東急東横線の展望

1.はじめに

 みなさんこんにちは。浅野学園鉃道研究部の展示へのご来場、並びに部誌『停車場』125号を手に取っていただき誠にありがとうございます。高校二年の〇〇です。時間の流れというものは無情ですね。いよいよ鉃道研究部で研究を執筆するのも最後となりました。

 さて、今回はこれまでの研究の集大成として、来年3月に東急新横浜線開通とそれに伴う相鉄線との直通運転開始を控えている東急東横線の今後を考察します。これまで一貫して東急電鉄に関する話題で研究を執筆してきた身として、思い残すことがないように全力を尽くす所存です。

 それでは、さっそく本編へ入っていきましょう。

2.東急東横線とは

 東急東横線は、東京都の渋谷駅から神奈川県の横浜駅の間を結ぶ全長約24.2kmの路線です。渋谷駅から東京メトロ副都心線を介して東武東上線・西武線と、横浜駅から横浜高速鉄道みなとみらい線と相互直通運転を実施しています。また、先ほども述べた通り2023年3月より東急目黒線と共に、途中の日吉駅から分岐する東急新横浜線を経由して相鉄線との直通運転も開始する予定です。

 東横線では各駅停車・急行・通勤特急(平日に限り運転)・特急(注1)とS-TRAIN(土休日のみ運行の座席指定列車)の5種別が運行されています。このうち、各駅停車の全列車と一部の急行が8両編成、S-TRAIN・特急・通勤特急の全列車と一部の急行が10両編成で運転されています。

東急東横線の路線図

注1:一部の特急列車は「Fライナー特急」という愛称で呼ばれていますが、当研究ではそれらの列車についても「特急」として取り扱います。

3.相鉄・東急直通線とは何か

 さて、先ほど「東横線は2023年3月から相鉄線との直通運転を開始する」ということを述べましたが、これに関連する「相鉄・東急直通線」というものについてここで触れておきます。

相鉄・東急直通線とは、いわゆる「神奈川東部方面線」と呼ばれる路線のうち相鉄新横浜線の羽沢横浜国大駅から東横線の日吉駅までの区間を指すもので、東急東横線・目黒線の日吉駅と新横浜駅の間に東急新横浜線を新規に建設すると同時に、相鉄新横浜線の羽沢横浜国大駅と新横浜駅の間を延伸開業させ、新横浜駅を介する形で東急線と相鉄線との間での直通運転を開始するというものです。

相鉄新横浜線・東急新横浜線は、相鉄本線・いずみ野線、東急東横線・目黒線に接続し、東京メトロ南北線・副都心線、都営三田線、埼玉高速鉄道埼玉スタジアム線、東武東上線まで直通運転を行います。7社局14路線を結ぶ広大な鉄道ネットワークを形成することで、所要時間の短縮、乗換回数の減少など交通利便性・速達性が向上します。

(7社局合同プレスリリースより)


 この相鉄・東急直通線が開通することによって見込まれるメリットとして、以下のことが挙げられます。

①所要時間の短縮

 第一に、直通運転の開始によって所要時間が短縮できることが挙げられます。具体的には、相鉄線の二俣川駅から目黒線の目黒駅間を38分で結ぶことが可能になるとされており、現在の横浜駅経由での所要時間から16分ほどの短縮が見込まれています(東急電鉄公式ホームページより)。また、東横線系統では、新横浜駅から渋谷駅間を約30分で結ぶことが想定されています。

②新横浜駅直通による新幹線へのアクセス向上

 2つ目に、東急新横浜線の開通並びに東横線との直通運転開始に伴って東海道新幹線へのアクセスが向上するというのがあります。

 現状では、東横線沿線から東海道新幹線を利用する場合、菊名駅で横浜線に乗り換えて新横浜駅まで向かうことが多いです。しかし、東急新横浜線が開通すると渋谷方面から直接新横浜駅に向かえるようになります。これによって、乗り換えをなくして利便性を向上させることが可能になるのです。

4.東横線の抱える問題

 ここまで東急東横線と相鉄・東急直通線の概要について触れてきましたが、実は東横線はいくつかの問題を抱え込んでいます。本研究では、東横線に存在する問題点を、相鉄・東急直通線にそこまで関係のないものと相鉄・東急直通線に深く関連するものの二つに分けて考察していきます。

Ⅰ相鉄・東急直通線の開通前から存在する問題

① 新たに導入される『Q SEAT』をどうするか

 一つ目に東横線に投入予定の座席指定列車をどうするか、という問題があります。というのも、先日横浜の総合車両製作所に入場していた東横線の5050系が1編成10両編成化されたうえで東急電鉄に返却されました。そして、その編成に組み込まれていた2両の新造中間車の内装が、現在大井町線で座席指定サービス「Q SEAT」として運用されているデュアルシート車両のものに酷似していたのです。2022年7月29日には東急電鉄から『東横線の10両編成の一部に「Q SEAT」を導入する』というお知らせが発表されており、東横線に「Q SEAT」が導入されるのは確実となりました。

