羽田空港アクセス線と関連する鉄道計画

1.はじめに

 みなさんこんにちは。中学1年の○○です。本格的に研究を執筆するのは初めてとなります。読みづらい部分があったりするかもしれませんが、自分なりに分かりやすい研究を目指して頑張りたいと思います。よろしくお願いします。

 さて、読者の皆さんは羽田空港を利用したことがありますか?羽田空港は、日本の中心的な空港として機能し、最近は再国際化やD滑走路の開業などで脚光を浴びている空港でもあります。

 そんな羽田空港ですが、実は、東京や新宿など東京都心部へのアクセスを劇的に改善させるかもしれない新たな路線計画が動き出しています。それがJR東日本の「羽田空港アクセス線」です。今回の研究では、この路線計画を研究していきます。

 なお、空港と密接に関係する今回の研究では、新型コロナウイルスの影響は見過ごせません。今回の研究では新型コロナウイルスの影響がある程度収まった状況を想定します。

2.羽田空港の現在の立ち位置

 羽田空港アクセス線の話に入る前に、今回の研究のカギとなってくる「羽田空港」について考えてみましょう。

 羽田空港の正式な名称は「東京国際空港」で、その名の通り首都東京の空の玄関口として機能しています。成田空港(成田国際空港)と並び、日本を代表する空港として知られています。

 近年では、D滑走路の開業やC滑走路の延伸、都心上空を飛行する新ルートなど数々の努力により、国際線をはじめとする発着回数の増加が行われています。読者の皆さんの中には、「羽田が国内線、成田が国際線」というイメージを持っている方も多いと思いますが、現在はこの体制に変化が生じてきているのです。

 このような状況から、これからの羽田空港は都心から離れた成田空港に代わり国際線の発着が増加し、今後の需要も増えていくと予想されます。

3.「羽田空港アクセス線」計画とは

 羽田空港アクセス線は、その名の通り「都心部と羽田空港を直結する」路線です。既存の路線網を活用し、「東山手ルート」「西山手ルート」「臨海部ルート」の3ルートが計画されています。2021年1月20日には、「アクセス新線」と呼ばれる空港島への新線の鉄道事業許可がなされ、「東山手ルート」の建設が決定しました。この時、「東山手ルート」の開業予定は2029年と報じられました。他の2ルートの建設は決まっていませんが、「東山手ルート」の後に整備に着手するとされています。

「羽田空港アクセス線」路線図(地理院地図を利用しています)

 ここからは、各ルートの詳細を解説していきます。なお、線名や地名など複雑な部分もありますが、上の路線図などで確認しながら読むと理解しやすいと思います。

①「アクセス新線」区間(羽田空港新駅~東京貨物ターミナル間)

 まずは、羽田空港と東京貨物ターミナルを結ぶ「アクセス新線」から説明していきます。

 羽田空港内には、京急線の羽田空港第1・第2ターミナル駅付近に「羽田空港新駅」を設けます。首都高湾岸線の直下に島式1面2線の地下駅として設置し、引き上げ線などは設けません。国際線ターミナルへの新駅は開業時には設けませんが、将来的に延伸する計画もあります。

 羽田空港新駅から東京貨物ターミナルまでは複線のトンネルを整備します。営業キロは約5.0 kmで、東海道本線の支線扱いで建設されます。

 東京貨物ターミナルは東京の物流の拠点となっている貨物駅で、「羽田空港アクセス線」計画では各ルートの分岐点として留置線が2本整備される予定となっています。

②「東山手ルート」区間(東京貨物ターミナル~田町間)

 「東山手ルート」は、簡潔にいうと東京駅方面へ向かう路線で、現在休止中となっている「大汐線」と呼ばれる貨物線を利用します。

 大汐線は東海道新幹線の回送線と並行して走る複線の貨物線で、東海道貨物線(浜松町~小田原間)の浜松町~東京貨物ターミナル間の通称です。このうち、「東山手ルート」で活用するのは田町~東京貨物ターミナル間で、再び列車が運行できるように再整備を行います。

 大汐線は、田町駅付近では東海道新幹線を挟んで東海道線(旅客線)と並走しますが、線路は繋がっていないため、東海道線と接続する単線の短絡線「大汐短絡線」を整備して線路を接続します。用地を捻出するため、田町駅の山手線の留置線を撤去し、代替として山手線に渡り線を新設します。

