北陸新幹線の新規開業区間の将来

1.はじめに

 こんにちは、研究を書く機会も残り3回になってしまい徐々に焦りを感じてきた**です。特に成長したわけでもないのですが、最後までお読みいただけたら幸いです。

 さて、今回のテーマは「北陸新幹線」にまつわる問題です。1964年に東海道新幹線が東京駅~新大阪駅間で開業して以来、日本ではこれまでに山陽、九州、東北、上越、北陸、山形、秋田、北海道新幹線が開業しています(全線開業していない路線も含みます)。その中の1つ、北陸新幹線は群馬県の高崎駅から長野、富山、金沢を経由し大阪までを結ぶ計画となっています。現在は高崎駅~金沢駅間が部分開業していますが、未開業区間においていくつかの問題が存在しています。今回はその中でも「並行在来線」にまつわる問題、そして「新規開業区間にまつわる問題」について研究していきます。

2.北陸新幹線とは

 「はじめに」でも軽く紹介しましたが、とりあえず北陸新幹線についてもう少し深く紹介します。

(Ⅰ)現状

北陸新幹線は現在、高崎駅~金沢駅で開業していますが、ほとんどの列車が東北・上越新幹線と直通しており、東京駅まで走っています(また、今後は便宜上、東京駅~高崎間もまとめて北陸新幹線と呼称します)。「かがやき」「はくたか」「あさま」「つるぎ」と呼ばれる列車が北陸新幹線を走っていますが、このうち「かがやき」は東京駅~金沢駅を結ぶ最速達列車、「はくたか」は東京駅~金沢駅を結ぶ「かがやき」に次ぐ速達列車、「あさま」は東京駅~長野駅を結び、「つるぎ」は富山駅~金沢駅を結んでいます。

そしてこの北陸新幹線は将来的には新大阪駅まで延伸する予定です。このうち金沢駅~敦賀駅(福井県)間は2022年度末に開業する予定となっています。

 敦賀駅~新大阪駅はこれまでにルートの選定でかなり揉めていましたが、2017年度までに整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(通称:与党PT)によって小浜市付近、京都駅、京田辺市付近を通るルートに決定されました。

 「整備新幹線」って一体なんのこと?と思う方もいらっしゃると思いますが、このことについては後に詳しく紹介します。なお、「並行在来線」問題と深く関わっているキーワードでもあります。


↑北陸新幹線の開業済区間の路線図 【東京駅~金沢駅】

(Ⅱ)今後の予定

 先ほど少し触れた今後の延伸計画について①金沢駅~敦賀駅②敦賀駅~新大阪駅の2つに分けて詳しく紹介します。なお、今回の研究では主に金沢駅~敦賀駅間において研究します。

①金沢駅~敦賀駅間

 こちらは2022年度末に開業予定の区間です。2012年に着工し、現在も着々と工事が進められています。なお、途中駅は北から順に「小松駅」「加賀温泉駅」「芦原温泉駅」「福井駅」「南越駅(仮称)」が設置される模様です。「小松駅」「加賀温泉駅」「芦原温泉駅」「福井駅」の各駅は現在の北陸本線の駅に隣接され、「南越駅(仮称)」は武生駅の東側・北陸自動車道武生IC付近に設置される予定です。

 現在のJR北陸本線を走る特急は京都駅を出ると主に敦賀駅、武生駅、鯖江駅、福井駅、芦原温泉駅、加賀温泉駅、小松駅、金沢駅の順に停車する(他の駅にも停車する便やこれらの駅をも通過する列車も一部存在します)ので、北陸新幹線の設置予定駅とほぼほぼリンクされているものだと考えられます。(鯖江駅は武生駅の北隣の駅なので、南越駅として1つにまとめられたと考えます)