 そもそも「Q SEAT」とはいったい何なのかと思われた方もいらっしゃると思うので、ここで軽い説明を挟ませてもらいます。

 「Q SEAT」は、現在東急大井町線で運用されている座席指定サービスのことです。このサービスは夜間帯に運転されている急行列車の一部で提供されています。

 「Q SEAT」の特徴は、一列車を丸々座席指定とするのではなく一部の車両のみで座席指定サービスを提供しているところにあると言っていいでしょう。形態としては京阪電鉄の「プレミアムカー」、JR西日本の「Aシート」に近くなっています。これにより、既存の輸送力の減少を最小限に抑えつつ座席指定サービスを提供することが可能になっているのです。


既に大井町線・田園都市線で運用されている「Q SEAT」向け車両

側面は一面オレンジ色のラッピングが施されており「Q SEAT」のロゴが刻まれている

東横線向けの車両にはオレンジ色ではなく赤色のラッピングが行われる予定


 話を東横線に戻しますが、東横線に「Q SEAT」を導入するとなった場合、実はある問題が生じることになります。それは、「Q SEAT」サービスを『どの時間帯に』『どの区間で』『どのように』実施するのか、というものです。

 これらの3つはどれも互いに繋がっている問題です。例えば、『平日の朝時間帯』に「Q SEAT」を設定する列車を運転するのであれば、通勤目的での利用者を狙って『上り列車で』『横浜駅側を乗車専用ゾーン・渋谷駅側を下車専用ゾーンとした東横線内完結列車』にする、というのが考えられますし、土休日なら横浜周辺への観光客をターゲットとして横浜駅に『土休日の10時前後に』到着するように『東武東上線・西武線・東京メトロ副都心線からの直通で』『東横線内の停車駅は下車専用駅を中心にする』など、可能性は多々存在します。それらの中で、最も適切な運行形態は一体どのようなものなのでしょうか。

② 車両留置場所の不足

 車両を留置しておく場所が足りないというのも東横線における大きな問題の一つです。東横線における車両基地は元住吉駅に隣接するものが唯一であるうえ、この車両基地は目黒線と共用のものであるため車両を留置しておけるスペースがかなり少なくなっているのです。現状のダイヤでは、深夜に元住吉駅の通過線にまで車両を留置していることからも、東横線の車両の留置場所がひっ迫しているのが分かります。また、この問題は相鉄線との直通に向けた目黒線の全編成8両化並びに東横線の一部編成10両化に伴ってさらに深刻化しており、早急に対策を打たねばならないと考えます。

Ⅱ相鉄・東急直通線に深く関連する問題

③ 横浜方面と相鉄線方面への優等列車本数の振り分け

 相鉄線との直通運転を開始するとなった際、相鉄線直通に列車をどの程度振り分けるべきなのかも考えなければなりません。

東横線の現在のダイヤ(日中時間帯)では、特急列車・急行列車がそれぞれ毎時4本、各駅停車が毎時8本の運転となっています。ただし、東横線から相鉄線に直通する列車はすべて10両編成での運転となる見込みのため、全列車が8両編成で運転されておりなおかつ10両編成化が難しい各駅停車は既存の本数が維持されることになるでしょう。

 とすると、必然的に特急又は急行列車を相鉄線に直通させることになるのですが、ここで二つの選択肢があります。それは、相鉄線直通分の列車を単純に増発するのか、現在は横浜方面に向かっている列車を相鉄線に直通するようにするのか、というものです。

 前者の場合、現在の横浜方面からの輸送力を維持することが可能になりますが、代償として渋谷駅から日吉駅の区間で輸送力が過剰になる可能性があります。また、列車を増発するとそれだけ必要編成数が増えることになり、検査時などのための予備編成数を減らさねばなりません。

 その一方、後者では相鉄・東急直通線開業に伴う必要編成数の増加を最小限にとどめつつ、渋谷寄りの区間が本数過多になるのを避けることができます。ただし、仮に急行を毎時2本相鉄線への直通に充てるとすると、横浜方面に向かう優等列車が毎時6本(急行2本、特急4本)となり、15分もの間優等列車の間隔が開くといった事態を引き起こしかねません。

双方のメリット・デメリットを考慮したうえで結論を下す必要があります。

④ 新横浜駅へ向かう人は本当に東急新横浜線を利用するのか

 さて、私は第3章で相鉄・東急直通線について紹介した際に「東横線沿線から新横浜駅へのアクセスが向上する」と述べましたが、実のところ、相鉄・東急直通線を利用したとしても所要時間はそこまで短縮されない可能性があり、そのため東急新横浜線があまり利用されないといった事態に陥る恐れがあるのです。一体どういうことでしょうか。