 田町駅付近で東海道線と合流した後は、東京駅へ乗り入れます。また、東京駅からは上野東京ラインへの直通運転が計画されているほか、久喜駅では東武伊勢崎線と直通運転も検討されています。

上野東京ラインなどで使われるE233系3000番台

現在の田町駅付近の様子

(最も左の線路が大汐線)

現在の大汐線

③「西山手ルート」区間(東京貨物ターミナル~大井町間)

 「西山手ルート」は新宿方面に向かう路線で、東京貨物ターミナルから大井町駅まで「東品川短絡線」を建設します。

 東品川短絡線は東京貨物ターミナルから分岐し、りんかい線の品川シーサイド~大井町間までの区間が新設されます。全線が地下で建設されますが、営業キロは明らかになっていません。

 大井町駅からは、りんかい線と埼京線を介して渋谷駅・新宿駅・池袋駅などの主要駅へ向かいます。また、新宿駅から中央線快速に乗り入れ、西東京地域や富士山方面へのアクセスの改善も見込めます。

埼京線を中心に活躍するE233系7000番台

中央線快速の主力車両E233系0番台

④臨海部ルート(東京貨物ターミナル~東京テレポート間)

 「臨海部ルート」はお台場・舞浜方面へ向かう路線で、りんかい線の車両基地である「八潮車両基地」への回送線を活用します。

 八潮車両基地は東京貨物ターミナルに隣接しており、回送線は天王洲アイル~東京テレポート間にある「品川埠頭分岐部信号場」までを単線で結んでいます。この回送線を複線化し、東京貨物ターミナルと接続する計画です。この回送線は元々「京葉貨物線」として計画されたものを流用したもので、複線化や東京貨物ターミナルとの接続の用意は既に整っています。

 東京テレポート駅からはりんかい線に乗り入れ、さらに新木場駅からは京葉線に乗り入れます。新木場駅では現在も京葉線と線路が接続しており、臨時列車の入線歴もあります。京葉線に乗り入れることで、千葉県方面からのアクセスも大幅に改善することになります。

京葉線用のE233系5000番台

4.「羽田空港アクセス線」は必要なのか

 ここまで「羽田空港アクセス線」について記してきましたが、羽田空港への交通手段は現在も多くあります。「羽田空港アクセス線は本当に必要なのか」と疑問に感じる方も少なくないでしょう。しかし、私は「羽田空港アクセス線」の建設は必要であると考えます。この章では、「羽田空港アクセス線」のような新線計画の必要性について考えていきましょう。

 まず、現在の羽田空港への交通手段はどのようになっているのでしょうか。さまざまなアクセス手段がありますが、中でも、鉄道路線の「東京モノレール羽田空港線」「京急空港線」の2つを比較してみましょう。なお、「羽田空港駅」は空港内の駅のうち新整備場駅を除いた各駅の総称とします。

東京モノレール羽田空港線

(写真は最新型車両10000系)

・浜松町駅~羽田空港駅間のモノレール路線

・最速達種別の空港快速は、浜松町駅と羽田空港第2ターミナル間を19分で結ぶ

・東京駅への最短ルート

・空港アクセスを主体とした路線だが、沿線の工場への通勤需要や臨海部への行楽需要も担っている

・荷物棚の設置など、空港利用者を考慮した設備が好評

京急空港線

(写真は****氏提供の1000形)

・京急蒲田駅~羽田空港駅間の路線

・京急本線を介し、都営浅草線・京成線とも直通

・「エアポート快特」は品川駅と羽田空港第1・第2ターミナル駅を18分で結ぶ

・新宿駅への最短ルート

・羽田空港アクセスの代表となっているものの、自動放送が導入されていないなどの案内面の欠如もみられる。

 このように、鉄道でのアクセス手段だけでも既に2路線が乗り入れており、現状のままでも輸送量は確保できているといえます。では、なぜ「羽田空港アクセス線」は必要なのでしょうか。私が重要に思う理由は「乗り換えの解消による利便性の向上」です。

