1.はじめに
こんにちは。鉃研に入部して4年半、とうとう最後の研究となりました。時が経つのは本当に早いものですね。最後は今まで以上にしっかり書こうと思います。
最後の研究は車内販売についてです。先日、JR東日本やJR九州など多くの鉄道会社が車内販売の規模を大幅に縮小・廃止することを発表しました。これには、車内販売の売り上げの低下が大きく関係していると言われています。一方で、全国にはまだ多数の車内販売を取り扱う鉄道会社が存在することも事実です。
そこで今回は、車内販売の規模を縮小・廃止する路線と、車内販売を存続させている路線の特徴を調べ、今後の車内販売の行方を考察していきます。若干先行きが不透明で不安ですが、最後までお読みいただけると幸いです。
2-1.車内販売の縮小・廃止について
①車内販売とは
車内販売とは列車で物品を提供するサービスの一種です。読者の方々も一度は新幹線や特急列車の車内販売を利用したことがあるかと思います。
車内販売サービスは1875年に車内で座布団をレンタル販売していたことが始まりです。当時の客車の座席は木製で硬く、貸し座布団は好評を博したと言われています。ただこれはあくまでもレンタルで、販売は1898年に関西鉄道※1が車内でお弁当やお茶などを売り出したのが始まりです。
※1関西鉄道:明治時代に存在していた鉄道会社で、現在のJR関西本線、JR草津線、JR片町線、JR紀勢本線、JR桜井線、JR和歌山線、JR奈良線、JR大阪環状線の前身である。
②車内販売の縮小・廃止
そんな車内販売ですが、ここ数年は衰退の一途をたどっています。次ページのJR東日本のプレスリリースをご覧ください。
※1関西鉄道:明治時代に存在していた鉄道会社で、現在のJR関西本線、JR草津線、JR片町線、JR紀勢本線、JR桜井線、JR和歌山線、JR奈良線、JR大阪環状線の前身である。
新幹線・在来線特急列車の車内販売サービスの一部列車の終了と取扱品目の見直しについて
(1) 3月15日を以て、車内販売の営業を終了する列車(区間)
※グランクラスサービスについてはこれまで通り継続
(2) 3月16日以降、取扱品目の見直し対象となる列車と品目別取り扱い
※「かがやき」「はくたか」は販売を継続
(2019年2月18日「JR東日本ニュース」より抜粋)
このように車内販売の規模が大幅に縮小されたことが分かります。さらに、7月1日からは、ホットコーヒーの取り扱いをやめ、車内販売が継続されていた「かがやき」「はくたか」の取扱品目が見直され、弁当や軽食類、デザート類、お土産類、雑貨類の販売も中止されました。
2019年に大幅に縮小された車内販売ですが、規模の縮小は今に始まったことではありません。表1は新幹線のここ数年の車内販売の変遷を示したものです。2012年の「こだま」の車内販売廃止を皮切りに次々に廃止されていることが分かります。在来線特急も、新幹線の車内販売の廃止と同じタイミングで、規模を縮小していきました。
<表1>新幹線における車内販売の変遷
車内販売が見直されたスーパービュー踊り子
シンカンセンスゴイカタイアイス(提供:部員)
見られなくなる日も遠くない
2-2.車内販売縮小・廃止の理由
では、車内販売の規模が縮小または廃止されているのはなぜなのでしょうか?
①利用客の減少
そもそも読者の中で車内販売を頻繁に利用するという人はいますか?おそらく頻繁に利用する人は少数になるかと思います。実際、筆者も車内販売を頻繁には利用したことがありません。
では車内販売を利用する場面を考えてみましょう。
<場面1>
乗る予定の列車が迫っていて、駅で飲食物を買う時間がなくなってしまった。
そこで車内販売で、飲食物を買うことにした。
<場面2>
列車に乗っていたら、途中で飲み物、食べ物を切らしてしまった。
目的地まではまだ時間がたくさんある。そこで車内販売で、飲食物を買うことにした。
考えられるのはこれらのような場面なのではないでしょうか?