②敦賀駅~新大阪駅間

 敦賀駅~新大阪駅間では、京都駅のほかに途中駅が2つ設置される予定です。1つはJR小浜線の東小浜駅付近、もう1つはJR片町線の松井山手駅付近に設置される見込みです。なお、こちらの区間については開業予定年月日も含めて未定であり、開業するのは少し遠い未来になりそうです。


↑北陸新幹線の未開業区間の路線図 【金沢駅~大阪駅】

※()付きの駅は駅名が仮称または名称未定の駅です

3.整備新幹線と並行在来線とは

◇整備新幹線

 では、そろそろ本題に踏み込んでいきましょう。まずは「整備新幹線」がどういったものなのか説明します。

 整備新幹線とは、計画された新幹線のうち、全国新幹線鉄道整備法(昭和45年法律第71号)第7条に基づいて政府が昭和48年(1973年)11月13日に計画された路線のことです。北陸新幹線のほかにも北海道新幹線(青森市~札幌市)、東北新幹線(盛岡市~青森市)、九州新幹線鹿児島ルート(現在開業している九州新幹線のことを指します)、九州新幹線長崎ルート(長崎新幹線はこの路線を指します)が整備新幹線に該当します。

 対して、この計画が発表される以前に計画または開業していた東海道新幹線、山陽新幹線、東北新幹線(東京駅~盛岡駅)、上越新幹線、成田新幹線(計画は既に失効しています)は整備新幹線には含まれません。今回の研究ではこれらの新幹線を便宜上「基本新幹線」とまとめて呼ぶこととします。なお、2027年に開業予定の中央新幹線(リニア中央新幹線はこの路線を指します)は計画されたのが整備新幹線よりも後のため、整備新幹線には含まれていません。また、山形新幹線や秋田新幹線も戸籍上は在来線であるので、厳密には新幹線には含まれていません。


↑先ほど挙げた新幹線と区間の一覧

※1:駅名については未確定のものも予定のまま表記してあります

※2:灰色の区間は未開業区間です(一部区間のみの開業を含みます)

 そして基本新幹線と整備新幹線にはいくつかの違いがあります。そもそも整備新幹線というワードが生まれたのは、基本新幹線の建設費が莫大にかかったことと関係しています。そして建設費を抑制するために「全国新幹線鉄道整備法」という法律が生まれ、その法律に則って整備新幹線が建設されたのです。そのため、整備新幹線の最高速度は260kmとなっているほか、基本新幹線は起終点駅など一部の駅を除いてほぼすべての駅が待避可能な構造になっているのに対し、整備新幹線は待避可能駅が極限まで抑えられています。

北陸新幹線のE7系車両(比留間氏提供)


並行在来線のあいの風とやま鉄道521系

◇並行在来線問題とは

 並行在来線については先ほど説明しましたが、ではいったい並行在来線が生まれることによってどのようなデメリットが生じるのかを考えていきます。

 大まかにデメリットを挙げると…

①運賃の上昇

②乗り換え回数の増加

③その他旅客にとって不便になること

の3点が挙げられます。では詳しく説明していきましょう。

 といいたいところなのですが…このデメリットは北陸新幹線の新規開業区間に関する問題点と重なるところがあるので、このあとまとめて詳述したいと思います。

4.北陸新幹線にまつわるメリット・デメリット

 ここからがこの研究の本題です。2022年度末に金沢駅~敦賀駅が開業することによってどのようなことが生じるか、まずはメリットから紹介したいと思います。

(Ⅰ)メリット

 北陸新幹線のメリットはズバリ乗り換えなしで東京へ行けるようになること、そして地域が活性化されることが挙げられます。

 これは2015年に長野駅~金沢駅間が開業された時と同じですが、敦賀駅まで延伸開業することによって、小松、加賀温泉、芦原温泉、福井といった北陸西部の主要都市と東京が1本で繋がります。乗り換えなしで行ける、というのはかなり魅力的なことであり、首都圏からの観光客もかなり増えるでしょう。


石川県の観光客数の動向(観光経済新聞より作成)

