下鉄です。2015年12月に八木山動物公園駅~荒井駅間に東西線が開業しましたが、開業2年目の平日の一日平均利用者は、学生利用者増加などにより初年度より8千人ほど増えたものの、6万5千人となっていて、開業時に予想された8万人を下回っています。事業収支は下のグラフのようになっています。

2017年度は見込み、2018年度は予想 仙台市HPより作成

 先述の通り、2015年12月に東西線が開業し、2016年度は収入が増加しましたが、それ以上に支出が増大したため、およそ30億円の赤字となり、その後も赤字が続いています。

☝苦しい経営状況となっている仙台市営地下鉄

写真提供:部員

 公営鉄道の場合、必ずしも利益を上げなければならないわけではありませんが、公営鉄道の財務状況の悪化は自治体の財政の重荷となってしまい、行政サービスの質の低下を招いてしまいかねません。かといって、廃止してしまうと、市民の生活の足が奪われることになります。

⒋公営交通の維持

 現在、日本では少子高齢化が進行しているのはご存知かと思いますが、これは公営交通に大きな影響を及ぼしてきます。というのも、少子高齢化に伴い、利用者が減少するため収益は悪化し、その一方で税収は減少するため、公営交通が財政の大きな負担になっています。すでに、バスなども含めた国内のすべての公共交通のうち、約9割は赤字となっています。

 また、開業から数十年がたった路線は改修が必要となります。

 財政にとって、負担が大きくなりすぎると、減便や廃止を検討せざるを得なくなり、利便性の低下につながってしまいます。こうなると、公営交通の利用離れにもつながってしまいます。

⒌新線計画中止の例―川崎市営地下鉄

 ここまで、現存する公営鉄道について記述してきましたが、ここでは、新線計画がありながら頓挫した路線の例として、川崎市営地下鉄について紹介します。

川崎市営地下鉄は1960年代に計画が浮上した路線です。数回の計画変更を経て、路線は川崎駅~新百合ヶ丘駅となり、新百合ヶ丘駅~武蔵小杉駅を初期整備区間、武蔵小杉駅~川崎駅を2期整備区間としていました。このうち、初期整備区間は具体的な設置駅も決まっていて、宮前平駅で東急田園都市線と乗りかえることができます。また、新百合ヶ丘駅では小田急多摩線と、川崎駅では京急大師線と直通運転を行う計画となっていました。

 このような計画でしたが、川崎市は「総合都市交通計画に位置付けられている川崎縦貫鉄道計画の必要性は認識」しているとしながらも、「川崎縦貫鉄道への導入を前提としていた新技術の実用化には、今後長期の時間を要する見込みであるとともに、開業を迎えるころには、超高齢化・人口減少社会が到来し、市民ニーズが変化する可能性がある」、「当該鉄道計画は、本市の財政の負担が大きい」として、計画を休止しました。

 計画が進まなかった理由としては、直通運転を行うとしていた京急と小田急の軌間や車体長が異なり、技術面で課題を抱えていたことや財政の負担があげられます。また、2003年に川崎市が市民1万人アンケートを実施したところ、次のような結果となりました。


川崎市公式ウェブサイトより作成

円グラフを見ると、市民が計画に後ろ向きであったことがわかります。公営鉄道である以上、計画に市民の同意は不可欠であり、計画の壁となりました。

 川崎市営地下鉄の計画は休止となりましたが、川崎市が交通施策を何も行っていないわけではなく、小田急の複々線化の一助となったり、川崎駅の北口整備などを行ったりしました。

⒍公営交通の役割

 そもそも、公営鉄道にはどのような役割があるのでしょうか。

 当然、住民の足としての役割があるわけですが、私企業でないため、この側面は強いといえます。これが、交通機関として機能することにより、地域住民の地域内移動が容易になり、地域活性化につながるほか、自動車利用が公営鉄道の利用にシフトすれば、大気汚染や地球温暖化、交通渋滞の改善にもつなげられます。

 また、昨今、高齢者ドライバーによる交通事故が問題視されている中で、高齢者の足となることもできます。

 こういった自治体が抱えている社会問題に対して、公営鉄道は解決策となることもできます。

⒎大阪市交通局の民営化

 公営鉄道がこのような状況にある中で2018年4月に行われたのが、大阪市交通局の民営化です。

 これは、大阪市営地下鉄を大阪市高速電気軌道株式会社(大阪メトロ)に、大阪市営バスをシティバス株式会社に移行したものです。

 大阪市営地下鉄は全国の公営鉄道の中でも特に経営状況が良好で、赤字路線もいくつかあるものの、ドル箱である御堂筋線などが黒字であるため、平成28年度の全路線の合計で400億円以上の利益を上げています。

このような良好な経営状況下にありながら、民営化が行われた背景には、将来的な人口減少に伴う乗車人員の減少、市税投入による財政圧迫や関連企業の展開がしにくいことなどが挙げられます。

大阪市は、民営化のメリットについて次のように発表しています。


民営化による主なメリットは、公営の制約からの解放、経営力強化、事業の自由度向上などが挙げられ、不動産開発などが期待されます。経営力の強化による増収や、様々な制約がなくなることから、沿線への事業投資が期待できるのです。

一方で、利益が見込めない事業への投資の減少によるサービス低下を心配する声もあり、「原則として少なくとも10年間はサービス水準を維持する」としていますが、その後については言及されていません。