 東急電鉄が公表している相鉄・東急直通線の予想所要時間では、渋谷駅と新横浜駅の間を約30分で結ぶとされています。しかし、現在でも12時台に渋谷駅を出ると最速27分(菊名駅でJR横浜線に乗り換えた場合の所要時間)で新横浜駅に到着することが可能です。

 つまり、東急新横浜線が開業したとしても、東横線・東急新横浜線を経由するより菊名駅でJR横浜線に乗り換えたほうが早く新横浜駅に到着できる場合があるということです。もちろん、相鉄・東急直通線の一番の目的はその名の通り相鉄線との直通運転です。しかしながら、新横浜駅へのアクセスを無視するというのも無理な話であるため、東急新横浜線経由のルートを利用するメリットを作り出す必要があると考えます。

⑤ 蒲蒲線問題

 最後に取り上げる問題は、蒲蒲線計画に関するものです。

 蒲蒲線計画とは、東横線の途中駅である多摩川駅と蒲田駅(以下東急蒲田駅)の間を結んでいる東急多摩川線のうち、矢口渡駅~東急蒲田駅間を地下化したうえで京急蒲田駅の地下を経由しつつ京急空港線の大鳥居駅まで延伸し、大鳥居駅から先は京急空港線に乗り入れるという計画です。東急多摩川線と京急線では列車の軌間幅が異なるため、直通運転を実施する際はフリーゲージトレイン(注2)を導入することが検討されています。

 今回蒲蒲線計画として紹介したのは新大田区案と呼ばれるものですが、この計画のうち、東急多摩川線の地下化並びに地下京急蒲田駅までの延伸をするのが第一期整備、地下京急蒲田駅から大鳥居駅までの延伸とフリーゲージトレインの導入が第二期整備とされています。この計画が実現すると、東横線沿線から羽田空港へのアクセスが格段に向上することになります。

 しかし、JRが計画している「羽田空港アクセス線」(注3)が実際に建設されると、渋谷駅などから羽田空港に向かう場合に東横線・蒲蒲線経由よりも、「羽田空港アクセス線」の一つであり、新宿・渋谷といった副都心方面と羽田空港を結ぶことになっている「西山手ルート」で羽田空港に向かったほうが、所要時間が短く済むようになるうえ、蒲蒲線は会社をまたぐ都合で必然的に運賃が高くなることが予想されるので、運賃面でも「羽田空港アクセス線」に軍配が上がる結果となりかねません。

 蒲蒲線を「羽田空港アクセス線」に負けないような路線にするために、東横線としてできることは何かないのでしょうか。

注2:フリーゲージトレインとは、軌間幅の異なる路線間での直通運転を実現するために車輪の左右間隔を線路の軌間に合わせて自動的に変換する電車のことを指します。

注3:「羽田空港アクセス線」はJR東日本が計画・建設しているもので、「東山手ルート」「西山手ルート」「臨海部ルート」の3つが存在しています。現段階ではこのうちの「東山手ルート」のみが2029年度の開業を目指して既に着工されており、その他の2ルートの開業時期は未定となっています。

蒲蒲線計画の新大田区案(大田区ホームページより引用)

5.問題点の解決策

 それでは、先ほどあげた5つの問題点を改善・解消するための対策を挙げていこうと思います。

Ⅰ相鉄・東急直通線の開通前から存在する問題

① 新たに導入される『Q SEAT』をどうするか

 東横線における「Q SEAT」サービスを『どの時間帯に』『どの区間で』『どのように』実施するのか、という問題ですが、今回私が提案するのは『平日朝の通勤特急のうち毎時1本』『菊名駅から渋谷駅の間で』『菊名駅から自由が丘駅の間の通勤特急停車駅を乗車専用駅、中目黒駅を降車専用駅に設定して』運転するというものです。

 まず『平日朝の通勤特急のうち毎時1本』というところについてです。平日の朝時間帯は通勤客の利用が多く、また東横線における最混雑時間帯の混雑率は123%(2020年度、国土交通省より)とある程度混雑しているため、「Q SEAT」サービスを提供するべきと考えます。東横線の急行は停車駅が多いため座席指定サービスの快適性を損ないかねず、加えて朝時間帯の急行は相鉄・東急直通線開業後は相鉄線直通に充当されることが考えられるため、通勤特急で「Q SEAT」サービスを提供するのが良いでしょう。また、「Q SEAT」は現在12編成(注4)が在籍している10両編成の5050系4000番台のうち、最終的には4編成にのみ組み込まれると推定されているため、「Q SEAT」サービスを提供する列車の本数を増やしすぎると「Q SEAT」を組み込んでいる編成の運用が回りきらなくなることが想定されます。よって、毎時1本の運転とするのが妥当なのではないでしょうか。

