これからの終電の在り方

1.はじめに

 皆さん、最近どのような変化を感じていますか?世の中は、新型コロナウイルス感染症の蔓延の影響で、様々なことが変化してしまいました。店舗の時短営業、テレワークの導入、会食の制限…数えてもきりがありません。

 そのうちの一つに、終電時刻の繰り上げ、および始発時刻の繰り下げがあります。終電間際まで都心で過ごしていた人には大きなダメージとなったはずです。今回は、社会全体に多くの影響を与えるであろう、都市圏の鉄道路線の初電・終電の今後について考察をしていきたいと思います。

2.終電時刻繰り上げについて

(1)終電繰上げに至った経緯について

 2020年に起こった出来事として、皆さんが最も思い浮かべるのは、きっと新型コロナウイルス感染症の蔓延のことでしょう。この影響で、様々な変化が生じましたが、鉄道関連のことですと、はじめにテレワークの推進による通勤ラッシュ時間帯の利用者が減少しました。

 その後、感染拡大状況が改善したため、制限は緩和されましたが、2020年末から2021年初頭にかけ感染が再拡大しました。そのため、東京都をはじめとした首都圏の自治体が各鉄道会社に終電時刻の繰り上げ要請を行い、実際に各鉄道会社も応じ、1月20日から3月12日までの間、終電繰上げを行いました。

 この期間後も、3月13日などに行われたダイヤ改正で終電時刻が繰り上がり、また加えて一部路線では初電時刻も繰り下がりました

(2)終電繰上げの目的

 では、なぜ各自治体は鉄道会社に対して終電繰上げ要請をしたのでしょうか。それは、終電時刻を繰り上げることで、夜間の人の移動を抑制したい、という目的があったからです。特に、夜間に行われることの多い、宴会などのマスクを外しての飲食は感染拡大の大きな原因になるため、これを制限するために飲食店に対する時短営業の要請のほかに、終電時刻を繰り上げることで感染拡大の大きな原因となる宴会等を避けさせることができます。

 これに対し、3月のダイヤ改正における初電・終電時刻の繰り上げには感染拡大防止のほかにも別の大きな目的が1つありました。それは、線路の整備点検の時間を確保するということです。具体的にどのような効果があるのでしょうか。山手線を例に見ていきましょう。

 次の表は山手線の新宿駅の列車時刻についてのものです。なお、どの時刻も平日ダイヤを使用しています。

 もともとは終電と初電の間に3時間43分の時間があったのに対し、ダイヤ改正後はその時間が3時間59分になり、15分ほど長くなっていることがわかります。

 たった15分の時間の追加で、いったいどのくらいの効果があるのでしょうか。次の図をご覧ください。

JR東日本公式サイトを参考に作成

 夜間の点検等では、実際の作業をする時間のほかに、準備・撤去時間も必要になります。そのことを加味すると、実際に作業できる時間はおよそ140分しかなかったことになります。しかし、終電繰り上げで約15分を捻出するだけでも、作業できる時間はおよそ1.1倍になるなど、かなりの効果を得られていることがわかります。

 これは山手線の新宿駅の例ですが、そのほかの路線(高崎線や中央線の一部の区間)ではさらに終電を繰り上げている路線もあり、30分程度捻出できている場合もあります。

 しかし、そもそもなぜ作業時間を増加させる必要があったのか、疑問に思われるかもしれません。これには実は、様々な背景があるのです。1つずつ見ていきましょう。

ⅰ)働き方改革

 作業時間の確保の必要が出た背景に、まず働き方改革があるといえます。この動きは労働環境を改善していこう、というものです。整備点検はもともとかなり過酷な作業であるので、作業員の方々の待遇を改めていこう、というのは正当な動きであるといえます。作業時間が増えれば、時間についてある程度の余裕も持って作業できるようになり、作業の質も上がるはずです。

ⅱ)工事量の増加

 JR東日本公式サイトによると、工事量は過去10年で約10%増加しているそうです。近年、バリアフリー対策やホームドア設置のため、工事量が増えていて、今後も増加していくと見込まれます。工事量が増えると、作業時間をより多く確保する必要が生まれるのは必然的といえるでしょう。

ⅲ)人手不足

 JR東日本の作業員の人数は過去10年で約2割減少してきたそうです。原因としては、近年人口減少(特に生産人口の減少)が大きなものとして挙げられます。日本の人口減少は今後も長く続くと見込まれるので、JR東日本の作業員の人数が増えることは考えにくいです。

 また、ⅱ)で述べた工事量の増加も同時に起こっているため、人手不足の問題はかなり深刻であることがわかります。

JR東日本の工事量変化のイメージ

JR東日本の作業員人数変化のイメージ

日本の人口推移 上から65歳以上、14~64歳、15歳以下の人口

縦軸が万人、横軸が年度を表す(2020年度以降は推計)

生産年齢人口(14~64歳の人口)が減少していて、今後も減少傾向が見込まれる。

 ほかの鉄道会社も同時に終電繰り上げを実施していることから、この3つの背景(特に人口減少による人手不足)は、JR東日本に限らず、多くの日本の鉄道会社が直面している問題であることがわかります。

3.ポストコロナの時代にはどうなる?