車内販売を利用するのは、有事である場合が多く、車内販売自体を目的に利用する場面が少ないです。さらに利用客が減ったということは、このような緊急時に遭う場面が少なくなったことになります。これは駅ナカ、駅構内のコンビニの店舗数増加が大きく関係しています。
駅ナカとは、鉄道会社の敷地内にレストランやコンビニ、アパレルショップなどが展開するスペースの総称のことです。駅ナカの定義が曖昧なので今回の研究では、改札内で展開する商業施設とします。
JR東日本を例に考えてみましょう。JR東日本の駅ナカは「ecute」と呼ばれ、駅(eki)を中心(center)にあらゆる人々(universal)が集い(together)楽しむ(enjoy)快適空間に生まれ変わることを願う意味が込められています。2005年に大宮駅で開業したのを皮切りに、現在、大宮駅、品川駅、立川駅、日暮里駅、東京駅、上野駅、赤羽駅で展開されています。これらに共通するのは 乗降客数の多いターミナル駅である点です。人が多く集まるターミナル駅の改札内で買い物が済ませられるのが大きな特徴で、2013年度売り上げは4184億円になっています。日本マクドナルドの売り上げが2604億円であることを考えると、いかに駅ナカビジネスが成功しているかが分かるかと思います。
<表2>エキュートの売上高※1※2
※1 データは2013年度、乗客数は2018年度
※2 乗客数の順位はJR東日本管内の駅の中のランキング
※3 「エキュート品川サウス」は、「エキュート品川」と運営会社が異なる
また改札内ではなくとも、駅舎と複合し商業施設を展開している、駅ビルも現在多数あります。
JR東日本では、1976年に新宿駅南口に「新宿ルミネ」(現在は新宿ルミネ1)が開業して以来、「ルミネ」が15店舗、「アトレ」が17店舗を展開されるなど、現在もなお規模を拡大させています。駅ビルも駅ナカと同様にターミナル駅に隣接する立地を生かして、アパレルブランドや雑貨、カフェなどを経営しています。
さらに最近では、駅の近くにはコンビニが展開されている場合も多いです。JRグループが経営する「New Days」や「KIOSK」を一度は利用したことがあるかと思います。グラフ2のようにNewDaysやKIOSKの1日平均来客数は、大手コンビニチェーンであるセブンイレブンやファミリーマート、ローソンよりも多くなっていて、いかに乗客にとってこれらが身近な存在であるかが分かるかと思います。
JR東日本が経営する首都圏の駅ビル、これから先も増加すると思われる
このように、駅ナカ、駅ビルなど、駅構内周辺に商業施設が充実したために、乗車前に十分な買い物を済ますことができるようになったことが理由に挙げられます。
②人件費削減
鉄道会社がコスト削減の一環として、人件費を削減しようとしていることも理由の1つです。
鉄道会社のみならず企業は利益率を上げるために、多くの利益を生むものと、反対に損失をしているものを振り分けます。そして損失を減らすために、企業はコストを削減しようと目論見ます。
車内販売でワゴンに乗せることのできる商品、つまり収益は10万円ほどです。それに対して、かかるコストを考えると、商品の原価、ワゴンのほかに、販売員つまり人件費がかかります。この人件費とは、販売員の賃金のほかに、人材育成費など計算不可能な部分も含まれます。しかし、ワゴンいっぱいの商品の収益よりも、原価ワゴン人件費など損失のほうが大きいことは確かです。さらに、先述したとおり駅ナカ、駅ビル、コンビニの充実により車内販売の利用客が減っています。つまり損失が膨らんでいるのです。
企業は損失を減らすためにコストを削減しようとするので、廃止してもあまり影響のない車内販売を廃止、または売れ行きの良くない商品のみ廃止するという選択を取ったのです。
車内販売における必要なコスト
3‐1.車内販売の継続について
ここまでは、車内販売が廃止、縮小されている例を紹介しましたが、一方で車内販売を継続している例もあります。
①小田急電鉄
小田急線内を走る特急列車「ロマンスカー」の車内では、お弁当、サンドイッチなどの軽食類、お菓子やスイーツ、アルコール類やコーヒーなどを販売しています。乗客を飽きさせないように工夫を行っていて、季節限定メニューがあったり、ロマンスカーの形をした弁当箱を販売するなどしています。現在は、新宿駅~箱根湯本駅を結ぶ「はこね」号を中心に車内販売が行われています。
