京急線の現状

1.はじめに

 こんにちは。今回も停車場並びに私の文章をご覧いただきありがとうございます。コロナで調査ができないということを言い訳にしてあまり研究を書かなかった結果もう中3になっていた**です。前回のテーマも京急だったのですが、このコロナウイルス流行を前にとんでもない状況になっているといううわさが流れてきたので、それについてみっちりと調べていきたいと思います。なお沿線民のため、かなり私情(というか批判)がありますが、温かい目で見ていただけると幸いです。

2.現状

(1)京急線の概要

 浅野のある新子安に行ったことのある皆さんならご存知かと思うので簡単に概略だけをお話ししますが、京浜急行電鉄(以下:京急線)は東京都の港区、泉岳寺駅を起点とし、三浦半島の南に伸びる大手私鉄です。

 支線がいくつかあり、羽田空港に向かう空港線や、川崎の市街地を走行し川崎大師への参詣客輸送も兼ねている大師線、逗子に行ける逗子線、三浦半島の最奥に向かう久里浜線などあります。

(2)京急線の現状

 京急線は現在、様々な原因により、評価が下落しています。Twitterなどで「京急」などと検索すると、人身事故の多さや、案内の分かりにくさなどからかなり低い評価を受けており、ニュースサイトなどでも2019年に起きた神奈川新町駅構内脱線事故以来京急の会社体質などについて記事が書かれており、順風満帆というわけではありません。

3.京急線の問題点

(1)会社側の問題点

①会社体質

 先述したように現在京急線は主にネットなどで「13連勤電鉄」などと揶揄されています。これはどういうことかというとその名の通り13日連続で退勤せず、働きつづけるという意味です。

 通常の会社であればそのようなことは起きるはずないのですが、このように揶揄されているとおり、現在の京急は乗務員がとても不足しています(利用者視点から見てもわかります)。

 大手転職系レビューサイトLighthouseによると評価は軒並み5.0中2.0ほどで、縦社会や、昭和気質ということが書かれています。

 今の京急は2005年のJR西日本と同じなのではないでしょうか。

 皆さんは福知山線脱線事故をご存じですか?福知山線脱線事故は107名が死亡、562名が負傷した日本の鉄道事故で史上最大の事故であり、その原因は当時のJR西日本が行っていた日勤教育という過酷な仕事内容が大きかったといわれています。それによって露呈したこの悪質な問題は、やっと事故で表面化され、社長などが改善を決定しました。しかし事故が起きなければ永遠にこの状況が続き、軽度な事故が増えるなど安全を揺るがす出来事がもっと発生してもおかしくなかったのではないでしょうか。京急もそれと同じだと思います。

 一昨年の脱線衝突事故も運転士の力量に任せず、自動減速システムさえあればおそらく被害は最小に抑えられた、若しくは皆無だったことでしょう。

②待遇

 同じ転職口コミサイトによると、主に縦社会、残業の多さ、乗務員の大量退職などが多くなっており、13連勤や手取り14万円など劣悪な労働環境があらわになっています。ダイヤモンドオンラインの記事によると欠員が1割に達し、(おそらく50人強の)退職者はJR東日本などの同業他社への流出が起きているようです。

 また、職員不足による影響は大きく、2021年7月28日、京急久里浜駅にて、視覚障碍者の男性が、電車にドアを挟まれたままそのまま発車し、頭部の打撲というけがを負っています。これは、安全第一の鉄道事業者にはあってはならないことであり、乗務員の確認不足や、駅員の配置を行わなかったのが原因でしょう。

(2)利用者からみた問題点

 遅延が少ないといわれていた京急線も、最近はその限りでなく、遅延が毎日起きるといっても過言ではありません。特に多いのは人身事故です。最近の京急線は人身事故が例年と比べて増加傾向です。下図をご覧ください。 


 これは2021年6月1日現在の全国の路線の人身事故件数です。人身事故が多いといわれている東武線や中央線をさしおいて京急本線がトップになっています。

 何とも不名誉なランキングですが、最近京急線は人身事故の件数が大幅に増加しています。 


 また、上の表から分かるように、2021年5月には何と7件もの人身事故が発生しており、1日に2件起きている日が2日もあります。(およそ1週間に1.3件)。

 2019年ごろからこの増加傾向は起きており、コロナ禍の影響もあるとおもいますが、京浜東北線や東急線などの他路線のホームドア設置により、しわ寄せがきている可能性もあります。

 また、特に多い発生個所である弘明寺駅と八丁畷駅は駅のすぐ隣に踏切があり、大半はそこで起きているため、高架化されていないというのも一因であるといえるでしょう。

(3)鉄道設備

①車内案内自動放送がない

 京急は、いまだになんらかの放送システムを導入しておらず、関東の大手私鉄で唯一完全自動放送を行っていません(タブレット型の自動放送も含む)。

 次の表は京急線で行われている自動放送です。対応している駅は限られており、導入に消極的なのが分かります。(合成音声は発音やイントネーションなどが声優の録音に比べて悪い)

 京急の運行管理システム(後述)にも問題がありますが、2020年代になっても一向に導入する気がないのは、京急の社風に大きな問題があるといえます。技術的な問題でいえば、京急は複雑な運行パターンや増結、直通運転といった点がありますがこれは2020年までにいずれもほかの鉄道会社が何らかの方法で解決しています。