⒏今後の公営鉄道の在り方

 先述しましたが、日本は少子高齢化社会を迎えていることもあり、公営鉄道に限らず多くの鉄道で利用者が減少することが予想されます。その中で、サービスを維持することと財政健全化は、いわば矛盾しているといえます。ここでは、住民の足を残すことを前提としていくつか検討したいと思います。

(1)民営化

 大阪市営地下鉄のように、民間企業に移行することが考えられます。公営交通の維持にコストがかからなくなるほか、その分の人員を削減でき、人件費の削減あるいはほかのことに人員を回すこともできます。また、鉄道事業にとどまらず、沿線開発なども期待できます。

 一方で、路線の経営状況が芳しくない場合、必ずしも民営化がよい選択とは言えません。黒字路線であれば民営化してもサービスの質が低下することは考えにくいですが、赤字路線の場合、経費をより削減するために、本数を減らしたり、利用客の少ない駅を廃駅にしたり、利用客の少ない区間を廃線にすることが考えられます。こうなってしまった場合、鉄道を主な移動手段としている市民にとっては生活の利便性が大きく損なわれることになります。

(2)バス・BRTへの移行

 鉄道路線を廃止し、輸送をバスやBRT(バス高速輸送システム)に移行する選択もあります。

 BRTとは、バス専用レーンやバス専用道を設けるなどして、速達性、定時制を確保したバス輸送システムのことです。日本では、東日本大震災で被害を受けたJR気仙沼線や大船渡線に導入されています。

 バスであれば、鉄道よりも小回りが利き、停留所も多く設置できるほか、維持費が大きく抑えられるといったメリットがあります。しかし、BRTの場合、バス専用レーンや専用道が必要になります。路面電車を廃止した場合、その廃線跡をバス専用道にすることができますが、地下鉄を廃線にした場合、既存の道路の1車線をバス専用レーンにする必要があります。これは交通量が多くなく、車線が多い道路であれば可能ですが、これに当てはまる道路は日本には少ないです。

 しかし、デメリットとして、バスやBRTは鉄道と比べて輸送能力が大きく劣ります。先ほど、赤字を抱えている仙台市営地下鉄の1日平均利用者数が6万5千人と書きましたが、バスの定員は約75人で、置き換えは難しいでしょう。

 また、バス・BRTは速度面でも鉄道に劣ります。たとえば、2018年にJR三江線が三次駅~江津駅の全線で廃線となり、代替バスが運転を開始しましたが、三江線の三次駅~江津駅の所要時間は4~5時間ほどでした。しかし、同じ区間を代替バスで移行すると、4本のバスを乗り継ぐ必要があり、乗り継ぎ時間も含めて5~10時間ほどかかります。このようにバスは鉄道と比べ、速度面で劣り、停留所を多く設ける場合、長距離輸送にも向いていません。

 このような点を踏まえ、長距離輸送は鉄道、短距離輸送はバスと棲み分けを行うことなどが考えられます。

(3)民営企業への投資

 これは、先述した川崎市が小田急線複々線化などを行ったように、公営鉄道にお金をかけるのではなく、ほかの鉄道事業に投資することで市民の利便性を担保、向上するものです。社会問題に対する回答となるものの鉄道会社の利益に繋がりにくいものや、大規模な建設事業の補助金などがこれに当たります。

自治体が交通機関を運営することに比べて手間、コストがかからない一方で、新線計画などは企業側の利益に配慮する必要があります。

⒐結論

 まず、公営鉄道には地域住民の足としての役割があり、どのような形であれこの役割が果たされなければなりません。財政面などで余裕がある場合は、公営鉄道として存続することが望ましいでしょう。ただ、利益が十分に出ていて、民営化による沿線開発などが期待できる場合、この限りではないでしょう。

 また、財政面などで維持するのが厳しいものの、地域の公共交通機関が乏しかったり、地域に高齢者が多かったりする場合、バス輸送に移行することも一つの手立てでしょう。

 公営鉄道の新線計画などがある自治体は、財政の負担にならないかを検討したうえで、既存の地域内の路線の事業に対する補助金を出すなども必要でしょう。

10.終わりに

 今回の研究は部分では書きたいことが決まっていたのですが、それをどのように配置するか非常に苦労し、まとまりを欠く研究となってしまいました。また、テーマである公営鉄道というくくりが広いような狭いようなで書きにくかったです。次回は最後の研究となるので、自分がここまで得てきたものをすべてぶつけて、後悔しないようにしたいですね。

最後までお読みいただき、ありがとうございました

11.参考サイト

・大阪市交通局

http://www.kotsu.city.osaka.lg.jp/library/kabushikigaisyakaplan_an.pdf

http://www.kotsu.city.osaka.lg.jp/library/ct/other000014600/h28_sub_rosenbetsu.pdf・仙台市交通局

https://www.kotsu.city.sendai.jp/kigyou/keiei/28subway_kessan.html

https://www.kotsu.city.sendai.jp/kigyou/keiei/subway_30yosan.html

・川崎市公式ウェブサイト

http://www.city.kawasaki.jp/shisei/category/54-6-7-3-1-0-0-0-0-0.html

・産経新聞

http://www.sankei.com/politics/news/171206/plt1712060016-n1.html

http://www.sankei.com/politics/news/171206/plt1712060016-n2.html

・福岡市地下鉄長期収支見通しについて

https://subway.city.fukuoka.lg.jp/subway/img/pdf/syuusi01.pdf

・福岡市営地下鉄収支

https://subway.city.fukuoka.lg.jp/subway/management/pdf/settlement/h27/profit.pdf


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