さらに、余談ですが小田急新宿駅構内には「ロマンスカーカフェ」があり、ここでも軽食や飲み物を買って休憩することができます。目の前のホームはロマンスカーが発着することもあって好評を博しています。
②真岡鐵道
土休日に真岡鉄道を走る「SLもおか」号でも車内販売を行っています。ここでは、飲み物、お菓子、駅弁、さらにSLグッズ(カレンダーなど)を販売しています。
先述した小田急電鉄の車内販売と比べると見劣りしますが、SL運行日が土休日の一往復限定であること、さらに今もなおSLを現役で運行させていることを考えると、十分健闘していると言えるでしょう。
③JRが運行する各地の観光列車
研究のはじめに、JRの車内販売は衰退の一途をたどっていると述べた一方、全国各地を走るJRが運行する観光列車では車内販売を積極的に行っています。JR東日本では陸羽東線、東北本線を走る「リゾートみのり」や小海線を走る「HIGH RAIL 1375」、JR九州では「或る列車」や肥薩線を走る「SL人吉」などが例です。
これら①〜③で共通しているのは、移動を主体としてではなく列車に乗車することが目的の観光列車であることです。いずれの場合も観光列車と宣伝し、観光客に乗車してもらうために様々な工夫を行なっています。その一環として車内販売を行い、地元の特産品などを乗客に販売しているのです。
車内販売を行うロマンスカー
高い人気を誇るSLもおか(提供:〇〇氏)
3‐2.車内販売を続ける目的
では、観光列車ではなぜ車内販売が継続されているのでしょうか?それを考えるにあたり併せて考えていきたいことがあります。なぜ全国各地で観光列車を走らせるのかということです。
①観光列車の起源
1988年の夏に運行を開始した「アクアエクスプレス」がはじめての観光列車です。アクアエクスプレスは博多駅(現鹿児島本線)〜西戸崎駅(現香椎線)での運行でした。経営はJR九州で、アクアエクスプレスのデザインを担当したのが、今や数多くの鉄道のデザインを手がける水戸岡鋭治氏です。
JR九州が観光列車を走らせた意図は、経営環境が大きく関係しています。鉄道会社の収益は人口の数によって大きく変わります。国鉄から分割民営化された1987年、JR九州初代社長石井幸孝氏は、JR九州は、東京圏、名古屋圏、大阪圏を抱える、JR東日本、東海、西日本よりも収益面で圧倒的に不利になると考えました。そこで、JR九州の経営を維持するべく、別の手段で乗客を集め収益を得る必要がありました。そのひとつが水戸岡氏をデザイナーに起用するということなのです。水戸岡氏は1992年に当時博多駅~西鹿児島駅(現・鹿児島中央駅)を走った特急「つばめ」のデザインを担当しました。
水戸岡氏は「特急の旅でも、ただA地点からB地点に正確に安全に安心して人を移動させるだけで十分という考え方もあるわけです。でも、そこにプラスアルファ、情緒をどうやったら加えられるのか、と考えた。居心地よく過ごせる空間をつくるために、色、形、素材、使い勝手をどうデザインするか。飲んで、食べて、話ができて、ちょっと車内を移動できて。沿線の文化もあり、ちゃんとした車内サービスもあるといいよね…」
(Yahoo!ニュースより引用)
とインタビューで述べられていて、この考えに観光列車の起源が存在します。
②観光列車増加の理由
観光列車の火付け役も水戸岡氏と言えましょう。2009年にJR九州の社長に唐池氏が就任すると、水戸岡氏デザインの観光列車が次々と運行を開始しました。「あそぼーい!」や「指宿のたまて箱」などがその例です。そして読者も一度は聞いたことがあるとは思いますが、2013年9月「ななつ星in九州」(以下:ななつ星)がデビューしました。始発駅と終着駅が同じのクルーズトレインの一種であるななつ星は、九州全土を3泊4日、または北九州を1泊2日で周遊します。内外装から車内サービスまで上質なものとなっていて、値段も安くても40万円前後と、かなり高いです。肝心の予約状況はというとチケットが取りたくても取れないように、運行開始から6年経つ今もなお人気が衰えることはありません。JR九州のホームページによると、2020年2月の予約まではすでにいっぱいになっています。
このななつ星の登場を期に、全国で空前の観光列車登場ラッシュが起こっています。観光列車の魅力はどこにあるのでしょうか?
