東急線の座席指定サービスの今後について

1.はじめに

 こんにちは、中2の**です。初めての文化祭号ということで張り切って書こうと思います。よろしくお願いします。


2.そもそも「座席指定サービス」とは?

 今回のテーマとなる「座席指定サービス」ですが、「座席指定サービスってどんなもの?」と思われる方も多いでしょう。本題に入る前に、「座席指定サービス」の定義について解説していきます。


①座席指定サービス」の概要

 「座席指定サービス」とは、端的に言えば「指定席」です。「有料特急」のような着席サービスを含める場合もありますが、狭義ではいわゆる「ライナー」のような列車を指すことが多いです。「有料特急」と「ライナー」はどちらも「追加料金を払うことで着席できる」という点で共通していますが、両者は異なるものとして捉えられることが多いです。具体的には、「有料特急」は専用の特急型車両を使用するのに対し、「ライナー」は運用列車にあわせ座席配置を変えられるデュアルシートを装備した車両を使っているものが多いという点が大きく異なります。また、「ライナー」は朝夕のラッシュ時に設定されることがほとんどです。

 こういった「ライナー」の数は2010年代に大きく増加しました。その先駆けとなったのが2008年に運行開始した「TJライナー」です。この「TJライナー」は「『デュアルシート』を使用する」「通勤客向けの列車である」といった特徴を持つ典型的な「ライナー」で、この「TJライナー」に倣い多くの関東私鉄で「座席指定サービス」が実施されるようになりました。


②関東私鉄における「座席指定サービス」の現況

 関東の大手私鉄では、小田急電鉄・相模鉄道以外で「座席指定サービス」が設定されています。こういった列車は自社管内で完結することがほとんどですが、西武鉄道の「S-TRAIN」や東武鉄道の「THライナー」のように他社線に直通しているものもあります。全号車が指定席として運行されているものが多いですが、京急電鉄の「ウィング・シート」や今回取り上げる東急電鉄の「Qシート」のような「一部号車のみ指定席」のものもあります。

 東武鉄道と西武鉄道は「ライナー」と「有料特急」の両者が運転されている珍しい例です。また、観光向けに運転される京王電鉄の「Mt.TAKAO号」や、デュアルシートではなく普通のクロスシートの車両を使用する列車もある京急電鉄の「ウィング号」といった特殊な例も多く存在します。


京王電鉄の「京王ライナー」「Mt.TAKAO号」

使用車両は5000系(写真)


京急電鉄の「ウィング号」

使用車両は2100形(写真)、1000形



東武鉄道の「TJライナー」

使用車両は50090型(写真)


西武鉄道の「S-TRAIN」「拝島ライナー」

使用車両は40000系0番台(写真)



↑関東私鉄の「座席指定サービス」の例↑

※「座席指定サービス」としての運用時ではない列車を撮影した写真もあります

以上で「座席指定サービス」の説明は終了です。次章からはいよいよ本題、「東急線の座席指定サービス」についての考察に入っていきます。


3.東急線の座席指定サービスの現状

現在東急線内で座席指定サービスが設定されているのは大井町線・田園都市線と東横線です。まずはこれらの列車の現状について見ていきましょう。


①大井町線・田園都市線 「Qシート」

 「Qシート」は平日夕ラッシュ時間帯の大井町線の急行で設定されている座席指定サービスで、全ての車両が座席指定制である他社の例とは異なり一般列車に1両のみ連結されているのが特徴です。運行区間は大井町駅~長津田駅間で、17時台から21時台にかけておよそ30分間隔で運行されています。

「Qシート」が連結されている大井町線の急行用車両(写真は6000系)


②東横線 「S-TRAIN」

 「S-TRAIN」は土休日に東横線で運行されている、全車座席指定サービスの列車です。この列車に使用されるのは西武鉄道の40000系で、東急電鉄の車両は用いられません。「S-TRAIN」自体は平日にも運行されていますが、東急線に乗り入れてくるのは土休日のみとなっています。土休日の運行区間は元町・中華街駅~西武秩父駅間で、途中の飯能駅・所沢駅発着の列車も存在します。本数は1日2.5往復とそこまで多くなく、朝・夜間を中心に運行されています。