注4:「Q SEAT」組み込み後は15編成まで増加する見込みです。

 続いて『菊名駅から渋谷駅の間で』というところに関してですが、現在の東横線において、横浜駅から優等列車を利用する場合、一本遅い列車を待てば着席できるという場合が多く、仮に横浜駅から着席サービスを提供しても利用されないことが予想されます。一方、通勤特急の途中停車駅である菊名駅・日吉駅・武蔵小杉駅・自由が丘駅から着席するのは難しくなっているため、これらの駅からは「Q SEAT」サービスの利用が多く見込まれます。以上が菊名駅から「Q SEAT」サービスを提供する理由です。その逆側、「Q SEAT」サービスを終了する駅を渋谷駅にしたことについては、既に実施されている大井町線の「Q SEAT」において該当号車に専属の車掌を各列車に2人ずつ添乗させており、仮に副都心線内でも「Q SEAT」サービスを継続させるならば渋谷駅から先で東京メトロから専属車掌を2人配置する必要があります。ワンマン運転を実施しているため車掌というものが存在しない副都心線で「Q SEAT」のためだけに車掌を用意するのは東京メトロの負担が増えることにつながるため、渋谷駅より先で「Q SEAT」サービスを行うべきではないと考えました。渋谷駅から先の区間をどうすべきかに関しては後述します。

 最後に、『菊名駅から自由が丘駅の間の通勤特急停車駅を乗車専用駅、中目黒駅を降車専用駅に設定して』運転するというところについてです。これは、大井町線の「Q SEAT」サービスで乗車専用駅・降車専用駅が設定されていることを踏まえたものです。日比谷線への乗り換え客が極めて多い中目黒駅は降車専用駅とし、それ以外の通勤特急停車駅である菊名駅・日吉駅・武蔵小杉駅・自由が丘駅を乗車専用駅とするのが適当であると考えます。また、ここに記載しなかった渋谷駅についてですが、渋谷駅を含む副都心線や東上線、西武線内の各駅は「フリー乗降駅」とするのが良いでしょう。これにより、副都心線で「Q SEAT」のために専属の車掌を配属する必要がなくなることに加えて、直通先の各社の負担を最小限に抑えながら「Q SEAT」サービスを新規に提供することができます。

② 車両留置場所の不足

 正直に言うと、この問題点を東横線単体で解決することは極めて不可能に近いです。というのも、東横線沿線は既に開発が進んでいるため新しく留置線や車両基地を建設できるような土地が少ないうえに、土地代も非常に高くなっているためです。

 しかしながら、打つ手が何一つ残されていないというわけではありません。この問題は、直通先と連携することで改善することができます。では、どのように直通先と連携を取ることで留置場所を確保することができるのでしょうか。

 私は、横浜高速鉄道が推進する留置線設置の計画を推進していくべきだと考えます。現在、横浜高速鉄道が保有するY500系8両編成6本の48両は元住吉検車区の一部分を借りて留置している形になっており、この留置線計画が完遂され、元町・中華街駅に4本の留置線が完成すると、元住吉検車区の収容量に4編成分の空きが生まれます。決して十分な数とは言えないものの、現在の厳しい状況を考慮すれば多少の余裕であっても東横線にとっては大事なのではないのでしょうか。

Ⅱ相鉄・東急直通線に深く関連する問題

③ 横浜方面と相鉄線方面への優等列車本数の振り分け

 相鉄線への直通列車を増発させるべきか否かというこの問題ですが、やはり新規に急行列車を増発し、その列車を相鉄線直通に振り分けるのが適当でしょう。第4章で問題提起をした際にも述べましたが、既存の急行を相鉄線直通に振り分けた場合、横浜方面の有効本数(注5)を現在の毎時8本から毎時6本に減らす必要があります。これは横浜方面の大幅な利便性低下を招くだけでなく、競合相手であるJR湘南新宿ラインに対して保持していた本数というアドバンテージを失いかねません。現状、東横線は運賃と本数という二つの面で湘南新宿ラインへの優位性を保持していますが、2023年3月に予定されている東急電鉄全体の値上げによって、運賃面での強みが薄れることは間違いなく、それと同時に本数というもう一つの優位性までも喪失してしまえば湘南新宿ラインに利用客が流れるのは必至です。東横線の需要を保つためにも、相鉄線直通の急行列車は新たに設定するべきであると考えます。

 

