観光と鉄道を考える

1.はじめに

 みなさん、こんにちは。高校一年の**です。本日は打越祭第二部文化祭にお越しいただきありがとうございます。今回は観光と鉄道というテーマで研究を書いていこうと思います。また、以前先輩方が執筆された研究を一部参考にしていますがご了承ください。

 拙い文章ですが最後までお読みいただければ大変幸いです。

2.日常生活での移動手段としての鉄道

 日常生活において鉄道はどれほど利用されているのでしょうか。平成27年度の国交省の調査をもとに考えてみましょう。これは全国70の都市で行われたものです。まず、この調査での交通手段の定義を説明しておきたいと思います(図1)。


 なお、ここに記載する数値は三大都市圏の平日の数値を抽出したものであることをご承知おきください。

 まず、通勤・通学について見ていきましょう。通勤での鉄道使用率は50.4%、通学では31.1%とほかの交通手段よりも高い利用率だと思います(通勤通学ラッシュというものが存在することからもうかがえます)。一方で買い物目的の利用では、鉄道は10.7%、自動車は37.4%と圧倒的に自動車の方が利用されていることが分かります。買い物では必然的に帰りの荷物が多くなるため自動車の方が都合がよいのでしょう。

 したがって、日常生活における鉄道の立ち位置は通勤通学の手段と考えるのが妥当そうです。ちなみに、用途を無視してすべての交通手段を集計すると次のグラフのようになります(グラフ1)。

 自動車の方が、鉄道より利用率が高いという結果になりました。(集計の際に運転と同乗を分けて数えていることも理由かと思います)日常的に車を使っている人からすれば、電車に乗ることは非日常感を感じられるものかもしれません。今回は「観光と鉄道」というテーマなので、観光の手段として鉄道を使ってもらうという観点では、このことはプラスに働くでしょう。

3.観光における移動手段としての鉄道

 2章では日常生活における鉄道の役割を考えました。ここからは観光について考えていきます。

 ここではコロナウイルスの感染拡大前、すなわち2019年のデータを見ていきたいと思います(以下コロナウイルスの感染拡大前=コロナ前と言い換えます)。

 訪日外客数(日本を訪れた外国人の数)は約3100万人、このうちの約7割にあたる2200万人が中国や韓国など東アジアからで、こういった層にいかに観光アピールをできるかが重要になってくると思います。また、2017年に国交省が公開した「FF‐Data(注:訪日外国人の国内移動データ)」では、51.3%が鉄道を利用していますが、関東近郊では6割以上鉄道が利用されているのに対し、九州や北海道ではバスの利用が主流です。これは地方では公共交通機関の運行本数が少なく、旅行の足としては利用しにくいことが原因ではないでしょうか。

 一方で国内旅行に目を向けてみると、日本交通公社の調査によれば全国的に自家用車を利用した旅行が多く、東京や大阪などの都市圏では鉄道が多く利用されているものの、その他の地域ではレンタカーなどの方が多く利用されていることが分かります。※1

※1 東京、大阪では鉄道の使用率が6割を超えている一方、栃木、長野、静岡などでは自家用車の使用が半数を超える。鉄道の使用率が5割を超えているのは東京と大阪のみであることから、国内旅行において使われる傾向がより多くあるのは自家用車だと考察できる。

ⅰ国内の旅行形態の変化

日本経済が不況であることやライフスタイルの変化によって国民の旅行の仕方は変化してきました。不況になったことで会社単位での慰安旅行等が減少した一方、家族や友人・一人旅の需要が増加しています。したがって、鉄道や観光バスなどの大人数が一斉に移動できる手段よりも、車のような小回りが利く手段のほうが利用されやすいと思います。

 また、新幹線の交通網が発達したことで遠方の目的地への所要時間も短くなり、これまでは宿泊が必要だった地域にも日帰りで行けるようになったことから、訪れる人数が増えた一方で現地での消費が落ち込んだということも起こっているようです。

ⅱいかにして人を惹きつけるか

 鉄道事業にかかわらず、商売は客がいなければ成り立ちません。そこで、一見鉄道業界と関連が薄そうな事業とのコラボは、鉄道会社にとって利用客の増加、他事業者にとっては宣伝効果が見込めるためwin-winな関係といえ、観光的な観点からも非常に有効です。