 「乗り換えの解消」といっても、現在都心部へのアクセスにはどのくらいの乗り換えが必要なのでしょうか。「主要駅へのアクセスに必要な乗り換えの回数」をまとめました。

※かっこの中は乗換駅です。

※最短時間の場合のルートで算出しました。

 このように、「羽田空港アクセス線」の開業により、神奈川県を除く首都圏の主要駅への乗り換え回数を大幅に減らすことができます。なお、神奈川県内の主要駅である横浜駅や川崎駅へは京急空港線のエアポート急行で乗り換えなしで行くことができます。空港へ向かう利用客の中には、土地勘のない外国人観光客やキャリーケースを持ったビジネス客も多くいるため、乗り換えを減らすことは重要であるといえるでしょう。東京駅の京葉線ホームや天王洲アイル駅など複雑な乗り換えが必要になる駅もあるため、これらの駅を経由せずに目的地に直結することでリムジンバスへの競争力向上も期待できます。

 このような点から、「羽田空港アクセス線」の計画は実現させるべきでしょう。しかし、実際に整備するとなるとさまざまな課題が生じると思います。これについては次章で考察していきます。

5.「羽田空港アクセス線」の課題とは

 では、「羽田空港アクセス線」によって生じる課題点とは何なのでしょうか?私は、3つの課題点が存在すると考えました。これらの問題を解決するために対策できることを考えてみましょう。

①ボトルネックの存在

 現在の計画では、「羽田空港アクセス線」には増発を妨げるボトルネックがいくつか存在します。この中で最も危惧すべき場所は「東山手ルート」の田町駅付近です。

 田町駅付近はいわゆる「大汐短絡線」と呼ばれる区間ですが、この区間のみ単線で建設させることとなっています。これは用地の不足によるもので、この区間は多くの路線が密集する地点なので複線化が難しいのだと思われます。

 この問題の解決方法として最も効果的なものは、複線化でしょう。しかし、先述の通り用地が不足しているため、これは非現実的です。そのため、ダイヤの工夫などで対処するべきだと思います。

②遅延の拡大

 「羽田空港アクセス線」はさまざまな路線と直通運転しますが、どこか1つの路線が遅延すると直通先の路線まで遅延が拡大する可能性があります。全ルートとも接続点が駅間になることから直通運転の中止も簡単にはできません。また、①で述べたボトルネックによって遅延がさらに拡大する可能性もあります。高い定時性が要求される空港アクセス鉄道として改善は必須でしょう。

 この問題の解決策としては、東京貨物ターミナルに整備される留置線の活用が挙げられます。東京貨物ターミナルには2本の留置線が整備される予定なので、この留置線で折り返しを行い、出発駅への引き返しをするのがいいでしょう。

 また、振替輸送を活用することも重要でしょう。大規模な遅延が発生した場合には、「羽田空港アクセス線」への直通運転を中止し東京モノレールなどへの振替輸送を行うことで遅延の波及を最小限に留めることができます。

③りんかい線に起因する問題

 これは「臨海部ルート」のみに関連してくる問題です。りんかい線は「東京臨海高速鉄道」という第3セクターが運営しており、JR東日本よりも高額な運賃が適用されています。そのため、新木場以遠のJR東日本の各駅と羽田空港新駅の間をICカードで利用すると、経路の自動計算の影響でJRのみを利用した場合の運賃が支払われることになります。この場合東京臨海高速鉄道への運賃収入が入らなくなってしまい、不公平になってしまうといえます。

りんかい線の自社保有車両70-000系

 これの改善策として、気になるニュースがあります。「東京臨海高速鉄道の株式をJR東日本が買収し傘下に収める」というものです。現在は東京臨海高速鉄道の株式の約9割を東京都が保有しているので、これをJR東日本が買収することになります。そして、りんかい線を自社路線の中に組み込むことで運賃を統一し、経由ルートにかかわらずJRの運賃を適用することができるようになるのです。

 東京臨海高速鉄道の買収に関しては東京都の協力が必要になりますが、東京都が「羽田空港アクセス線」を推進する立場にあることもあり買収は可能だと思われます。買収の交渉を続けることが大切だと思います。

④他路線との競合

 「羽田空港アクセス線」によって主要な都心部への所要時間が大幅に短縮しますが、利用客の転移によって他の路線が利用されなくなる可能性もあります。そのため、各社は利用客の引き止めに向けた対策も必要でしょう。

 まず、東京モノレールは「空港アクセス以外の需要」に注力していくことが重要といえます。近年東京モノレールでは定期乗車券の大幅な値下げを行いましたが、こういった通勤客をターゲットとした対策を打つべきでしょう。

 京急線は、東京方面ではなく横浜方面へのアクセス改善を進めるべきです。横浜方面へは競合相手が少ないため利用客は多いと考えられます。自動放送の導入など設備面の改善も進めると良いでしょう。