 続いて、相鉄線に直通する急行を新規に設定するという条件下での相鉄・東急直通線開通後の東横線ダイヤを予想ならびに作成したので、ここで紹介しておきます。

注5:有効本数とは、ある目的地に行くとき、実際に有効な列車の本数のことです。東横線で横浜駅から渋谷駅に向かう場合を例として説明します。現在、日中にこの区間を走破する列車は毎時16本(本文中の現在のダイヤを参照)となっていますが、このうち毎時8本の各駅停車は途中駅で後続の優等列車に追い抜かれます。この場合、毎時8本の各駅停車は有効本数に含まないため、日中の東横線における一時間当たりの有効本数は8本となるのです。




▲2022年3月改正時点での東横線のダイヤ

(平日12時台、30分パターンのため一部のみを抜粋)


▲先の条件下での相鉄・東急直通線開業後のダイヤ

太字の列車が新設の相鉄線に直通する急行


 直通後のダイヤを作成するにあたり意識したのは『極力既存のダイヤを変更しない』ことです。何度も述べている通り、東横線は北側で東京メトロ副都心線・東武東上線・西武線と、南側で横浜高速鉄道みなとみらい線と直通運転を実施しています。相鉄線との直通運転を開始するにあたって、もしも抜本的なダイヤ改正を行ってしまえば、直通先の各社のダイヤも大幅に変更する必要性が生じます。ほぼ全列車が東横線と直通運転を行っているみなとみらい線は特に問題ないと考えられますが、副都心線では途中の区間を併用している東京メトロ有楽町線との、東武東上線や西武線では池袋駅を発着する列車との兼ね合いがあるため、これらの路線も巻き込んだ特大規模のダイヤ改正を実施しなければなりません。直通先各社の負担を低減するためにも、できる限りダイヤを変更しないというのは重要なのではないでしょうか。

 作成したダイヤに話を戻しますが、今回は新設する急行列車を現在の特急の直後に来るように設定しました。これにより、相鉄線直通の急行がある時間帯は自由が丘駅の発車時刻基準で優等列車がおおよそ5分に1本と均等に発車するようになっています。

 新設の急行列車から各駅停車への乗り継ぎは日吉駅で可能になっています。日吉駅より渋谷駅側では各駅停車を1本も追い抜かないことになっていますが、これは1本前の各駅停車がすでに自由が丘駅で待避を行っており、なおかつ自由が丘駅時点では新設の急行列車と先行の各駅停車との時間差が大きい一方で、その先の祐天寺駅で追い抜きを行ったとしても各駅停車に乗り換えて利用できるのは代官山駅ただ1駅であり、それならば各駅停車を渋谷駅まで先着させたほうが良いと考えたからです。

 また、新設の急行列車は副都心線の新宿三丁目駅までの運転とし、なおかつ副都心線内は急行として運転するのがよいでしょう。このダイヤでは各駅停車石神井公園行きが渋谷駅に12時59分に到着すると、直後を走る新設の急行が13時丁度に到着することになっているため、この2列車のどちらかを渋谷駅止まりにする、或いはどちらかを副都心線内急行とする必要があります。

 新設の急行を石神井公園行きとし、各駅停車を渋谷駅止まりにするというのも考えましたが、この場合は新設する急行の終着駅までの所要時間が増加し、相鉄線直通運用に必要な編成数が増大することが考えられたため不適当であると判断し、新設の急行を副都心線内でもそのまま急行運転するのが良いと思いました。

 続けて、行先を副都心線の中でも東横線側に位置している新宿三丁目駅としたことについてですが、これは相鉄線直通の急行列車の運転距離を短くすることによって相鉄線に直通する運用数を削減するというのが第一の理由です。もう一つの理由としては、副都心線内に存在する東横線方面へ折り返すことが可能な駅のうち最も定時性が確保しやすいのが新宿三丁目駅であったからです。渋谷駅を除いた副都心線内で東横線方面への折り返しが可能な駅は和光市駅・小竹向原駅・千川駅・新宿三丁目駅となっている(注)のですが、このうち和光市駅から小竹向原駅の間は東京メトロ有楽町線との併用区間となっているため本数が非常に多く、この区間でこれ以上列車を増やすことは難しいと思います。千川駅と池袋駅で折り返す列車はいずれも本線上で、かつ営業列車の合間を縫って折り返しを実施しているため、何らかの理由で列車が遅延した場合は列車が折り返す機会を失いかねず、さらに遅延を増大させることになってしまいます。

 これに対し、新宿三丁目駅には和光市方面に当駅折り返し列車用の引き上げ線が存在しているため、本線上の列車を気にすることなく折り返すことができます。また、現状のダイヤでは日中時間帯に新宿三丁目駅を始発・終着とする営業列車は設定されていないため、長時間に渡り引き上げ線に留まることが可能であるというのも新宿三丁目駅を終着駅とする大きなメリットです。


東京メトロ副都心線の路線図(直通先各線は省略)