 現在設定されている座席指定サービスはこの2つです。ただし、「S-TRAIN」に関しては都合上主題からは外すこととします。次章からは「Qシート」の問題点、他線区への拡大にフォーカスして「東急線の座席指定サービスの今後」に関して考察していきます。


4.大井町線・田園都市線の「Qシート」について

 最初に考察するのは、既に「Qシート」が運行されている大井町線・田園都市線です。

 まずは運行形態について解説していきます。大井町線は各駅停車と急行の2つの種別が運行されており、各駅停車が5両編成なのに対し急行は7両編成です。各駅停車と急行の車両は明確に分けられており、「Qシート」は急行用の車両である6000系の一部と6020系に組み込まれています。

 大井町線の急行は日中と夕ラッシュ時には田園都市線に乗り入れています。「Qシート」のサービスは平日の夕ラッシュ時の下り急行で行われており、大井町駅〜長津田駅間で営業されています。たまプラーザ駅から先は「フリー乗降区間」とされていて、座席指定券を持っていなくても「Qシート」に乗車することができます。


①大井町線・田園都市線「Qシート」の問題点

 両線で運行されている「Qシート」ですが、どのような課題があるでしょうか。

 最初に考えられるのは「本数が少ない」「発車時刻が不揃いでわかりにくい」というものです。夕ラッシュ時の大井町線の急行は15分間隔で運行されていますが、「Qシート」は全列車に連結されているわけではありません。大井町駅を発車する急行の時刻表は以下のようになっています。


下線→「Qシート」連結 斜字→長津田行(他は溝の口行)

このように、「Qシート」連結の急行は30分~45分間隔となっています。参考までに、他社の座席指定列車である東武東上線の「TJライナー」は30分間隔、京王線の「京王ライナー」は60分間隔となっています。「Qシート」の本数はそこまで少なく感じないかもしれませんが、「Qシート」は編成中1両のみが座席指定制であるということに注意しなければなりません。

 もう一つの問題点は「朝ラッシュ時の運行がない」というものです。他社の座席指定列車の多く(先述の「TJライナー」や「京王ライナー」、京急電鉄の「ウィング号」など)は朝ラッシュ時にも設定されていますが、「Qシート」は朝ラッシュ時には設定されていません。そこで、朝ラッシュ時の設定も検討すべきだと思います。


②夕ラッシュ時の増発は可能なのか?

 まずは夕ラッシュ時の増発・発車時刻統一について考えていきます。

 毎時4本ある大井町線の急行全てに「Qシート」を設定する場合、現在「Qシート」が連結されていない6000系の一部編成にも「Qシート」を連結する必要があります。「Qシート」を新たに連結するのには車両の新製または改造が必要になり、かなりの費用がかかってしまいます。その他にも、「Qシート」導入により追加料金不要で乗車できる車両の数が減少することによる混雑悪化なども懸念されます。そのため、全列車に「Qシート」を設定するのは非現実的といえるでしょう。

 では、発車時刻の統一についてはどうでしょうか。私は「Qシート」を30分間隔に統一するのがいいと思います。こうすることで「Qシート」の時刻が利用客にもわかりやすくなると思います。現状では溝の口行と長津田行が混在していますが、毎時00分、30分の列車を長津田行の「Qシート」とするといいと思います。30分間隔ならば混雑の著しい悪化も防げます。しかし、これにより「Qシート」用の車両を連結する編成がもう1編成必要になってしまうと考えられます。そのため6000系1編成に「Qシート」を改造によって組み込むといいと思います。既に「Qシート」が連結されている6000系2編成では「Qシート」は新製車で、置き換えられた旧3号車を目黒線5080系の8両化に伴う増結中間車として利用するという手法が取られましたが、目黒線8両化の完遂時期を考えるとこの方法を取るのは難しいと思います。そのため、今までの「Qシート」用の車両とは異なり、現在の3号車の車両を改造するのがいいと思います。


③朝ラッシュ時の運行は可能なのか?