まず、列車に乗ること自体が目的な観光列車がとても魅力的に感じやすいということにあります。当たり前と言えば当たり前なのですが、きちんとした理由があります。
これまでの鉄道では、移動時間の短縮を最優先に考えられていました。1964年の新幹線開業時、時速200kmだった最高速度が、今では時速320kmまで出るようになり、来たる2027年開業予定のリニア中央新幹線の最高速度は約500kmであるのを例に挙げると理解いただけると思います。しかし、水戸岡氏が述べた「移動そのものを目的」に注目すると事情が変わってきます。このような場合、乗客に少しでも車内で多くの時間を過ごして欲しいと考えるようになるため、観光スポットで徐行したり、駅に長時間停車したりする列車が増えました。今まで速さにこだわっていた鉄道会社がサービスの質にこだわるようになったのです。我々消費者にとっては、とても新鮮なものと言えるでしょう。
さらに、観光列車はこれからも収益が見込めると思われます。次ページのグラフは観光列車に関するアンケート結果をまとめたものです。
<Q1>観光列車の興味の有無
<Q2>観光列車の乗車経験
※JTBアンケート「たびQ」参考
Q1の通り、観光列車自体に興味関心がある人はなんと83%にも及びます。このアンケートからもいかに消費者が観光列車へ魅力を感じているのかが分かるかと思います。
しかし、Q2を見ると、実際に観光列車に乗ったことがある人は37%しかいません。この2.つを単純比較することはできませんが、関心はあるが乗ったことがない人がかなりいるということが分かります。実際、筆者もJR九州の観光列車に興味はあるものの、未だに乗ったことはありません。ここに誤差が生じる理由は、人気がありすぎて予約が取れなかったり、自宅から遠かったり、観光列車そもそもの値段も高く、経済的に困難であることが考えられます。
つまり、この先も観光列車に興味はあるが乗ったことがない人たちが、観光列車に乗車していくことを鑑みると、観光列車による収益は大いに見込めると言えるでしょう。
さらに車内サービスが非常にいいことも理由に挙げられます。列車に乗ってもらうことを目的にしているため、運行する鉄道会社もほかの鉄道会社に負けじと上質なサービスを提供しています。先述した、観光列車の関心度の高さや下に紹介するアンケート結果からも、乗客が観光列車の車内サービスに期待を寄せていることが分かります。
<Q3>観光列車に乗る決め手
<Q4>観光列車に乗ることが目的で旅先を決めることがある
※JTBアンケート「たびQ」参考
Q3の通り、観光列車に乗る決め手は列車の外観が圧倒的に多いようです。やはり見た目のインパクトは重要だということが分かります。また観光列車を走る周りの景色が決め手になる人も多いようです。車両の「外観」「内装」あるいは「沿線の景色」を鉄道会社の武器、つまり鉄道会社側のサービスと捉えると、乗客はサービスにかなりの期待を寄せていると言えるでしょう。Q4で半数近くが旅行先を観光列車に乗ることが目的にしている結果がそれを示しています。
③車内販売実施の理由
上質な車内サービスを提供し、乗ってもらうことを目的とする観光列車が走る理由はもう1つあります。それは、沿線地域の活性化です。観光列車では食事が振る舞われるプランも数多くありますが、そこで使用されるのは地元の食材であることも多いです。先ほど紹介した「ななつ星 in 九州」も九州地方の食材を多く使用していて、沿線自治体の活性化に大きく貢献しています。