 上の表は平成27年に金沢駅まで延伸開業した際に、どれくらい観光客数が増えたのかを表したグラフです。ご覧のように、開業前と比べて明らかに増えていることが分かります。敦賀駅開業時にも同じように、石川県や福井県の観光客数が一気に増えることが考えられます。

 また、東京駅までの所要時間も短縮されます。福井駅を基準にした場合の所要時間を比較してみましょう。


↑福井駅から東京駅までの所要時間(乗り換え時間は含めておりません) (福井県HPより)

(A):敦賀駅延伸開業後、北陸新幹線の最速達列車を使って東京駅まで行った場合

(B):金沢駅までは特急サンダーバードの最速達列車、その後は新幹線かがやきで行った場合

(C):米原駅までは特急しらさぎ、その後は東海道新幹線のひかりで行った場合

 上の表の通り、大きな時間短縮が見込まれることが分かります。また、(B)(C)ルートは乗り換えが生じ、実際の所要時間はさらに増えるので実際には30分以上の時間短縮が見込まれるでしょう。

(Ⅱ)デメリット

 続いてはデメリットを考察したいと思います。私が考えるに、北陸と京阪神間の移動についてデメリットがたくさん生じるように思えます。とりあえず1ページ前あたりで紹介したように、まずは運賃の上昇について考えます。

①運賃の上昇

ここではいくつかのパターンにおいて、どのくらい運賃が上昇するのか検討していきたいと思います。並行在来線問題でも最も大きな問題ともいえるでしょう。

◇近~中距離移動の場合

 北陸新幹線の延伸開業とはあまり接点はありませんが、まずはスタンダードに近距離移動の場合の運賃を見てみましょう。ここではJR西日本の幹線運賃とあいの風とやま鉄道の運賃を比べてみます。JR北陸本線だった時代はJR西日本の運賃で乗れた、ということです。


↑JR西日本とあいの風とやま鉄道の運賃表(単位:円)

※1:とやま鉄道:あいの風とやま鉄道

※2:差額は「あいの風とやま鉄道の運賃」―「JR西日本の運賃」を指します

 値段が高いほうの運賃に下線をつけてみました。表を見ると、あいの風とやま鉄道のほうがJRよりも運賃が高いことがよく分かります。また、差額を見ると距離が増えるにつれて差額が広がっていくことからあいの風とやま鉄道の方がより「遠距離になるにつれて運賃が上がっていく」ということが分かります。

 ですが、これはまだ序の口といっても過言ではありません。金沢駅~富山駅など、今までは1つの鉄道会社で行けたところが鉄道会社をまたがないといけなくなる区間では、さらに運賃の差が上昇します。

 たとえば、金沢駅から東へ移動する場合の、主要駅までの運賃の差を比較してみましょう。開業前はJRの運賃、開業後はIRいしかわ鉄道+あいの風とやま鉄道+(場合によってはえちごトキめき鉄道、しなの鉄道、JR東日本の運賃も加算)です。なお、JR東日本・東海・西日本の3社の幹線を移動する場合は途中で会社が変わっても運賃が特段高くならないのが特徴です。


↑金沢駅から主要駅までの運賃の比較(単位:円)

※1:最上段は目的地の駅、次段は金沢駅から目的地までの営業キロ(単位:キロメートル)

※2:開業前は目的地までの営業キロをJR本州3社の幹線の運賃表で照らし合わせたもの

※3:開業後は現在営業している路線を乗り継いで行ったときの運賃

(最短距離かつ北陸新幹線を使わずに行った場合、ただし金沢駅~新潟駅は越後線を使わずに行った場合)

