⒈はじめに
こんにちは、**です。ついに部内で最高学年となり、ついでに副部長になりました。研究を書けるのはあと1年と思うと少しさびしい気がします。
さて、今回は日光・鬼怒川について扱います。江戸時代に日光街道が整備されるなど歴史がある土地ですが、今も多くの観光客が訪れていて、修学旅行で訪れた、という人も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
そんな日光・鬼怒川の鉄道網についてみていきます。最後までお読みいただければ幸いです。
2.日光・鬼怒川について
鉄道云々の話に入る前に、日光・鬼怒川がどういった場所であるのか、軽く触れておきます。
日光・鬼怒川は栃木県の北西部に位置する日光市に位置します。
その歴史は古く、700年代に勝道上人が日光山を開山し、鎌倉時代には関東の一大霊場になりました。そして、江戸時代には日光街道の整備、日光東照宮の建立があり、日光東照宮の門前町として栄えます。
明治期に入ると一大観光地として名を馳せることになり、1890年には国鉄日光駅が開業し、1927年には東武日光駅が開業しました。鬼怒川も1929年に現在の東武鬼怒川線の前身である下野電気鉄道が駅を設け、日光・鬼怒川は発展の一途をたどります。戦後になると1960年にデラックスロマンスカーがこの地域に乗り入れるようになり、1964年には鬼怒川温泉駅が開業します。
その後、2006年にJRと東武が特急の直通運転を開始しました。
最近では2017年に500系がデビューし、リバティけごん、リバティきぬ、リバティ会津が運転を開始し、同年8月にはSL大樹が運行を開始しています。
観光資源としては、「日光の社寺」として世界遺産に登録されている日光東照宮(2013年から2019年まで平成の大修理中)、二荒山神社、輪王寺(平成の大修理中)や温泉、紅葉の名所として知られるいろは坂、華厳の滝、東武ワールドスクウェア、日光江戸村など多岐にわたります。
日光市の観光客数は次のように推移しています。
日光市の観光客数推移
これを見ると、東日本大震災が発生した2011年に観光客の数は大きく減少しましたが、2015年には震災以前よりも観光客が多くなっています。しかし、2016年に震災以降初めて減少しました。
ただ、2017年はSL大樹の運行開始などもあり、下今市駅~東武日光駅、下今市駅~新藤原駅の定期外乗車人員は前年比20%増となっています。
3.日光・鬼怒川の交通
現在の日光・鬼怒川への交通アクセスについて見ていきます。
(1)特急
まず、都心から日光・鬼怒川への代表的なアクセス手段ともいえるJR、東武の特急列車についてみていきます。次の特急系統図をご覧ください。
日光・鬼怒川方面の東武・JR定期特急系統図
※一部駅のみ掲載。新宿駅はJRの駅
スペーシアきぬがわ・けごん・きぬには東武100系が、リバティけごん・リバティきぬ・リバティ会津には東武500系が、しもつけ・きりふりには東武350型が、きぬがわ・日光にはJR253系1000番台がそれぞれ使用されています。
⇑東武100系
⇑東武500系
①けごん・きぬ
これらは、東武100系が使用され、浅草駅を起点として日光・鬼怒川方面にアクセスする特急です。6両編成で運行されており、車内販売があるほか、3号車にはビュッフェや自動販売機が設けられています。また、6号車はコンパートメント車両が6室設けられています。また、足音が響きにくい構造となっているほか、シートピッチがJRのグリーン車並みの1,100㎜であり、全座席にフットレストがあるなど、居住性が非常に高いです。
②リバティけごん・リバティきぬ・リバティ会津
すべて2017年に運行を開始した新しい特急で、東武500系が使用されます。この車両は3両編成となっており、3両+3両の併合、分割を行うことができます。
ひとつの特急で日光・鬼怒川の両方にアクセスができるため、利便性が高く、また、フレキシブルな運用が可能となっています。
また、下今市駅以北のみ乗車の場合は特急券なしで乗車できます。
③スペーシアきぬがわ・きぬがわ・日光
JR新宿駅から日光・鬼怒川へアクセスする特急で、臨時で八王子駅や大船駅からも運行されています。車両はスペーシアきぬがわにはけごん・きぬと同様に東武100系が、きぬがわ・日光にはJR253系1000番台が使用されます。253系1000番台は全車普通車で、自動放送は日本語・英語・中国語・韓国語の4ヶ国語で行われます。
④しもつけ・きりふり
浅草発着で運転される特急で、350型4両編成が充当されます。しもつけは1日1往復、きりふりは土曜休日のみ1日1往復が運転されます。