□印の駅は東横線方面への折り返しが可能な駅

注6:池袋駅を始発・終着とする列車も存在しますが、基本的にこれらは小竹向原駅又は小竹向原駅~千川駅間で折り返しを実施しており、池袋駅自体に東横線方面への折り返し設備は存在しません。

④ 新横浜駅へのアクセスは本当に向上するのか

 東横線・東急新横浜線を利用する経路より東横線・JR横浜線を利用する既存の経路の方が短時間で新横浜駅にたどり着くことができるため、相鉄・東急直通線が開通したとしても東横線沿線の人たちは新横浜駅へ向かう際本当に東急新横浜線を利用するのだろうかという本問題ですが、私はある程度の利用であれば見込めると思います。

 なぜならば、東横線沿線に住んでいる人たちが新横浜駅に向かう際、東急新横浜線を利用することで「乗り換えの手間を省ける、または乗り換え時の移動距離・移動時間を短縮できる」からです。菊名駅で乗り換えたほうが所要時間を短くできるものの、菊名駅で横浜線に乗り換える場合は階段やエスカレーターを使って別階にある改札口を抜け、そのあと横浜線の改札に入った内でまたしても上下の移動を強いられることになります。日帰りの出張などで手荷物が少ない場合は上下の移動が何度あろうと特段不便に感じたりすることはないでしょうが、これが大量の荷物を持っている場合だと話が変わってきます。新横浜駅を利用する人は、新幹線への乗り換えが目的であることが多く、そういった人たちは大体キャリーケース等の大きな荷物を持ち歩いています。キャリーケースを持って階段を何回も上り下りするのは大変です。

 これが、東急新横浜線を利用するとしたらどうでしょうか。渋谷方から新横浜駅へ向かう場合、東横線から東急新横浜線へは急行停車駅であれば一本、急行通過駅や目黒線から東急新横浜線に直通する列車に乗り継ぐ場合でも同一ホーム上で乗り換えることができます。従来のルートであれば上下の移動が必要でしたが、東急新横浜線開業後は上下の移動が大幅に減少することになるのです。大きな荷物を持っている人からすれば、平面上での移動で済ませられるというのは非常に大きなメリットであると考えられます。

⑤ 蒲蒲線問題

 JR東日本が計画している「羽田空港アクセス線」のうち「西山手ルート」が蒲蒲線よりも先に開通した場合、蒲蒲線を開業させたとしても太刀打ちできないということになりかねない、という問題ですが、私は蒲蒲線が「羽田空港アクセス線」に対抗するためには新大田区案は不十分なのではないかと考えました。

 先程紹介した通り、新大田区案では矢口渡駅~東急蒲田駅間の地下化並びに地下の東急蒲田駅から京急蒲田駅までの延伸を第一期整備として、軌道変換装置を設置する京急蒲田駅から大鳥居駅の間の延伸を第二期整備とすることが予定されています。しかし、これらは全て現状での輸送力を前提として考えられているのです。現在の東急多摩川線は18m級3扉の車両が3両編成で毎時8本の運転となっており、これでは羽田空港へのアクセスを賄うことなどは到底できません。よって、必然的に列車の増発或いは車両の増結を実施する必要があるでしょう。

 しかしながら、仮に東急多摩川線の列車を増発したとしても、それに接続する東横線や目黒線からの乗客を乗せ切るというのは難しいところがあるでしょう。そもそもの話、第一期整備と第二期整備の間の期間に東横線沿線から蒲蒲線を利用する場合は多摩川駅と京急蒲田駅でそれぞれ乗り換えをする必要があり、これらの乗り換えはすべて④の改善策で述べていた上下の移動が必要な乗り換えに該当します。特に京急蒲田駅での乗り換えは2階と3階から交互に羽田空港行きの列車が発車するなど非常に複雑なものとなっており、羽田空港から来る人と羽田空港へ行く人のどちらにとっても不便なものになるのは間違いないでしょう。

 これらを踏まえたうえで今回提案させていく案(以後α案と呼称)は以下の図のようなものです。



▲α案での完成予定平面図

実線が狭軌区間、破線が標準軌区間

実線の下に④と書かれているのは20m級4ドアの車両に対応した番線を示す


 新大田区案と異なっているのは主に次の三つの点です。

 一つ目は、「新大田区案でいう第一期整備と第二期整備を同時に完成させる」点です。これに伴いコストが増大することが予想されるものの、この二つの工事を同時に実施した場合は蒲蒲線開業後すぐに地下京急蒲田駅での東急多摩川線・京急空港線間での乗り換えを平面上で行うことが可能となり、羽田空港に向かう或いは羽田空港からやってくる大きな荷物を持っている利用者からしてみればありがたいことであるといえるでしょう。