 ご覧のとおり、先ほどよりも差額が広がっていることが分かります。続いては長距離移動において運賃比較をしてみましょう。

◇長距離移動の場合

 さて、今度は長距離移動について考えてみましょう。ここでは例えば大阪駅~富山駅をモデルにしてみましょう。この区間は、北陸新幹線が金沢駅へ開業するまで特急サンダーバードや特急しらさぎ(しらさぎは名古屋駅or米原駅発着)がひっきりなしに走っていました。ですが金沢駅延伸開業によって金沢駅~富山駅間は第三セクター化し、特急電車も金沢駅止まりとなり(和倉温泉行きは除く)、富山駅~大阪駅を早く移動する場合には金沢駅で新幹線と特急電車を乗り継ぐ必要が発生しました。

 そして敦賀駅まで延伸開業することによって金沢駅~敦賀駅間の各駅においても同様のことが起こる見込みだとされています。


↑北陸新幹線開業前・後の大阪駅~金沢駅間の料金

※1:(A)は大阪駅~富山駅間を特急サンダーバード号で移動した場合です

※2:(B)は大阪駅~金沢駅間を特急、金沢駅~富山駅間を新幹線で移動した場合です

※3:(C)は大阪駅~金沢駅間を特急、金沢駅~富山駅間を第三セクターで移動した場合です

※4:特急料金は通常期・指定席利用に基づいて計算してあります

 上の表は、大阪駅~金沢駅間において、北陸新幹線が金沢駅まで延伸開業する前と後の料金の比較です。北陸新幹線の開業によって移動にかかる料金が高くなっていることがわかります。また、(A)と(C)の合計金額の差は60円しかなく、所要時間と運賃を比べると、北陸新幹線の延伸開業によって対大阪の輸送におけるコストパフォーマンスは悪化しているといえるでしょう。

◇ほかに考えられる問題

 こんな場合、というのは、「JR在来線と新幹線の乗り換えの間に第三セクターを挟む場合」です。現在では「七尾線」、敦賀駅延伸開業後はさらに「越美北線」の利用者があてはまります。

 まずは七尾線を例に見ていきましょう。七尾線は津幡駅~和倉温泉駅を結ぶ路線で、現在はすべての列車が金沢駅まで乗り入れています。沿線に和倉温泉などの有名な観光地も所在しており、現在は6往復の特急列車が運行されています。(うち1往復は大阪駅まで乗り入れています)

 そして、七尾線沿線と大阪方面を移動する場合、金沢駅~津幡駅間でIRいしかわ鉄道という第三セクター路線を跨ぐことになります。これにより、七尾線と金沢駅以西を移動する場合、北陸新幹線開業前よりも運賃が高くなってしまうのです。

 越美北線の場合も同様です。越美北線は越前花堂駅(福井駅より1駅西隣の駅)~九頭竜湖駅を結んでいますが、全列車が福井駅まで直通運転しています。北陸新幹線が敦賀駅まで延伸されることにより、越美北線と大阪方面を移動する場合に途中で第三セクターを挟むこととなり、運賃が現在よりも上がるでしょう。

②乗換回数の増加

 敦賀駅延伸開業によって引き起こされる問題の一つに乗換回数の増加というよりは、乗換が発生することがあげられます。新幹線と在来線を乗り継がなければならないので当たり前のことですが将来は大阪まで再び乗り換えなしで行けるようになることを考えると仕方ないといえるでしょう。

 ただし、この乗り換えですが、少し気になる個所があります。それは将来新幹線と在来線の乗り換え駅となる敦賀駅についてです。敦賀駅は新幹線のホームが在来線のホームとかなり離れた位置(距離およそ200メートル)に建設される予定です。重い荷物を持った旅行者にとってはとても辛くなるでしょう。

 ですが、この事態を受け、JR西日本は、新たに新幹線ホームの真下に大阪方面からの特急列車用のホームを作ることを発表しています。これである程度は利便性が保たれますが、武生駅や鯖江駅など一部の駅の利用者にとっては、新幹線を使うにも使いづらく、たとえ普通列車で敦賀駅まで来たとして敦賀駅から特急に乗り換えようにも長い連絡通路を歩くことになるので大阪までの行程がかなり不便になってしまうでしょう。