6.関連する路線計画を考える

 「羽田空港アクセス線」の他にも、新たに空港アクセスに関係する路線を建設する計画は多く存在します。「羽田空港アクセス線」開業後にはこれらの計画も見直す必要があるでしょう。

 例として、羽田空港アクセスに密接にかかわる「蒲蒲線」を挙げます。東急多摩川線と京急空港線をつなぐ蒲蒲線は、東急東横線・東京メトロ副都心線などと直通することで山手線西側からの羽田空港アクセスが大幅に改善すると見込まれていました。しかし、この計画は「西山手ルート」と競合することから、場合によっては計画が立ち消えになるかもしれません。

 ほかにも「羽田空港アクセス線」と競合している路線計画はいくつか存在します。「羽田空港アクセス線」と同時に整備すると採算性に課題が生じる路線もあります。これらの路線をすべて建設するのは過剰であるといえるので、計画の見直しを進めるべきです。

7.開業後のダイヤを考察する

 最後に、「羽田空港アクセス線」の全ルートが開業したことを前提としてダイヤ研究を行っていきたいと思います。

 改善ダイヤはこのようになりました。東山手ルートからは上野東京ライン各線、西山手ルートからは埼京線と中央線快速、臨海部ルートは京葉線への直通運転を行います。東山手ルート直通列車は新橋駅を通過し、西山手ルートの一部列車は恵比寿駅・大崎駅・大井町駅を通過します。これは、大井町駅のホームが12両に対応していないことや、空港利用客への配慮のためです。

 各ルートとも、対面接続によって利便性の悪化を防ぎます。同ホームに停車中の列車と短時間で接続する対面接続は、乗り換えの負担を軽減することができるので重要だと思います。

 特急列車は、〔日光・きぬがわ〕〔かいじ・富士回遊〕のほか、先述した東武伊勢崎線直通特急の3種類を運転します。〔日光〕は既存の新宿発着の全列車の延長、〔かいじ〕は〔富士回遊〕を併結する列車のみの直通という形が妥当だと思います。なお、千葉始発の〔あずさ〕と併結する〔富士回遊〕は、連結相手を〔かいじ〕に変更すればいいでしょう。東武伊勢崎線直通特急は現在の東武線直通特急〔日光・きぬがわ〕に準じた運行形態とするのが良いと思います。

 上野東京ラインや中央線快速は非パターンダイヤなので、羽田空港アクセス線も不規則なダイヤ構成になると思われます。多くの路線が直通する複雑な運行形態が予想されるため、わかりやすいダイヤを組むことは困難だと思いますが、案内を充実させるなどの対策は必要だと思います。

〔かいじ〕や〔富士回遊〕中央線特急に使用されるE353系

8.まとめ

・「羽田空港アクセス線」は羽田空港の利便性向上のために必要な路線で、整備すべきである。

・一部のルートに存在するボトルネックについては、すぐに改善する必要性は薄いと思われる。

・遅延の拡大は、留置線の活用や迅速な対応で最小限に留めることができる。

・りんかい線については、JR東日本が買収することで運賃の統一が可能になる。

・競合する各線については、空港アクセス以外の需要や競合しない方面への需要に注力するべきだ。

・羽田空港アクセスに関係するほかの路線計画は、それぞれの計画に合わせた計画の見直しを行うとよい。

・ダイヤに関しては、普通列車のほか特急列車も乗り入れさせるとよい。複雑なダイヤ構成となることは避けられないため、案内の充実などの対策をとるべきだ。

9.おわりに

 個人的には書きたいことは書けましたが、かなり長くなってしまいました・・・次の研究では、もっとコンパクトにまとまった研究を書けるようにしたいです。ダイヤの考察もだいぶ雑なものに終わってしまったので、次はもう少しまともに取り組めるようになりたいです。

 「羽田空港アクセス線」は首都圏の空港アクセスを大幅に改善することになるでしょう。この計画の今後が楽しみです。新型コロナウイルスの影響は見過ごせませんが、無事に開業することを祈ります。

最後までお読みいただきありがとうございました!!!

10.参考文献

国土交通省

https://www.mlit.go.jp

JR東日本

https://www.jreast.co.jp/

羽田空港旅客ターミナル

https://tokyo-haneda.com

東洋経済オンライン

https://toyokeizai.net


おことわり:Web公開のため一部表現を変更させていただきました。掲載されている情報は研究公開当時のものです。現在とは若干異なる場合があります。

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