宮崎県児湯郡(こゆぐん)都農町(つのちょう)もその1つです。人口1万人程度の小さな町ですが、ななつ星のルートと重なることが分かり、都農町観光協会がJR九州に働きかけ、都農町にななつ星が通る2日目の朝に、世界一と謳う都農町の野菜が納入されることになりました。ななつ星の乗客は富裕層が多いこともあって、都農町は大きなビジネスチャンスと捉えたようです。現在はななつ星のルートから外れてしまいましたが、都農町にとっては大変大きなアピールに繋がりました。この努力が実を結び、2017年度のふるさと納税の納税額が全国2位となりました。ななつ星でも納入していた新鮮な野菜などが大きな人気を集めているようです。
このように、観光列車が走るというだけで地元のアピールに繋がります。観光列車で車内販売を行う意義はそのような面が大きいのです。先ほど紹介した都農町は野菜を納入していましたが、観光列車に使用されるのはどのような形であれ構わないのです。観光列車の車内販売は地元のお土産や弁当を販売するなどして、地元自治体の活性化に大きく貢献しています。つまり、車内販売は観光列車にとってなくてはならないものと言えます。
4.車内販売の行方
2で車内販売が縮小廃止の場合、3で車内販売が盛んな場合を紹介しましたが、ここで車内販売を縮小廃止させるのは妥当な判断であったか否かを考えます。
それを考えるにあたり2、3の内容をおさらいしてみましょう。
<表3>
結論から言うと、車内販売の縮小廃止の判断は妥当ではありません。たしかに車内販売の割合を減らすことで短いスパンで見れば、企業業績は改善されるかもしれません。しかし、長いスパンで見ると企業にとって損失になります。なぜなら車内販売がなくなるということはそれだけサービスの質が低下しているからです。現在、鉄道会社は移動手段という面で競合相手がいます。例えば、高速バスです。
高速バスは、新幹線、特急よりは時間がかかるものの料金は圧倒的に安いです。安く移動したい人も多く、これからもかなりのニーズを確保していくと思います。房総地区では、東京湾アクアラインの開通に伴い在来線の特急よりも所要時間が短くなり、利用客が一気に高速バスに流れ込みました。グラフ3は高速バスの運行本数と輸送人員を示したものです。右肩上がりで需要が大きく高まっていることが分かります。
しかし、高速バスには劣るものがあります。それは快適さです。安さを売りにしている以上、車内サービスなどはない場合が多いです。さらにバスの車内を動き回ることはできず、座席も狭いため乗り心地は決して良いものとは言えません。
快適さでいえば、鉄道は優位に立ちます。車内を動き回ることはできるし、乗り心地も高速バスと比べるとよいです。そういう意味でも、快適さを保証している鉄道において自らサービスの質を低下させるのは、妥当とは言えません。
★ヨーロッパでの車内販売
ヨーロッパでも駅構内の飲食店や売店などが充実し、さらに高速鉄道が急速に発達したためか、車内販売や車内の売店、食堂車が次々と廃止される時期がありました。しかし、近年は復活させたりする事例が増えています。例えば、ドイツを走る高速列車ICEやICでは、売店兼食堂が設けられていたり、ドーバ海峡を介してロンドンとパリ、ブリュッセル(ベルギー)を結ぶユーロスターには売店が設けられていたりなどです。
さてヨーロッパの車内販売ですが、採算が取れているのかというと、日本と同じく採算は取れていないそうです。先述したとおり、車内販売には人件費がかかりますし、1つの車内に載せられる商品も限られています。
では、ヨーロッパで車内販売を続ける理由はどこにあるのでしょうか?その1つに鉄道会社の危機意識にあります。ヨーロッパでは高速列車だけではなく、航空機や高速バスの台頭で競争が激化しています。そんな中、他と差別化を図るため車内販売はコストがかかっても必要最低限必要なサービスであると捉えられています。
日本の鉄道業界は現在ヨーロッパと同じような状況と言えるのではないでしょうか?高速バスが競合相手となっている昨今、日本の鉄道業界でもヨーロッパと同じような危機意識が芽生えているでしょう。