 また、主に福井県内の利用者に対して大きく感じられることが、「大阪への距離感が遠くなる」ことです。現在、大阪駅と福井駅はおおむね2時間以内で、かつ乗り換えなしで行けることに対し、敦賀延伸開業後は比較的短い区間に対し乗り換えが発生してしまうことから大阪への距離感が遠くなり、大阪へ行く人の数が減少する可能性も考えられます。

③早朝・深夜の移動が困難になる

 みなさんは、「新幹線には走ってはいけない時間帯がある」ことをご存じでしょうか。実は、遅延した場合や特別な出来事がない限り、新幹線は午前0時~6時の間は運転されていないのです。実際にこれを取り締まる法律があるわけではありませんが、騒音の問題や、夜間に保守点検の作業を設ける必要があることからこのようになっているものだと思われます。

 そして、この暗黙のルールによって、ある問題が生じます。それが小見出しの通り、早朝・深夜の移動が困難になる(できなくなる)ということです。要するに、今までよりも大阪駅に着く時間が遅くなり、最終電車で帰ろうにも大阪駅を出発する時間が早くなる、ということです。ここでは具体例を挙げて説明しましょう。


↑富山駅~大阪駅を始発で移動した場合の時刻の比較

(A)特急サンダーバード2号に乗車した場合

(B)北陸新幹線つるぎ701号・特急サンダーバード6号に乗車した場合

 

2009年度と2018年度の早朝時間帯の移動で比較してみました。なお、2009年度に運行していた急行きたぐには除外しました。それでも始発で移動する場合、北陸新幹線開業前よりも1時間ほど早く大阪駅に着けることが分かります。これだと始発で大阪に行ってそのまま仕事に向かうことも可能だったと思われます。

 敦賀駅延伸開業によって、金沢駅や福井駅から大阪方面へ向かう際にも上の例と同様なことが起こると考えられます。

④武生市・鯖江市に対してのメリットが薄い

 これまでにもちょくちょく出てきたこの2つの駅ですが、敦賀駅延伸開業によってかなり利便性が悪化する可能性が高いでしょう。

 現在、武生、鯖江の両駅には日中毎時1~2本ほど特急が停車しており、大阪駅まで約1時間30分~40分で到達できるなど、非常にアクセスが良い状態となっています。ですが新幹線が開業することによって両駅を通る特急は敦賀駅以東は廃止される予定のため、利便性はかなり悪化することが考えられます。また、北陸新幹線の最寄駅も両駅からは離れている場所に設置されるため、恩恵も薄れるでしょう。福井県はこれに対して特急列車の福井駅直通の存続を求めていますが、JR西日本は現在のところは応じていないのが現状です。

⑤ストロー現象の発生

 ストロー現象(またはストロー効果)とは、交通網が発達することによって地方から都市に人口が集中することを指します。北陸新幹線の開業によって危惧されていることの一つが、このストロー現象の発生です。富山、金沢、福井の北陸3県と首都圏が容易に移動できることにより、さらなる東京一極集中が進む可能性が指摘されています。また、敦賀延伸開業によって東京へのアクセスがさらに良くなり、大阪へのアクセスが悪くなることから、大阪へ移動する人が少なくなる可能性も指摘されています。

⑥青春18きっぷの移動可能範囲が狭まる

 この点に関しては実際にデメリットだと感じる人の数も多くはないと思われますが、一応説明したいと思います。

 そもそも「青春18きっぷ」とはどういったものなのかを軽く紹介します。このきっぷは簡単にいうと「JR全線の普通列車が5日分(回分)乗り放題になるきっぷ」です。春休み、夏休み、冬休みの期間中に発売され、5回分で価格は11870円(2018年現在)となっています。1回分に換算すると2370円となり、普通列車で遠出するなどの場合には非常にお得になるきっぷなのです。