 次は朝ラッシュ時の「Qシート」導入について考えていきます。

 そもそも、朝ラッシュ時にはなぜ「Qシート」が運行されていないのでしょうか。その理由は「朝ラッシュ時の運行形態」にあると思います。というのも、朝ラッシュ時には長津田駅から大井町線への直通列車が運行されていないのです。朝ラッシュ時の大井町線の急行は溝の口駅始発となっていますが、溝の口駅〜大井町駅間の所要時間は23分しかありません。約20分間の乗車時間で「Qシート」に乗車する人は多くないでしょう。

 このようなことから「朝ラッシュ時にも長津田駅から大井町線への直通列車を運行すればいいのでは?」と思う方もいるかもしれません。しかし、田園都市線の線路容量は限界に達しており、新たに大井町線直通列車を設定する余裕はありません。既存の田園都市線の列車を置き換えるという方法もありますが、田園都市線の列車が10両編成であるのに対し大井町線の急行は7両編成であり、輸送力が著しく低下してしまいます。そのため、朝ラッシュ時に長津田駅から大井町線への直通列車、そして「Qシート」を導入するのは困難であると思われます。

 なお、平日の朝には長津田駅を6時9分に発車する長津田駅〜大井町駅間の急行があります。この列車に「Qシート」を設定するのも手ですが、本数の少なさから利用が伸び悩む可能性が大きいため、妥当ではないと思います。


5.東横線への「Qシート」導入について

 ここからは、座席指定サービスに関わる将来的な計画について述べていきます。最初に見ていくのは東横線です。というのも、東横線へのQシート連結はほぼ確実視されているのです。現在注目されているこの計画について考えていきたいと思います。


①東横線の現在の運行形態

 まずは、東横線の現状から見ていきましょう。

 東横線は渋谷駅と横浜駅を結ぶ路線で、東急電鉄の主要幹線の一つです。渋谷駅からは東京メトロ副都心線を介し西武池袋線・東武東上線へ、横浜駅からは横浜高速鉄道みなとみらい線に乗り入れています。さらに、2023年3月からは新たに開業する日吉駅~新横浜駅間の「東急新横浜線」を介した相鉄線との直通運転を開始する予定です。東横線では特急、通勤特急、急行、各駅停車の4種類の無料列車があり、一部の特急は「Fライナー」という愛称が付けられています。さらに、土休日には有料列車の「S-TRAIN」が運行されています。

 東横線には8両編成の列車と10両編成の列車があります。各駅停車は8両編成のみが、特急と通勤特急は逆に10両編成のみが使われています。急行は8両編成と10両編成の両方が使われます。


東横線の5050系(10両の4000番台)


副都心線から乗り入れる17000系


東武線から乗り入れる50070型

2023年から乗り入れる相鉄線の20000系


②東横線「Qシート」導入の動き

 東横線への「Qシート」導入の公式発表は2022年6月時点ではありませんが、導入を裏付ける動きが立て続けに発生しています。東横線用とみられる「Qシート」の車両が落成したのです。

 東横線用の「Qシート」とみられる車両は2022年6月に登場しました。もともと東横線では8両編成の一部を10両編成に増結する計画があり、10両編成しか行われないはずの相鉄直通対応改造工事が一部の8両編成にも施されるなどの動きがありました。改造が施されたこれらの8両編成を10両編成化するための新造中間車が「Qシート」対応として落成されたことになります。