主にドイツを走るICE T(提供:△△氏)
ロンドン~パリなどを走るユーロスター
(提供:△△氏)
昨年まで、いすみ鉄道の代表取締役社長の鳥塚亮氏は「車内販売はコストではなく将来への投資である」と述べられています。お金の支出には2種類あり、「コスト」なのか「投資」なのかを考える必要があり、車内販売は上手く行えばその列車の魅力を増すことに繋がるため、将来の投資と考えるべきだと言います。
以上から、私は他と差別化を図るという目的で、車内販売は継続していくべきではないかという結論に至りました。
ではどうすればいいかを考えます。ポイントは観光列車のような車内販売を行うことです。観光列車は、鳥塚氏の言う「将来への投資」そのものに当たるからです。
①時間帯、区間での商品変更
今回の車内販売の縮小廃止ですが、鉄道会社側が乗客のニーズに合わせた販売ができていたのかという疑問がわきます。商品の内訳は、ソフトドリンクや軽食類などですが、駅ビルや駅ナカが増加している昨今、そのような商品の売り上げは減少するのは当然ですし、鉄道会社側も予測はついたのではないでしょうか。
そこで、車内販売を時間帯、さらに区間で商品の内訳を変更することを提案します。例えば、通勤需要の高い朝方に新聞や雑誌を販売したり、A駅からB駅限定で、その地域のお土産品や車内販売限定品などを販売するというものです。観光列車の車内販売が売れる理由は、限定品などにつられてつい財布のヒモがゆるんでしまうのも1つです。僕も、限定品はつい買ってしまいます。コストは増加しますが、車内放送で紹介することで話題性も十分に取れます。さらに毎年違う限定品を販売するなど、商品の希少価値を高める工夫を行えば、売り上げが伸びる可能性は大いにあるでしょう。
②事業者の公募
先ほど、車内販売は高速バスにはできないサービスの1つと表記しました。新幹線や特急列車の利用者は3~4時間利用する乗客も多いです。その時間、乗客は車内に拘束されることになります。こんなに大きなビジネスチャンスはほかにはなかなか見当たりません。①のように商品変更をしたりするなど工夫次第でいくらでも商品を売ることができます。この考え方は水戸岡氏が述べていた「移動+α」の考えに帰結します。
鉄道会社が車内販売の継続が難しいのであれば、事業の委託も方法の1つと言えます。そうすることで、委託された事業者は利益を上げるため今よりも上質なサービスを行うと思いますし、乗客のニーズに応えられる可能性は大いにあります。
5.結論
①車内販売は衰退の一途を辿っている。それは、駅ナカや駅ビル、さらにコンビニエンスストアの店舗数増加で車内販売を利用する機会が減ったことに加え、人件費を削減することが原因である。
②一方、私鉄特急や地方を走る観光列車での車内販売は連日大きな賑わいを見せている。観光列車の起源は「移動+α」の考えであり、さらに乗車自体が目的となる観光列車も増えている。
③観光列車が増加した理由は、乗客が魅力的に感じる工夫を行っていることにある。車内販売はそれに一役買っている他、地元の特産品などを販売するなど、地域活性化に繋げている。
④車内販売の廃止は妥当ではない。高速バスとの競合が激化している昨今、車内販売はコストではなく将来への投資であり、差別化を図るという意味でも車内販売は継続すべきである。
⑤車内販売の継続にあたり、例えば、時間帯、区間限定の商品を設けるなど、観光列車のように購買意欲を誘うような車内販売の工夫をすべきである。
⑥鉄道会社が車内販売の継続が難しいと判断するならば、車内販売事業の委託も手の1つである。少なくとも、長時間乗客を拘束する新幹線や特急列車で車内販売を行うのを大きなビジネスチャンスと捉えることもできるからだ。