 また、5回分というのは5日連続で使わなければならないというわけではなく、「1人で好きな時に5日間分日帰り旅行」「5人で日帰り旅行」「2人で1泊2日の旅行+1人で日帰り旅行」など、使い方はたくさんあるため、鉄道ファンならず一般の人にも広く親しまれているきっぷです。

 ですが、この青春18きっぷはJR線しか乗れないため、並行在来線の第三セクター路線などには乗ることができません。そのため、今までは青春18きっぷで北陸に移動できたのが今後はできなくなる可能性が高いです。ただし、青春18きっぷは「このきっぷだけでどの路線にも乗ることができる」ことをモットーとしているため、JR大湊線など他のJR線から完全に孤立している路線にも乗れるようにするため、一部区間では例外的に第三セクター路線に乗れるようになっています。そして敦賀駅延伸開業時にはJR越美北線がほかのJR線から切り離されるため、今後も例外的に現在の北陸本線に乗車できる可能性もあります。

5.敦賀駅延伸開業に対しての提案

 ここまでメリットとデメリットを見てきましたが、ここからは私なりにどうすればいいか考察していきたいと思います。運賃の上昇や青春18きっぷの有効範囲の減少は避けられない問題ですが、乗り換え回数の増加を防いだり武生市・鯖江市への利便性向上、早朝の利便性を防ぐことは工夫次第でできるのではないでしょうか。

(Ⅰ)特急列車の運行区間の拡大

 こちらは先ほど述べたデメリットのうち「②乗り換え回数の増加」「④武生市・鯖江市に対してのメリットが薄い」の問題を一部解決できると考えられます。

 北陸新幹線の延伸開業後、特急サンダーバード・しらさぎは敦賀駅以北での運転は「考えていない」予定ですが、福井県など沿線自治体は福井駅まで引き続き特急列車を運行することを要望しています。これに対して、私は利便性などをふまえると後者のほうが良いことを考えます。

 理由としては、

1 武生駅・鯖江駅利用者への救済措置

2 福井駅利用者の利便性の著しい低下を防ぐ

ということが挙げられます。なお、上記の2つはいずれも、大阪方面への輸送において考えられることです。

 福井駅への直通運転によって福井駅・武生駅・鯖江駅の利用者の利便性が向上し、それによって京阪神・中京圏との結びつきも大分保たれるでしょう。

 ではなぜ特急列車は敦賀駅以北の乗り入れが予定されていないのでしょうか?一番の理由としては、JR西日本の収入が減少する可能性が高いからでしょう。もしも、福井駅まで特急列車が運行されたとき、福井駅や武生駅の利用者は「新幹線を使うのか使わないか」といえば、ほぼすべての人が「特急列車を利用する」と答えを出すのではないでしょうか。たとえ料金が多少高くなっても、乗り換えがなく時間もほとんど変わらないのですから。ですのでJR西日本としては北陸新幹線の新規開業区間の利用者数が少なくなってしまうことを防ぐためにもなんとしてでも特急列車の乗り入れを防ぎたいのだと考えられます。

 また、第三セクター鉄道会社に直通運転するから特急列車は直通運転できないのでは、という理由もあるかもしれません。ですが、JR西日本の「特急はしだて」などはすでに「京都丹後鉄道」という第三セクター会社に乗り入れているという先例があるのでそこまで問題ではないのではないかと考えられます。

 また、特急列車の直通運転ができないのであれば、現在敦賀駅まで運転されている新快速を福井駅まで直通運転させるのはどうか、という提案もありますが、これは特急列車を直通運転させることよりも困難なのではないかと思います。それは敦賀駅~南今庄駅間にデッドセクションが存在しているからなのですが、まずはデッドセクションとはなんなのかを簡単にご説明します。