浅草駅から各駅への料金(運賃と特急料金の合計)表 単位:円
JR新宿駅から各駅への料金(運賃と特急料金の合計)表 単位:円
(2)JR新幹線・在来線
日光・鬼怒川には宇都宮駅でJR日光線に乗り換えることで、新幹線からもアクセスすることができます。ただ、日光線の本数は日中1時間に1本ほどで、東京駅からJR日光駅までの運賃と特急料金の合計が5,000円超となっており、先述の特急と比べると少し使いづらさがあります。
しかしながら、東北方面から日光に来る外国人観光客なども一定数いるため、アクセス手段の一つにはなっているようです。
(3)バス
東京都心から日光・鬼怒川までは高速バスも走っています。運行しているのは東武グループの東北急行バスで、東京駅から下今市駅、東武日光駅、東武ワールドスクウェアを経由し、鬼怒川温泉駅まで所要時間は約3時間半、料金は片道2,500円、往復4,000円です。
⒋SL大樹
SL大樹は、東武鉄道がJR北海道から借り受けているC11形207号機を使用し、鉄道産業文化遺産の保存と活用、日光・鬼怒川エリアの活性化、東北復興支援の一助を目的として、2017年8月に運転を開始した列車で、土曜休日を中心に1日3往復運行されています。運行区間は下今市駅~鬼怒川温泉駅で、所要時間は30分ほどです。
乗車率は90%程度を維持しているようで、地域観光の起爆剤として期待されています。
⇑2017年に運転を開始したSL大樹
⒌課題
ここでは、日光・鬼怒川の課題について考えていきます。
(1)バス
一つ目はバスです。株式会社あしぎん総合研究所が2015年に発表した日光インバウンド調査によると、外国人観光客はレンタカーをほとんど利用せず、鉄道やバスでの移動が主となっていますが、バスについて不満の声が多くみられます。
具体的には
・英語でのバスに関する案内が欲しい(ルート、一日乗車券など)
・JR日光駅から観光スポットまでのバスが満員だった
・中禅寺湖行のバスが満員だった、バスに荷物置き場がなかった
などです。
日光・鬼怒川は日光東照宮のように駅から少し離れている寺社や景勝地が多く、バス輸送を鉄道で代替することはほぼ不可能ですが、駅でバスについて案内したりするなどは可能でしょう。
(2)SLを起爆剤にできるか
日光・鬼怒川は首都圏から近く、温泉を有するという点では箱根、伊豆、熱海、草津など同じであるため、観光客を集めるためには、一定の差別化が必要といえます。
その中で、SLはこのような観光地との格好の差別化になります。
(3)外国人観光客への対応
ここ最近ニュースなどでよく目にすると思いますが、訪日外国人の数はここ数年で激増していて、日光もその例外ではありません。
日光市の外国人宿泊者数
東日本大震災が発生した2011年に激減しましたが、その後は増加に転じ、2016年には9万人を超えました。増え続ける外国人観光客に対応し、リピートにつなげることや、さらに多くの外国人観光客を取り込むことは、観光客数が伸び悩んでいる日光に必要であるといえます。
特に、外国語での案内が不十分で、駅における案内には日本語しか表記されていないものがあります。また、日光市内を鉄道で移動する場合、リバティであれば4か国語に対応している500系が充当されますが、そうでない場合は基本的に6050系が充当されます。しかし6050系は、自動放送や種別・行先以外の車内案内表示装置が設けられていません。外国人観光客からすれば、母国語での案内がほとんどない状況であり、改善が必要です。
⇑鬼怒川線、日光線の主力車両である6050系
(4)観光地間の移動
4つ目は、観光地間の移動です。日光東照宮や華厳の滝などは東武日光駅や日光駅から離れていて、バス移動が基本となります。また、鬼怒川温泉駅から日光駅、或いはその逆を移動するには40分ほどかかり、移動の便が良いとは言えません。徒歩で移動できる観光地などが少ないため、問題となっています。
⒍提案
以上の課題を踏まえ、外国人観光客への対応とSLを活かした観光モデルの形成を念頭に置いて、いくつか提案をしたいと思います。
(1)切符の改善
一つ目が、新たな切符の販売です。現在、日本人に発売されているお得な切符で、東京都心から日光・鬼怒川へのアクセスに利用できるものは、「まるごと日光・鬼怒川東武フリーパス」、「まるごと日光東武フリーパス」、「まるごと鬼怒川東武フリーパス」、「プレミアム日光・鬼怒川東武フリーパス」の4つですが、有効期限は前の3つが4日間、「プレミアム日光・鬼怒川東武フリーパス」が5日間となっており、使いにくいものになっています。切符の内容は発駅から下今市駅までの往復乗車券(「プレミアム日光・鬼怒川東武フリーパス」は往復特急券も)、鉄道、バスのフリー区間乗車券、特定の乗り物の料金が割引もしくは無料、優待土産品店でおみやげ品が10%引きとなっています。