 また、新大田区案での第一期整備と第二期整備を同時に実施するのは京急電鉄側にもメリットがあります。それは、新線建設によって京急空港線の増発を行うことが容易となり、「羽田空港アクセス線」に対して本数面での優位性をより強固なものにできるというものです。第4章の注3で述べた通り、「羽田空港アクセス線」には「東山手ルート」、「西山手ルート」、「臨海部ルート」という3つのルートが存在しているのですが、「西山手ルート」は東横線・東急多摩川線・蒲蒲線・京急空港線と競合するのに対し、既に建設が進められている「東山手ルート」は京急本線・京急空港線と競合するのです。京急線経由では「東山手ルート」に対して所要時間・料金の面で不利であるのは明白であるため、他の点でアドバンテージを生み出さなければならないでしょう。そこで、蒲蒲線を整備するのです。これによって京急蒲田駅~羽田空港第1・第2ターミナル駅間の本数を現在の毎時12本(横浜方面に向かう列車も含めた本数)から増やすことができます。これにより、京急蒲田駅で乗り換えをしなければならないものの羽田空港から品川方面に先着する列車の本数を現在の毎時6本から最大で毎時12本まで増やすことができ、毎時4本の運転が予定されている「東山手ルート」に対し本数の面で大きな差をつけることが可能になるのです。

 二つ目は、新設の京急空港線区間に軌道変換装置を設置しない、つまり「蒲蒲線へのフリーゲージトレイン導入を断念する」という点です。フリーゲージトレインは車両の大幅な重量増加など未だ技術的な問題点が数多く存在しているうえ、フリーゲージトレインの導入には莫大な費用がかかるため、フリーゲージトレインを蒲蒲線のためにわざわざ導入するべきではないと考えました。

 三つ目が東横線にも大きく関わってくるところで、「地下京急蒲田駅の東急線ホームのうち、1つの番線を20m級4扉の車両が発着できるようにしている」ところです。これによって、東横線の渋谷方面から京急蒲田駅まで直通する列車を設定するということが可能になるのです。当研究ではこの東横線から東急多摩川線に直通し京急蒲田駅に至る列車を「直通急行」と呼称します。直通急行を設定すると、京急蒲田駅で一度平面乗り換えをしなければならないという負担は生じるものの、新大田区案では避けられない多摩川駅・京急蒲田駅での階層をまたいだ乗り換えを解消することができます。④で述べたように、大きな荷物を持っている状態で上下の移動を強いられるのは苦痛です。空港を利用する人は大きな荷物を持っていることが多いため、可能な限り平面での移動で済ませたほうがよいでしょう。

 直通急行の停車駅は、東横線内で渋谷駅・中目黒駅・学芸大学駅・自由が丘駅・田園調布駅とし、東急多摩川線内の各駅はすべて通過とするのが適当だと考えました。東横線の列車は最短でも20m級車両8両編成による運転となっていますが、東急多摩川線の列車は18m級車両3両編成での運転となっており、東急多摩川線内の各駅のホームも18m級車両を4両停車させるのが限界となっているため、東横線から直通してくる列車を東急多摩川線の駅に停車させるにはホームを延長する工事を実施しなければなりません。しかし、東急多摩川線では踏切が駅に隣接しているという場合が多く、ホームを延伸しようにもできないのです。そのため、東急多摩川線内の各駅は通過せざるを得ないでしょう。地下化される東急蒲田駅に停車させてもいいのではないか、と考えられる方もいらっしゃるかと思われますが、地下化後の東急蒲田駅には東急多摩川線向け車両に対応した、18m級3扉用のホームドアが設置される可能性が高いです。18m級3扉の車両に対応したホームドアが設置されたホームでは、20m級4扉の車両で運転される直通急行はホームドアと車両のドアの位置が大方一致しないため、客扱いをすることが難しくなります。完全に客扱いができないというわけではありませんが、その場合は直通急行に充当される車両にドアカットなどの特殊な扉扱いを行えるようにするための改造を実施する必要があり、そこまでして直通急行を東急蒲田駅に停める必要はないでしょう。

 懸念点としては、田園調布駅~多摩川駅間で東横線から東急多摩川線に転線する際、一時的に目黒線の線路を使用することになり目黒線の線路容量を圧迫しかねないというものがありますが、目黒線の線路を走行するのはわずかな区間のみであり、そもそも日中時間帯における目黒線の本数は毎時12本と多少余裕があるため、少しの間目黒線の線路を占有したとしても大きな問題にはならないと考えました。


6.改善策を踏まえた蒲蒲線開通後の東横線ダイヤ

 最後に、第5章の問題点③に対する改善策としたダイヤに問題点⑤の改善策として挙げた直通急行を組み込んだ日中ダイヤをここに掲載しようと思います。


▲相鉄・東急直通線並びに蒲蒲線開通後の予想ダイヤ

※直急:直通急行

 このダイヤの特色は「自由が丘駅以北で東横線の優等列車が約5分に1本になっている」ところです。新設の急行列車が既存の特急と急行の間の埋めるように走ることになるため、これまで自由が丘駅以北から特急を利用していた人の半分程度は新設の急行を利用することが予想されます。これによって特急の混雑を緩和することができるでしょう。