 デッドセクションとは「架線に電気が流れていない場所」を指します。デッドセクションはこの区間以外にも全国に存在しますが、敦賀駅~南今庄駅間にデッドセクションが設けられている理由は、「この区間を境に流れている電気の電化方式が異なっている」からです。このデッドセクションより南(大阪方面)は「直流電化」、北(福井方面)は「交流電化」されており、その境界に「デッドセクション」があるというわけです。そして、このデッドセクションを通ることができる電車は「直流電化」「交流電化」のどちらの電化方式にも対応していなければいけません。現在、敦賀駅~福井駅間を結ぶ普通電車や特急サンダーバード・しらさぎに用いられる車両はどちらの電化方式にも対応している「交直流型電車」ですが、敦賀駅以南で走る新快速で用いられる車両は直流電化のみに対応している「直流型電車」です。

そのため、新快速を敦賀駅以北まで直通運転させるとなると新快速で用いられる車両を「交直流型化」しなくてはなり、また新快速で運用されている車両は膨大な量があるので、多額の費用と時間がかかってしまうのです。そもそも財政収入が減ってしまうであろうJRにとっても、新快速の直通運転は非現実的であるといえるでしょう。

 ですが、たとえば敦賀駅で新快速と敦賀駅以北の列車が接続されて対面乗換できるようになったりすればかなり利便性は上がるでしょう。


交直流型車両であるJR西日本683系


直流型車両であるJR西日本223系

(Ⅱ)早朝の利便性の向上

 こちらは先ほど述べたデメリットのうち「③早朝・深夜の移動が困難になる」の問題を一部解決できると考えられます。

 先述の通り新幹線の開業によって「今までよりも大阪駅に着く時間が遅くなり、最終電車で帰ろうにも大阪駅を出発する時間が早くなる」という問題が生じてしまいますが、区間によってはその問題を解決できると考えます。

【CASE1】 福井駅(他、鯖江駅、武生駅なども該当)→大阪方面の早朝の移動の場合

 現在、福井駅~敦賀駅間に快速電車が走っていることを知っている方はどれくらいいるでしょうか。おそらく、地元民の方や一部の鉄道ファンくらいにしか認知されてないと思いますが、実は快速電車が走っているのです。



↑福井駅→敦賀駅で毎日運転される快速電車の時刻表(表に記載の駅のみに停車)

 時刻を見るとお分かりになると思いますが、この電車は同区間の始発列車であり、敦賀駅で敦賀駅5:33発の米原駅経由の新快速/姫路行きに接続します。京都駅7:30着、大阪駅8:02着であり、始発の特急列車に乗るよりも早く移動することができます。北陸新幹線の延伸開業後もこの列車が運行されれば福井駅以南の利用者はこれまでと同じ時間で大阪へ向かうことができるのです。

【CASE2】 小松駅~福井駅の途中駅→大阪方面の早朝の移動の場合

 こちらは【CASE1】の応用版ともいえそうです。現在ではこれらの駅から大阪駅へ向かう場合、加賀温泉駅・芦原温泉駅からだと、福井駅などで特急を乗り換える(ただし、30分ほど待ち時間が発生する)ことによって大阪駅に8:17に到着することができます。また、ほかの途中駅の場合は途中福井駅で特急に乗り換えることで大阪駅に9:01に到着することができます。ただし、北陸新幹線延伸開業後、福井駅6:00発の敦賀行き新幹線があるとすれば、前述のように早朝の普通(快速)電車を走らせることで、どの途中駅からでも大阪駅に8:10ごろには着くことができます。乗り換え回数が増え、料金もあがってしまうということがありますが、ダイヤの設定の仕方によっては現在よりも早く大阪駅にたどり着ける可能性があります。

 ただし、今挙げた早朝の普通電車の例は現在でも実現可能であり、現在そのような早朝の始発電車を運転していないことを考えると、今後新たに始発電車を設定することもないように感じられます。

 また、これらは深夜帯にも応用できるので、ダイヤの設定次第では延伸開業後も現在と同水準の大阪駅最終出発時刻を保てることもできるでしょう。

(Ⅲ)新たな速達電車の設定

 この案は(Ⅰ)特急列車の運行区間の拡大がなされなかった場合の代替案として作ったものです。JR西日本としては減収につながりますが、利用者の利便性を向上するプランなので紹介したいと思います。