6.終わりに
車内販売は廃止されていく運命にあるのか、維持されていく運命にあるのか私は知る由もないわけですが、約150年も続いた車内販売が衰退しているというのは非常に悲しいものです。その一方、地方で活躍する観光列車の車内販売の賑わいを見ると、車内販売が大きな転換期を迎えているのかもしれません。ただ、前に述べたとおり廃止されつつある路線でも、車内販売を続ける価値は十二分にあると私は考えています。乗客にとっても鉄道会社にとっても良かったと思えるような判断が下されることを願っています。
さて、私の最後の研究となったわけですが、いかがだったでしょうか?最後まで読みづらい研究となってしまいました。申し訳ありません。私の技量ではどうしようもないです(泣)さらに、私がこの文章を書いている日は、私が定めた文化祭号の締切日からちょうど2週間が過ぎた日で、研究の仕上がりが史上最も遅い研究班長という不名誉な烙印を押されることになりました。後輩に研究の遅れは認めないだの威張っているくせに、私が出来ていないのは研究班長失格ですね。この場を借りてお詫びいたします、大変申し訳ありませんでした。
はじめにでも言いましたが、時が経つのは本当に早いものです。入部したと思ったら、あっという間に高二です。私の人生初の研究では、ピンぼけ写真を載せて先輩に嫌な顔をされたのを覚えています。でもあの時は、提出期限を守っていたなぁ(笑)毎回、年に3回停車場が出来上がるたびに、どうしたら先輩のような読みごたえのある研究を書けるのだろうと考えて、毎回の研究を私なりに工夫を重ねていきました。昨年の文化祭号で、「内容はよく書けている。自信を持っていいよ。」と現高三の先輩に言ってくださり嬉しかったことは今でも忘れません。あくまで「内容は」ですが…最近気づいたことですが、他人が言った何気ない言葉が、自分の中でずっと心の中に残って、モチベーションに繋がったりするものだなと感じました。だから私も後輩のことをもっと褒めてあげようと実はずっと頑張っていたりもしていたのですが、いかんせん私は提出期限を2週間も過ぎて研究を出すとかいう自己管理能力が著しく欠けている人なので、自分のことだけで精一杯で、全然無理でした…改めて先輩の偉大さを痛感させられました。
長い話はこの辺にして、次号から私たち高二は部活動から退き、長い長い地獄の受験勉強生活が始まるわけですが、新生鉃道研究部は若干不安ではありますが、私でもなんとかなったんで、まぁ大丈夫でしょう(笑)お互い助け合って頑張ってくださいね。
最後に、提出期限が過ぎても私の研究を見捨てなかった同輩、苦言ひとつ呈さなかった後輩、丁寧な校閲をしてくださった顧問の方々、そして私のつまらない研究を最後まで読んでくださった読者の皆様…
本当にありがとうございました!!!!
7.参考文献・サイト
【Webサイト】
・乗りものニュース
https://trafficnews.jp/post/86504
・JR東日本:東日本旅客鉄道株式会社
https://www.jreast.co.jp/
・PR TIMES TV
https://prtimes.jp/
・マイナビニュース
https://www.google.co.jp/amp/s/news.mynavi.jp/
・東洋経済オンライン
https://toyokeizai.net/
・ヤフーニュース
https://news.yahoo.co.jp/
【書籍】
・「徹底解析!!JR東日本」洋泉社MOOK
おことわり:Web公開のため一部表現を変更させていただきました。掲載されている情報は研究公開当時のものです。現在とは若干異なる場合があります。
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