 この他にも、「S-TRAIN」用の券売機に「S-TRAIN」が停車しない駅のボタンが設定されているなど、「Qシート」導入を裏付けるものがいくつか存在します。


「Qシート」用とみられる無塗装中間車

既存の5050系8両と併せて輸送された


「S-TRAIN」の発券画面

停車駅以外のボタンが設定されている


なお、東横線の「Qシート」は新たに10両化が行われるとみられる4編成に2両ずつ連結されるものとみられます。


③東横線への「Qシート」導入の問題点

 次に、東横線へ「Qシート」を導入する際に起こりうる問題点を考えていきます。


(1)混雑

 「Qシート」の設定により追加料金なしで乗車できる車両が減少してしまうため、混雑の悪化が懸念されます。「Qシート」導入の際に増結が行われるため混雑は悪化しないのではないか、という意見もあるかと思いますが、先述した8両と10両の分担を考慮すると8両の列車を「Qシート」連結の10両に置き換えることは難しいといえます。東横線での「Qシート」は編成中に2両となるため、混雑は現在と比べて大幅に悪化するでしょう。


(2)直通先との兼ね合い

 大井町線・田園都市線の「Qシート」は自社線内で完結していますが、先述の通り東横線は多くの路線と直通運転を行っています。

 東横線とみなとみらい線・副都心線・西武線ではすでに「S-TRAIN」が運行されているため設備は整っていますが、運行に際しある程度の調整は必要になるでしょう。また、直通先でのダイヤ乱れで所定の運用に「Qシート」連結の車両が充当できなくなるリスクもあります。どのような区間で運行するかも大きな問題になりそうです。

(3)元町・中華街駅の容量

 東横線のほとんどの列車の始発駅である元町・中華街駅ですが、ホームの数が少ないという課題を抱えています。「Qシート」は終着駅で座席の転換・車内清掃などが必要であり、停車時間が長くなってしまいます。そのため、短時間で折り返しをするための工夫が必要になります。


(4)需要

 どのくらいの利用客が見込めるかも課題です。東急東横線と並行するJR湘南新宿ラインには、有料座席であるグリーン車が連結されています。座席の指定こそできないものの、特急型車両にも遜色ない設備を持つグリーン車は東横線の「Qシート」にとって大きな脅威となるでしょう。


④東横線「Qシート」の運行形態予想

 以上のことを踏まえ、「Qシート」の運行形態を考察していきたいと思います。


(1)運行区間

 まずは運行区間について考えていきます。私が考えたのは以下のような運行形態です。

朝ラッシュ時:元町・中華街駅〜新宿三丁目駅間(東横線内通勤特急、副都心線内通勤急行)

夕ラッシュ時:新宿三丁目駅〜元町・中華街駅間(副都心線内通勤急行、東横線内通勤特急)

 すでに実施されている大井町線・田園都市線の「Qシート」とは異なり、朝ラッシュ時にも運行するようにしました。東横線は田園都市線に比べ運行本数や待避駅に余裕があるためです。

 みなとみらい線側の発着駅は朝夕とも元町・中華街駅としました。相鉄線への乗り入れも考えましたが、相鉄線では座席指定列車の運行実績がないことから乗り入れは困難であると思います。副都心線側の終着駅を新宿三丁目駅にした理由としては、池袋駅まで行くと運用数が1運用分増加してしまうことや小竹向原駅で合流する東京メトロ有楽町線からの遅延の影響を最小限にすることができる点などが挙げられます。夕ラッシュ時は新宿三丁目駅始発としました。これは池袋駅が「S-TRAIN」の降車専用駅であり、座席指定列車用の設備が整っていないためです。田園都市線の「Qシート」ではたまプラーザ駅以西が「フリー乗降区間」となっていますが、田園都市線の「Qシート」よりも長距離で利用する乗客が多い(横浜駅のような主要駅が末端部にあるため)と考えたので、東横線では「フリー乗降区間」の設定は不要であると思います。「S-TRAIN」とは異なり、通勤向けという性質から西武線・東武線への直通は不要だと思います。

(2)運行本数

 運行本数に関しては、朝夕ともに30分間隔がいいと思いました。「Qシート」を組み込む編成は確定していませんが、他社から乗り入れてくる10両編成の車両も多く存在するため、たくさんの列車に組み込むのは難しいと思います。