これらの切符は残しつつ、SLを軸として、新しい人の流れを作るような切符を考えてみたいと思います。
特定の駅までの往復と特定の区間のフリー乗車券、さらに特典がついている切符で、成功しているといえるのが、京急が発売している「みさきまぐろきっぷ」です。
みさきまぐろきっぷは、発売駅から三崎口駅までの京急線往復乗車券、京浜急行バス指定区間フリー乗車券、食事券、レジャー施設利用券またはお土産券という内容になっており、次のようにここ数年販売枚数が伸びてきています。
みさきまぐろきっぷは、食事券や施設利用券などがついているため、単に観光客を増やすだけではなく、地域内での消費につながっています。
こうした点を日光の新しい切符にも取り入れ、人の流れを作ることにつなげればよいのではないでしょうか。
その中で、人の流れを作る「軸」として、SL大樹を活用することも期待できます。SL大樹は移動時間を観光の時間にすることができるため、観光地間の移動に難があるという問題点を解消することができます。SL大樹の運行時間と接続する特急は次のようになっています。
下り
上り
注)東武WSは東武ワールドスクウェアの略。列車名のRはリバティの、Sはスペーシアの略。
SL大樹は1号から6号まで1日に3往復運転していますが、ここでは5号を例に観光モデルについて考えていきます。
時刻表のとおり、SL大樹5号は鬼怒川温泉駅に17:08につくダイヤとなっており、1日の観光の最後にSL大樹に乗車し、鬼怒川温泉駅周辺に宿泊するという行動をすることができます。下今市駅からSL大樹に乗車することを考えれば、SLに乗車するまでは東武日光駅周辺で観光するのが妥当でしょう。施設の割引券などを切符に付帯させれば、メジャーな観光地以外にも観光客を呼び込むことができ、それはすなわち特定の観光地に観光客が集中することをふせぐことになるため、バスの混雑の問題も解決できます。
(2)6050系の置き換え
先述した6050系ですが、登場から30年以上経過しているうえ、一部の機器は1960年代に製造された6000系の流用であるため、後継車を日光線・鬼怒川線に投入してもよい時期であり、実際に2017年のダイヤ改正による運用縮小に伴い、すでに廃車が出ています。後継車についてはどうなるか不明ですが、後継車には少なくとも英語での自動放送や案内表示が必要でしょう。
それに加え、繁忙期に浅草駅~東武日光駅で臨時列車として運用されることや、サービス低下を招かないようにするべきであることを考慮し、6050系と同様にクロスシート車であることが望ましいでしょう。
また、6050系は野岩鉄道と会津鉄道にそれぞれ所属する車両もあり、東武車と共通運用が組まれているため、それらについても置き換えが必要です。
ただ、東武日光線・鬼怒川線は赤字路線であるうえ、後述しますが、100系を置き換えると思われる新型特急車両の投入を2020年以降に予定しているため、日光線・鬼怒川線用に新車を製造するのは現実的ではありません。
他線から車両を捻出すればよいと思われるかもしれませんが、TJライナーに充当される50090系を除き、すべての形式がロングシートとなっているため、車内の改造が必要となります。
難しいところではありますが、他線で新車投入により淘汰された形式を改造するのが最も妥当といえるでしょう。
(3)駅などにおける多言語案内
駅などでの案内についてですが、英語、中国語、韓国語の3言語による案内が必要でしょう。鬼怒川温泉駅などは、外国人が多くみられますが、ホームの案内などで、日本語と英語しか案内がないものや、日本語しかないものが見られます。スペースが限られているものについては日本語と英語を、スペースが十分なものには日本語のほかに英語、中国語、韓国語を表記するのが望ましいでしょう。
こられのことにはコストがかかりますが、日光・鬼怒川を訪問した外国人観光客が地域によい印象を持てば、リピーターの増加も期待ができ、新しい観光客の獲得にもつながるでしょう。
⒎今後の特急列車
最後に、今後日光・鬼怒川アクセスの命運を左右するであろう東武特急について考えたいと思います。
2017年に東武鉄道が『東武グループ長期経営構想・東武グループ中期経営計画2017~2020』で「最高級のおもてなしを提供する」としている「フラッグシップ特急の導入」を発表しました。これについて、日本経済新聞が次のように報じています。