 そういったコラボのうち有名なのは「ラッピング車両」ではないでしょうか。

①ラッピング車両

 アニメは日本を代表するサブカルチャーといえます。日本各地の鉄道路線に、こういったアニメとタイアップしたラッピング車両が走行しています(表1)。

 上に挙げたガルパンは大洗が舞台となっていることから、2012年からラッピング車両の運行が開始されました。2015年の劇場版公開ののち、翌2016年3月期の最終決算では2期ぶりに黒字を記録するなど、その集客効果が高いことは明らかでしょう。

②テーマパーク

 アミューズメントパークなどと呼称されることもありますが、当然大きな集客力を持ちます。たとえばディズニーランドやUSJですが、こういった施設には開業に合わせて新しく駅が設置されることも珍しくありません。※2

※2ディズニーランドは舞浜駅、USJはユニバーサルシティ駅がそれぞれ開業した。

 また、広告も兼ねてラッピング車両が設定されることも多いです。USJの場合、通勤電車である201系に人気キャラクターのキティ、エルモ、スヌーピーなどのラッピングを施した「ユニバーサルワンダーランド号」というものが走行していました(写真1)。現在はマリオの塗装を施したものが走っています。


↑写真1 かつて走行していたユニバーサルワンダーランド号 部員提供

4.問題点

ⅰ新型コロナウイルスの感染拡大

 昨今の新型コロナの感染拡大は、旅行形態に大きな変化をもたらしました。そもそも、外出自粛が求められているように、この情勢下においては旅行せずに家にいるべきなのは言わずもがなですが、一方でゴールデンウィーク時に問題になったように一部の観光地では人出が増えてしまうということも起こります。これに対策するために、できる限りのコロナ対策を行うことは必須でしょう。

 また、コロナ収束後にも感染症が蔓延する可能性は考えられます。これを契機に、鉄道の公衆衛生的な安全性について考えるべきでしょう。

ⅱ外国人観光客への対応(言葉のバリアフリー)

 現在の情勢では何とも言えませんが、新型コロナ収束後には以前のように多くの外国人観光客が訪れることが予想できます。都市部を走る大手の路線であれば、ある程度簡単に他言語のアナウンスを導入できるでしょう。現在もJR東日本では一般企業が開発したソフトなどを利用し、英語や中国語に対応しています。しかし、都市部ではない地域の観光地などにも外国人観光客は訪れると考えられます。そこで、地方私鉄などにも安定した多言語案内を可能にする方法が必要ではないでしょうか。

ⅲ利便性が低い

 これは特に自家用車やレンタカーと比較したときの話ですが、鉄道の特性上ダイヤに行動を制限されること、小回りが利きにくいことは鉄道を利用する上でのデメリットといえるのではないでしょうか。例として、東武日光線の東武日光駅の休日時刻表をみてみましょう(表2)。世界遺産である日光東照宮など、観光地として知られる日光ですが、東武日光駅から日光東照宮まで行くには、車で約5分、バスで約10分、徒歩ではおよそ30分かかり、華厳の滝などで知られる中禅寺湖周辺まではいろは坂を通るなどして車で行くのが最も良い方法です。

表2 東武日光駅(東武動物公園方面・休日ダイヤ)



 日帰りであれば問題ありませんが、宿泊を伴うのであれば少し物足りない、あるいは駅から離れた場所の宿泊施設を利用することも考えられます。それには自家用車を利用するほうが便利なので、必然的に鉄道の利用は減ることになるでしょう。

5.解決策

 前章で3つほど問題提起をしました。それぞれについて解決策を考えていきたいと思います。

ⅰ新型コロナウイルスの感染拡大

 当たり前のことですが、鉄道界がどのような努力をしたとてコロナを収束させることは不可能です。しかし、換気等を積極的に行うこと定期的に車内消毒を行うことで、感染防止に努めることは可能でしょう。また、駅構内や車両内ではマスクの着用を呼びかけ、利用者個人個人の意識を高める努力をするのが現実的な策だと思います。