 現在通勤特急は西武線方面と東武線方面に30分間隔ずつ、東横線内では15分間隔で運行されています。そのため、既存のパターンサイクルと調和し、大井町線・田園都市線の「Qシート」と同程度の運行本数となる30分間隔が適当であると考えました。


(3)混雑悪化への対策

 これに関しては、相鉄線との直通開始に伴う優等列車の増発で対処が可能であると思われます。先述の通り東横線・相鉄線の直通に対応しているのは10両編成のみなので、相鉄線に直通する列車は必然的に10両編成の優等列車になります。現在は「元町・中華街駅と東武線方面を結んでいる列車」を、「元町・中華街駅と池袋・新宿三丁目駅を結ぶ列車」と「相鉄線方面から東武線方面を結ぶ列車」の2列車に変更することで、分岐駅である日吉駅から池袋駅・新宿三丁目駅間では増発とすることができます(なお、西武線は相鉄線方面に乗り入れないことが決定しています)。日吉駅以南では本数の増加は見込めませんが、相鉄線方面からの列車を「Qシート」連結の列車の直前に運行すれば日吉駅以北からの混雑はそこまで悪化しない(夕ラッシュ時は逆に日吉駅以北の乗客は先に発車する相鉄線への列車に乗車する)と考えられるため、大きな問題にはならないと思います。


(4)遅延対策、元町・中華街駅での折り返し

 「Qシート」連結の車両が所定の運用に就けるように、独立した運用を組むのがいいと思います。また、元町・中華街駅での折り返し時間を削減するため、朝ラッシュ時の送り込み列車は回送列車とするのがいいと思います。

 具体的には、朝ラッシュ時に元町・中華街駅まで回送し営業運転を行い、池袋駅到着後は回送として元町・中華街駅まで来た道を戻らせます。2往復程度した後に入庫し、日中は車庫で待機とします。夕ラッシュ時は新宿三丁目駅まで回送し、朝ラッシュ時と同様に片道を回送として2回程度往復します。こうすることで西武線と東武線に乗り入れず、ダイヤが乱れた場合でも日中の運用を設定しないことで遅延を吸収することができます。


(5)需要の有無

 「S-TRAIN」では、横浜駅~渋谷駅間が350円、横浜駅~池袋駅間が560円となっています。これはJRの普通列車グリーン車を利用した場合の580円(土休日)よりも安く、料金面での優位性はあると思います。また、平日のグリーン料金は土休日よりもさらに高額な780円となっていること、着席が保証されていないことから、東横線「Qシート」は確実に着席したいというニーズに応えることが可能であると思います。

 よって、東横線の「Qシート」はある程度の需要が見込めると思います。


6.目黒線への「Qシート」導入は可能なのか?

 次に「Qシート」導入を考察するのは目黒線です。目黒線は東横線とは異なり「Qシート」導入に向けた動きは起こっていませんが、東横線や田園都市線・大井町線とともに都心に向かう主要路線の一角をなしている目黒線で「Qシート」導入が検討されていてもおかしくありません。そこで、目黒線への「Qシート」導入についても考えていきたいと思います。


①目黒線の現在の運行形態

 目黒線は目黒駅と日吉駅を結ぶ路線で、田園調布駅〜日吉駅間は東横線と並走しています。現在は日吉駅が終点ですが、東横線と同様に、2023年からは東急新横浜線を介し相鉄線方面への直通運転が開始されます。それに伴い一部列車の8両化や奥沢駅への上り待避線設置が行われており、目黒線の重要度は今後も増すと考えられます。

 東横線と同じく目黒線も直通運転を行っています。目黒駅から東京メトロ南北線と都営三田線に直通し、南北線の終点である赤羽岩淵駅からは埼玉高速鉄道線への乗り入れを行っています。また、東横線と同時に相鉄線への直通運転も開始する予定です。