 今回のダイヤ改正での終電繰り上げでは、働き方改革や人員不足対策などの目的が主であるとはいえ、やはり感染拡大防止も目的の一つになっています。新型コロナウイルスの流行は時間がかかったとしても、いつかは収まるものだと考えられるので、その後の時代の東京都市圏の終電等の在り方について考察していきたいと思います。

 まず、そもそも終電は元のような時間に戻されていくのでしょうか。

 筆者は終電が繰り下げられることはなく、むしろさらに終電が繰り上げられる可能性まで考えられます。理由は簡単で、日本の人口(特に生産年齢人口)の減少が今後も続くため、人手不足の問題がより深刻化すると考えられるからです。

では、終電が繰り下げられないものとして、どのような影響があるのでしょうか?筆者は、次のような影響があると考えます。

ⅰ)深夜に出勤する職業の影響

ⅱ)残業への影響

ⅲ)都心の飲食店等への影響

 それぞれについてみていきたいと思います。

ⅰ)深夜に出勤する職業への影響

 警備員や介護関連の職業など、世の中には深夜に出勤するというような職業もあります。このような会社は終電繰上げの影響を受けやすいといえます。これらの職業は24時間体制で動かなければならないので、深夜帯の仕事を削減することはあまりできません。

 これらの仕事は日中にも行われています。影響を小さくするためには、終電間際ではなく、少し余裕をもって23時くらいに出勤するように昼と夜のシフトの時間を企業側が工夫すれば十分だと思います。

ⅱ)残業への影響

 現在、多くの会社員が所定の時間を過ぎても「残業」という形で働いています。普段から積極的に残業をする人もいれば、プロジェクトの完成間近のため残業をする人もいるなど、目的は様々なものが考えられますが、やはりあまり良いものではありません。

 解決策としては、働き方改革を進めるというものが考えられますが、やはり期限ぎりぎりの追い込みによる残業などを無くすことはできないはずです。では、どのようにすればよいのでしょうか。

 考えられる方法として、出社時刻を早める、というものがあります。次の図をご覧ください。

現行よりも出社時刻を早めることで、通常の勤務時間の後、終電の時刻までの間に時間の余裕が生まれるので、ある程度残業のために終電に間に合わないことに対しての心配はいらなくなると思います。さらに、この方法のいい点として、出社時間を早めることによって、朝ラッシュを避けることができ、それによって仕事の質の上昇が見込まれるということも挙げられます。

ⅲ)都心の飲食店等への影響

 新型コロナウイルス感染症の流行前は、仕事の後に飲み会をするなど、都心での飲食の需要が大きく、多くの飲食店がにぎわっていましたが、感染症流行のほか、終電が繰り上げられた影響により、多くの飲食店が窮地に立たされています。感染症流行が落ち着いたとして、そのあと飲食店はどのような対策をするのが良いのでしょうか。

 まず、ⅱ)で述べたように、多くの企業の出社時間が早まったのであれば、飲食店への影響(外食の自粛などによる収入減など)は小さくなるのではないでしょうか。飲食店自身ができることとしては、営業開始時間を早める程度しかなく、ほかからの影響を大きく受けるものになっていますが、これが最も妥当な対策でしょう。

 それ以外には、持ち帰り商品を多く販売する、という方法が挙げられます。その店の味が気に入っていて、家に持って帰って食べたい、という人もいるはずなので、その需要を見込むという対策です。

 ほかにも、郊外に出店する、という方法も考えられます。終電が早まり、飲み会などが減れば早く家に帰って家族と食べる、という人もいるはずです。ここで、自宅で食べることもあれば、自宅付近にある飲食店で外食をする、ということもあります。また、帰る方向が同じである人同士で途中駅の飲食店に寄って夕食をとるということも考えられます。ですから、これらの需要を見込んで郊外に出店するというものです。

4.ここまでのまとめとほかの都市圏について

 まず、ここまで考えてきたことについてまとめていきたいと思います。


・新型コロナウイルス感染症流行や、鉄道会社の工事量増加・作業員の減少などの影響で終電が繰り上げられた。

・新型コロナウイルス感染症の流行が落ち着いた後も、人口減少が続くため、鉄道会社の作業員の減少は今後も続くと思われる。

・夜間に出社する職業はシフトを調整し、出社時間を早めることで終電繰上げの影響を抑えられる。

・出社時間を早めることで、残業に使える時間を増やすことができ、終電繰上げの影響を受けにくくなる。また、朝ラッシュ時間帯も避けることができる。

・飲食店は社会の変化に対応することや、また店舗を郊外に移すことである程度の対策ができる。


 ここまでは、東京や大阪、名古屋などの大都市圏などについて考えてきましたが、それ以外の地方の都市圏はどのようになるのでしょうか。

 筆者は、現在とあまり変化が生まれないと思います。理由としては、地方都市は現在でも終電の時刻が十分早く、これ以上の繰り上げは不要だと考えられるからです。

 しかし、出社時刻を早める、というのは地方都市にある企業にも有効であるといえます。やはり、終電までの時間に余裕があれば、落ち着いて仕事ができるため、仕事の質も上がると考えられます。

5.終わりに

 文化祭号向けの研究は、結構久しぶりに書いた気がします。さて、終電繰り上げの影響は社会全体にとっては非常に大きいそうですが、筆者本人は今のところその影響をはっきりと感じたことがありません。まあ、高校生なので本来は影響を受けることはないはずなので、当然といえば当然ですが。

 そんなこともあって、結論がかなり弱くなってしまった気がします。実感のわかない内容は考えるのが難しいですね。次回はもっと(筆者も)理解できて、はっきりとした内容の研究が書けるように頑張っていきたいと思います。

6.参考

・JR東日本

https://www.jreast.co.jp/

・総務省

https://www.soumu.go.jp/


おことわり:Web公開のため一部表現を変更させていただきました。掲載されている情報は研究公開当時のものです。現在とは若干異なる場合があります。

浅野学園鉃道研究部 『停車場』アーカイブ

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