 増発した急行についてですが、相鉄線に直通する列車に関しては問題点③の改善策で述べた通りなので割愛します。

直通急行のダイヤは基本的に相鉄線直通の急行を15分ずらしたものに準拠しています。田園調布駅を13時3分に発車することになっているのは、現在のダイヤで目黒線の列車が13時1分に田園調布駅を出発しており、前後の間隔を確保するためです。また、直通急行の副都心線内における扱いですが、相鉄線直通の急行と同様に副都心線内急行の新宿三丁目行きとするべきでしょう。相鉄線直通の急行と行先・種別を共通化することにより、田園調布駅より先の区間で事実上「副都心線内でも引き続き急行運転を実施する急行新宿三丁目行きが15分に一本運転されている」ということになり、利用者にとって分かりやすいダイヤになるのではないかと思います。

7.総括

① 東横線での「Q SEAT」サービスは平日朝の通勤特急のうち毎時一本の菊名駅~渋谷駅間で実施し、直通先では自由に利用できるようにする。

② 車両留置場所の不足はみなとみらい線の留置線計画を完遂することで多少の改善を目指す。

③ 東横線から相鉄線に直通する急行は増発する。

④ 新横浜駅へのアクセスは確実に向上する。

⑤ 蒲蒲線計画は従来の新大田区案と異なるα案を推進し、競合他社には東横線から「直通急行」を運転することで対抗する。

8.研究後記

 まず、ここまで読んでくださった読者の皆様、本当にお疲れ様でした。この部活で執筆する最後の研究ということで気合を入れて執筆しましたが、東横線という一つの題材を取り扱っているのにもかかわらず15000字弱の研究となり、正直なところ私自身もここまで文字数が多くなるとは思っていなかったので驚いていると同時に、最後の方の執筆を駆け足で行わざるを得なかったため色々と満足に表現できなかったのは失敗したと感じています。

 さて、我々高二こと101期生は今回の「停車場125号」をもちまして鉃道研究部からは引退となります。入部当時、相応に長いのだろうなと思っていた5年間はあっという間に過ぎ去ってしまいました。寂しい所はありますが、この道は歴代の先輩方が通ってきた道でもあります。後のことは、102期以下の皆さんに託すとしましょう。

 これは私が3年と少しの間研究班で過ごしたことでようやく気付けたことなのですが、「何かについて研究する」というのは良いものです。自身で問題を提起して、それについて詳しく考察した後に改善策を見つけ出す。このような経験は、他の部活ではそうそう味わうことができません。人生の中でも、一つの事柄について徹底的に掘り下げ考察する機会は滅多にないのではないでしょうか。その点で、浅野生活の中でそういう機会を何度も与えてくれたこの部活には感謝してもしきれません。

 最後になりましたが、この最後の最後まで目を通していただいた読者の皆様、高二が提出期限破りを多々行っているにもかかわらず期限内に多くの研究を提出し、「停車場125号」という101期最後の晴れ舞台を共に作り上げてくれた後輩の皆さん、今回も含め、いくつもの研究を校閲してくださった顧問の先生方、そして何より途中で模型班から移ってきた私を拒まずにこの「停車場125号」まで共に戦い抜いてくれた高二の皆に感謝を述べさせていただきます。

本当に、本当にありがとうございました!!!!

9.参考資料

・国土交通省

https://www.mlit.go.jp/

・JRTT 鉄道・運輸機構

https://www.jrtt.go.jp/

・和歌山県ホームページ

https://www.pref.wakayama.lg.jp/index.html

・大田区ホームページ

https://www.city.ota.tokyo.jp/

・JR東日本

https://www.jreast.co.jp/

・東急電鉄

https://www.tokyu.co.jp/index.html

・京急電鉄

https://www.keikyu.co.jp/

・東京メトロ

https://www.tokyometro.jp/index.html

・西武鉄道

https://www.seiburailway.jp/

・相鉄グループ

https://www.sotetsu.co.jp/

・みなとみらい線 | 横浜高速鉄道株式会社

https://www.mm21railway.co.jp/

・都市鉄道利便増進事業 相鉄・JR直通線、相鉄・東急直通線

http://www.chokutsusen.jp/

おことわり:Web公開のため一部表現を変更させていただきました。掲載されている情報は研究公開当時のものです。現在とは若干異なる場合があります。

浅野学園鉃道研究部 『停車場』アーカイブ

浅野学園の鉃道研究部が発行する部誌『停車場』のアーカイブサイトです。過去に発行された『停車場』を自由に閲覧することが出来ます。

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