ⅱ外国人観光客

 先ほど、JR東日本で導入されている多言語対応ソフトの話をしました。そのときに、経済的観点から地方の路線では導入が難しいのではないかと指摘しましたが、解決策は2通り考えられると思います。1つ目は鉄道会社が共同で多言語対応ソフトを開発し、導入することです。正確に言えば、IT企業と複数の鉄道会社が共同でソフト開発を行うべき、ということです。複数の企業でお金を出し合えば1社あたりの負担が減り、そのうえソフトも導入できるので利益が大きいと思います。

 2点目も各社が共同で開発する、という点は変わりません。ただし、スマホ向けの案内アプリを開発して無料でダウンロードできるようにする、というのが私の案です。この際、鉄道会社の職員の業務はこれまでと変わらないため、より簡単に幅広い言語圏の人々に案内をすることが可能になると思います。

ⅲ利便性

 利便性を上げると簡単に言っても、路線の延伸や、単純に運行本数を増やすというのは難しいでしょう。これらの対策には多額の資金が必要で、各方面との調整も難しいからです。しかし、ある程度スペースがあるという点を生かし、車よりも快適に移動ができるとアピールするなど、鉄道だからこその要素を強調していくのが良いと思います。

ⅳ鉄道そのものを観光資源として利用していく

 第3章でラッピング車両などを紹介しました。これでわかるように、鉄道は単なる移動手段ではなく、観光資源そのものにもなります。以前私の研究で触れたこともあるのですが、「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」や「ななつ星in九州」など、宿泊を伴うサービスを提供するクルーズトレイン、「THE ROYAL EXPRESS」のような日帰りで利用できるもの、SLのような希少性の高い車両など様々あります。また、「鬼滅の刃」とJR東日本、JR九州がそれぞれコラボしたSLが走行したというニュースは大きな話題になり、熊本県で走行した「SL鬼滅の刃」にはGo Toキャンペーンの影響もあって非常に多くの人が集まりました。コロナ禍にも関わらずこれだけ大きな集客効果を見せたというのはこういったコラボへの人々の関心が高いということを表し、今後も大きな参考になるものだと思います。

6.総括

 これまで書いてきたことをまとめたいと思います。


①新型コロナ終息後も換気の励行などは可能な限り続けるべき。

②外国人観光客の案内能力をより高めるため、各社が共同で無料ダウンロード可能な多言語対応アプリを開発すべき。

③利便性を向上するために単純に運行本数を増やすといったことは難しいので、他の手段と異なった移動中の快適さなどをアピールしていくべき。

④アニメとのコラボ車両など、存在そのものが観光資源となりうる鉄道を最大限活用し、集客を目ざす。


 コロナが終息するまで大っぴらに観光事業を行うことは難しいと思いますが、必ず終わりは来ます。そういったタイミングで事業を展開できるように少しずつ用意を進めていくのが良いのではないでしょうか。

7.おわりに

 いかがでしたか。相当意気込んで書いたのですが、かゆいところにギリギリ手が届かないような何とも言えない内容になってしまったような気がします。しかし、抽象的なテーマでコンパクトに研究を書くことはできたのではないかと思っています。現段階では(2021年7月)、文化祭に外部のお客さんをお招きできるかわかりませんが、できたらいいなと願っています。ちなみに、この文化祭が終わると我々が最高学年となってしまいます。これまで先輩に頼ってきた部分が非常に大きいので一抹の不安はありますが、楽しむことを第一に最後まで活動したいですね。

 最後に読んでくださった皆さん、執筆を支えてくれた班員の皆さんに心から感謝します。

本当にありがとうございました!

8.参考文献

▼日本経済新聞

https://www.nikkei.com/

▼マイナビニュース

https://news.mynavi.jp/

▼トラベルボイス

https://www.travelvoice.jp/

▼国土交通省

https://www.mlit.go.jp/

▼日本政府観光局

https://www.jnto.go.jp/jpn/index.html

▼日本旅行業協会

https://www.jata-net.or.jp/

▼駅探時刻表

https://ekitan.com/


おことわり:Web公開のため一部表現を変更させていただきました。掲載されている情報は研究公開当時のものです。現在とは若干異なる場合があります。

浅野学園鉃道研究部 『停車場』アーカイブ

浅野学園の鉃道研究部が発行する部誌『停車場』のアーカイブサイトです。過去に発行された『停車場』を自由に閲覧することが出来ます。

0コメント

  • 1000 / 1000