目黒線の3000系


南北線から乗り入れる9000系(5次車)


三田線から乗り入れる6500形


埼玉高速鉄道から乗り入れる2000系


②目黒線の「Qシート」導入を考える

 では、目黒線に「Qシート」を導入するとしたらどのような運行形態になるでしょうか。そして、目黒線での運行は妥当なのでしょうか。

 考える必要があるのは以下のような事柄です。


(1)運行区間

 目黒線の終点は日吉駅で、東横線の下り列車のほとんどが終点としている元町・中華街駅よりも東京(目黒駅)寄りとなっています。そのため、都心への着席需要は東横線に比べ小さいと考えられます。そのため、日吉駅からさらに西、具体的には東横線や東急新横浜線・相鉄線方面への乗り入れも検討すべきだと思います。

 都心側の発着駅も問題です。目黒線の起点である目黒駅は折り返しが可能であるものの、東横線の渋谷駅とは異なり待避線がないため、列車本数の多いラッシュ時に長時間列車を停車させて折り返すのは現実的ではありません。目黒駅から先は、白金高輪駅から南北線と三田線に分かれます。どちらのどの駅で折り返すかを考えないといけません。

(2)直通先との兼ね合い

これは東横線で発生する問題とほぼ同じですが、目黒線ではより深刻な問題になると思われます。なぜなら、目黒線では東横線と異なり座席指定列車の運行実績が全くないからです。そのため、直通先でも新たに座席指定列車用の設備を整備しなければなりません。


(3)増結車両について

 「Qシート」用の車両は一般の車両と内装が異なるため、専用の車両を新造するか既存の車両を改造しなければなりません。大井町線・東横線では専用の車両を新造していますが、場合によっては改造という選択肢もあり得るかもしれません。


(4)目黒線「Qシート」の必要性

 以上のことから、目黒線への「Qシート」導入の妥当性を考えていきます。

 結論から言うと、目黒線への「Qシート」導入は難しいと思います。最も大きな障壁となるのは、(2)で触れた「直通先との兼ね合い」です。境界駅である目黒駅での折り返しが困難であるほか、座席指定列車の運行にあたって設備投資も必要になります。また、同様の理由で新横浜駅から先の相鉄線への直通運転も難しいと思われます。

 このようなことから、東横線とは異なり、目黒線に「Qシート」を導入するのは困難であると言わざるを得ません。目黒線沿線の着席需要は、近くを走る東横線の「Qシート」で満たせばいいと思います。


7.西武鉄道「Laview」の東急線乗り入れ

 最後に触れるのは、現在も行われている西武鉄道からの座席指定列車の乗り入れに関してです。今まで触れてきた「Qシート」は東急電鉄の車両で運行されていますが、この項で触れる座席指定列車は他社の車両で運行されるものです。本題からは少し逸れてしまいますがご了承ください。

 「Laview」は西武鉄道の001系という特急型車両の愛称です。現在は西武線内で完結する特急「ちちぶ」「むさし」の運用に就いています。


西武鉄道001系「Laview」


「Laview」の仕様として話題となっていたのが、地下鉄への乗り入れに対応しているということです。地下鉄の走行に対応するための貫通扉や保安装置といった装備を持っており、ホームドアにも対応しているのです。そのため、入線実績こそないものの「Laview」の副都心線・東横線方面への乗り入れは現実的であるといえます。

 しかし、「Laview」の副都心線・東横線方面への乗り入れには課題もあります。


①案内上の問題

 西武鉄道では「特急」は有料種別として扱われており、「Laview」のような特急型車両が使用されています。しかし、東急電鉄では「特急」は追加料金が不要な列車となっています。つまり、「Laview」が東急線まで乗り入れてくる場合、東急線内での種別の案内が問題となるのです。