 特急列車を直通運転することが不可能であるならば、特急列車並の列車を設定すれば良いのです。具体的には「敦賀駅~福井駅間に途中武生駅・鯖江駅のみ停車の快速列車を新設する」というものです。線路使用料などの問題で難しいのかもしれませんが、金沢駅~福井駅間にも普通列車としてそのまま直通運転してもよいと思います。

 ここでは日中においてどのような時刻にすればよいのか、考察していきたいと思います。


現在の北陸本線の金沢駅~名古屋・大阪駅間の時刻表【福井駅12~14時発】

※1:普通電車は金沢駅~敦賀駅間のみ記載

※2:福井駅~敦賀駅間のみ全駅掲載(他の区間は一部駅のみ掲載)

 続いて、先ほどの案を踏まえた上での時刻表を作ってみました。なお、この区間では特急列車は全廃された設定としてあります。



【提案】 新ダイヤの北陸本線の金沢駅~名古屋・大阪駅間の時刻表【福井駅12~14時発】

※1:普通電車は金沢駅~敦賀駅間と敦賀駅発着の新快速のみ記載

※2:福井駅~敦賀駅間のみ全駅掲載(他の区間は一部駅のみ掲載)

※3:福井駅~敦賀駅の快速電車の所要時分は推測値です

 現行のダイヤに毎時1本の快速電車を追加した案です。なお、貨物列車や湖西線の列車との兼ね合いは一切考えていないことをご了承ください(ただし新快速と特急電車の待避は現行通りに行えるようになっています)。新幹線延伸開業後は普通電車と特急電車の発着するホームが遠くなるので乗り換え時間は余裕をもって10分としています。なお、敦賀駅発の新快速は現在と同じ時間となっています。快速電車の新設によって福井駅~敦賀駅間の所要時分は15分ほど短縮でき、新幹線を使わずとも比較的速く移動できるようになりました。

 ここまでのまとめとして言えることは、

福井駅~敦賀駅間の利用者への不便さを少なくするべき

 ということです。実際に延伸開業するときには何かしらの利便性向上につながる対策がなされていることを期待したいと思います。

6.おわりに

 おそらく私としては最も長い研究になったと思います。執筆の途中で書きたいことが次から次へと出てきてしまい、最後がまとめられなかったような気もします。最後にタイトルを研究の内容に合うように修正したのは内緒です。次回はそこあたりを特に気を付けて執筆できるように頑張ります。

 今回は北陸新幹線にまつわる問題を研究してきましたが、私の願いとしては、「いち早く新大阪駅まで開業する」か「先に福井駅延伸開業で残りは新大阪駅に繋がるまで待機」となってほしいところです。ですが、そんなことを言ってもしょうがないですよね…。とりあえずは今後の展開に期待したいところです。それでは、旅行記編でまたお会いしましょう。研究よりも読み疲れてしまう可能性があることをご了承ください。

 そして最後に…校閲してくれた顧問の先生方&同輩、最後までお読みくださった読者のみなさんにお礼を申し上げたいと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました

7.参考

福井県

info.pref.fukui.jp

福井新聞

https://www.fukuishimbun.co.jp

タビリス

https://tabiris.com

東洋経済オンライン

https://toyokeizai.net

えきから時刻表

www.ekikara.jp

国土交通省

www.mlit.go.jp

産経ニュース

https://www.sankei.com

観光経済新聞

https://www.kankokeizai.com


※おことわり:掲載されている情報は研究発表当時のものです。現在とは若干異なる場合がありますが、ご了承ください。


浅野学園鉃道研究部 『停車場』アーカイブ

浅野学園の鉃道研究部が発行する部誌『停車場』のアーカイブサイトです。過去に発行された『停車場』を自由に閲覧することが出来ます。

0コメント

  • 1000 / 1000