東武鉄道は2020年以降をメドに、現在主力の特急車両「スペーシア」に代わる新たな特急の導入を検討する。根津嘉澄社長が日本経済新聞の取材に対し明らかにした。
(中略)
根津社長は「スペーシアの代替えも、30年以上経てば考えなければいけない」として、新型特急の導入を検討する方針を示した。
新型特急の運転開始時期や詳細は未定だが、「フラッグシップ特急」と称し、長らく東武の観光輸送の主役を担ったスペーシアの次世代型と位置づける。大手鉄道各社ではJR東日本の「トランスイート四季島」など豪華寝台列車の投入が相次いでおり、こうした動きもにらみつつ仕様を詰める。
(中略)スペーシアに代わる新型特急は、※これら大型投資の進捗を見極めながら検討されることになる。
日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXLASFB24H55_U7A520C1L60000/より
※「これら大型投資」は500系や70000系の投入をさします。70000系は2017年にスカイツリーラインで運転を開始し、東京メトロ日比谷線直通に対応した車両です。
新型特急は100系を置き換えるもので、100系の登場から30年となる2020年以降をめどに導入を検討する、ということがわかります。
また、二重下線部から、100系のように豪華な内装を想定していることがうかがえます。
これらを踏まえ、どのような車両が望ましいのか考えていきます。
まず、移動時間を楽しめることです。訪日外国人をはじめとした観光客に日本での滞在時間を楽しんでもらうためには、移動時間を楽しめるような工夫が必要になります。こうすることで、移動時間を観光の時間とすることができます。また、その分料金も少し高めに設定することが可能で、通勤にも使え、分割・併合が可能で日光・鬼怒川の地域内の移動にも使える500系と高級志向で移動時間も楽しめる新型特急車両の差別化をすることができます。
また、特急を地下鉄に直通することを検討していることから、地下鉄に乗り入れが可能な規格で製造することが望ましいでしょう。
⒎おわりに
今回の研究、いかがでしたか。一応実地調査にも行ったので、ある程度現地で見てきたことを研究に盛り込めたかなと思います。日光は首都圏からも近い絶好の観光地ですが、その反面少子高齢化に伴い、「観光頼み」の状態であるのも事実です。その観光をいかに伸ばしていけるかが重要で、それに東武鉄道が寄与する役割も決して小さくはないはずです。今後も日光・鬼怒川が発展していくことを願っています。
それでは次号でお会いしましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
⒏参考文献
・東武鉄道 http://railway.tobu.co.jp/
・日光市、市のデータ http://www.city.nikko.lg.jp/seisaku/profile/data/index.html
・京急電鉄オフィシャルサイト、企業・IR情報、ニュースリリース、2017年度、
・10月5日(木)から「みさきまぐろきっぷ」が大大大リニューアル!三浦半島をさらに満喫!
http://www.keikyu.co.jp/company/news/2017/20170926HP_17136MT.html
・日本経済新聞、東武、スペーシア代替の新型特急導入を検討
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFB24H55_U7A520C1L60000/
・東武鉄道復活運転プロジェクト
http://www.tobu.co.jp/sl/information/access/
・「東武グループ中期経営計画」の推進
http://www.tobu.co.jp/file/pdf/db612c8f84cbcea00221e168a030d0e9/chukei.pdf
・東武グループ長期経営構想・東武グループ中期経営計画2017~2020
http://www.tobu.co.jp/file/pdf/ec1995236694087faa58a52e97775232/chukei.pdf
おことわり:Web公開のため一部表現を変更させていただきました
また、記載されている情報は研究執筆当時のものです。現在と異なる場合があります。
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