②「S-TRAIN」との兼ね合い

 西武線と東急線を直通する座席指定列車は、現在も「S-TRAIN」が存在します。「S-TRAIN」は「Qシート」などと同様のデュアルシートであり、特急型車両である「Laview」に比べて設備面で劣ります。例えば、「S-TRAIN」で使用されている40000系にはテーブルがなく、窓割りが合っていない席も存在します。それに対し「Laview」は快適な車内や広い窓が好評であり、両者を共存させた場合「Laview」に利用客が流れてしまうのは明確です。


③運行形態

 「S-TRAIN」は利用客が伸び悩んでいることで有名です。先述した設備面の問題もありますが、それ以上に大きな理由となっているのが「運行時間帯」だと思います。例えば、元町・中華街駅発の西武秩父行きは朝早い便しか存在せず、他には夕方に運転されている飯能・所沢行きしかありません。例え「Laview」の導入で設備面が改善したとしても、この使いにくいダイヤが変わらなければ利用は増えないでしょう。

 これらを踏まえ、「Laview」の東急線乗り入れを考察していきます。


〈1〉東急線内での案内

 東急線内では、西武鉄道では列車名にあたる「ちちぶ」のような列車名を種別代わりに使用すればいいと思います。「S-TRAIN」の場合も列車愛称ではなく種別として案内されており、東急線内ではこれと同様の措置を取ればいいでしょう。


〈2〉「S-TRAIN」との兼ね合い

 これに関しては、東急線に乗り入れる土休日の「S-TRAIN」を「Laview」で置き換えてしまうというのがいいと思います。設備面で劣る「S-TRAIN」を残す意味はありませんし、乗車率がそこまで高くない現状では「Laview」化による定員の減少(両数が10両から8両に減少するほか、1両あたりの座席数も減少します)もそこまで問題になりません。これにより土休日の40000系の運用が減少しますが、40000系は通勤型としても利用が可能な車両なのでそこまで問題にならないでしょう。


〈3〉運行形態

 「S-TRAIN」の「Laview」化に際して、元町・中華街駅を9時台と10時台に出る西武秩父行きの列車を新設するといいと思います。現在の「S-TRAIN」は無料列車のパターンを崩さずに設定されているため、日中であっても設定は可能であると思われます。また、夕方の西武秩父駅~元町・中華街駅間の列車も15時台か17時台に増発するといいと思います。現在は細々と運転している「S-TRAIN」ですが、「Laview」化や増発を行えば利用も伸びると思います。


8.まとめ

・大井町線・田園都市線の「Qシート」は、夕ラッシュ時に30分間隔で運行すべき。

・東横線への「Qシート」導入は妥当である。

・目黒線への「Qシート」導入は困難である。

・「Laview」は「S-TRAIN」の代替として東急線へ乗り入れるとよい。


9.おわりに

 今回は前回よりも分量が多く、具体的に書けたと思います。しかし、余裕を持って書くことができなかったので、次からは是正したいです。

 なお、2022年7月29日に、東横線への「Qシート」導入に関する東急電鉄からの公式発表がありました。それによると、10両編成の列車の4,5号車を「Qシート」として営業し、2023年以降のサービス開始を予定しているとのことです。具体的な運行形態・料金設定などは後日改めて告知されるようなので、もうすぐこの研究の答え合わせができそうですね。原稿の完成直前の発表となったのでこの場を借りて紹介することにしました。

 最後に、こんな研究を最後まで読んでくださった方、

本当にありがとうございました!


10.参考文献

東急電鉄 https://www.tokyu.co.jp/

西武鉄道 https://www.seiburailway.jp/

東武鉄道 https://www.tobu.co.jp/

京王電鉄 https://www.keio.co.jp/

タビリス https://tabiris.com/

乗りものニュース https://trafficnews.jp/

おことわり:Web公開のため一部表現を変更させていただきました。掲載されている情報は研究公開当時のものです。現在とは若干異なる場合があります。


浅野学園鉃道研究部 『停車場』アーカイブ

浅野学園の鉃道研究部が発行する部誌『停車場』のアーカイブサイトです。過去に発行された『停車場』を自由に閲覧することが出来ます。

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