 京急は最近のダイヤ改正で運行パターンもシンプルなものになりましたし、連結や直通運転についても阪神電鉄や京成電鉄がそれぞれ合成音声やタブレットを使用して解決できています。そのため技術面に問題があるとは考えにくいです。


 問題なのは会社の社風です。異常時にとにかく迅速な対応をするため基本的になにをするにも社員の手動で解決させるというとてもアナログな昭和の社風が色濃く残っています。そのため、いまだに新造列車には車両の情報、力行やブレーキ、空調装置や車内案内LCDと運転士モニタを一括管理するシステムを搭載せず、運転席も計器は基本的にアナログで、自動で列車を定位置に停車させる装置であるTASCもありませんし、駅の案内も駅員頼りです。

 2019年の神奈川新町駅で起きた踏切衝突事故もこの運転士に緊急停車の判断を任せるといった、人手だのみの社風が間接的に関係しているでしょう。

 10年ほど前はこの職人技でなんとかするといった雰囲気は遅延が起きた場合、迅速に通常運転に復帰させるそのすごさから、鉄道ファンを中心に先進的な肯定評価を受けていましたが、機械の技術が指数関数的に進歩してきた2010年代半ばから少しずつ評価が下がっており、IT時代のいまにそぐわない社風が出来上がってしまったわけです。そんなわけで自動放送は一向に導入されず、空港に直通しているにもかかわらず大きく後れを取っています。

②駅設備の質が低い

 まず自動放送と同様に、京急線は詳細型の接近放送の普及がいまだに進んでいません。品川駅、京急蒲田駅、横浜駅、羽田空港駅には詳細型を導入していますが、外国語放送がほぼ定型文ですし、この4駅でしか導入できていないとも言えます。また、横浜駅の自動放送を聞いているとわかりますが、英語放送の途中で駅員が割り込んで案内を始める場合もあり、ツイッターやYouTubeなどのSNSでは聞こえづらいなどと苦情が出ていることもあります。

 それ以外の駅では簡易型が導入されていますが、本当に簡易なものであり「電車が来る」としか伝わらない文面です。以下がその原稿です、いかに必要な情報がくみ取れないかわかるかと思います。

 まもなく、上り普通が到着いたします。危険ですから、黄色い線の内側に下がってお待ちください

 これだけだと、上り方面に普通列車が来る、という情報しか得られず、通常必要な行先両数がわかりません。特に京急はエアポート快特を除くすべての種別で複数の両数による運行が行われているので、駅員の放送がない駅では、乗客がホームの端に並んでいた場合、想定より両数が短い列車が到着し、走ってドアに向かうという光景が見られます。これはサービス意識の低さに起因してくるのでしょう。

 そのほかにも物理的な問題があります。京急は新種別の追加やダイヤ改正などで列車の停車駅を変更や増加させた際、ホームの対応する長さが足りず急ピッチで増設するということを繰り返しているため、京急東神奈川駅などホームの先端に屋根を設置していない駅が多く、雨の日はラッシュ時、屋根がある部分に人が集まり、乗降に時間がかかってしまう集中乗車という現象が発生します。これにより、悪天候時遅延が発生し、他社線にも振替輸送や旅客急増などの影響をあたえることになってしまうのです。(なお、これに関しては2021年度設備投資計画にて、一部駅の屋根増設について発表済みのため、今後も対応するものかと思われます。)

4.原因

 私は、この影響は様々なものに起因すると思っていますが、一つはこの京急の独特な体質の賞賛にあると思います。いままで、ニコニコ動画をはじめとするSNSではダイヤ乱れ時に、人力によってダイヤの回復をする通称“逝っとけダイヤ”というのが共有され、その無線や臨機応変に対応する乗務員や車掌を見て、京急を称賛するコメントが多くありました。それを京急の上層部が見て、なかなか機械制御などに舵を切れないのではないかと思います。要するに、マニアによる賞賛が企業の危険な環境を作り出しているのです。このようなコメントはTwitterやネットニュースなどにもなっており、原因の一つにこれがあるのではないかと思います。

 ここまで書くと、こちら側の自意識過剰と言われそうですが、これはあながち間違いではなく、2018年に日本テレビの番組の京急120周年記念の報道で、社長は「鉄道会社の中でファンが一番多いのは京急だと自負しております」というコメントをしており、(もちろん前向きな姿勢はいいのですが)労働環境については見直されずに現状維持をしているというのがわかります。

 また京急は昔先進的なものを導入していることが多く、全国で初めて機械制御で列車を集中制御するCTCを1954年に導入しており、全車両冷房化も関東の大手私鉄で最初に完了しており、かなり評価されていました。しかしそのあとCTCは久里浜線のみの導入にとどまり他はすべて人力による制御です。

 輸送力強化時代、JRや他の私鉄では複々線化に力を入れているのに対して、京急は品川横浜間でJR線に対抗するため120km/hの運転にのみ力を入れており、人員・車両・線形改良のための用地取得などにあまり予算が回らず、京急線に複々線がないのはそのせいだといわれています。ここ10年ほどでもほかの鉄道会社はITの発展とともに設備の強化を行ってきました。京急はその波に取り残されてしまったのではないかとおもいます。

5.改善点

 やはり、京急は様々なことのバランスが取れていないと思います。2019年までドル箱路線であった空港線に力を入れすぎた結果、COVID-19の影響で大幅な減益になる一方、沿線住民が大切にしている駅や車両設備などに力を入れず、主に定期外利用客がメインの三浦半島の観光サービスの実証実験などをやっていることに若干の先見性の欠如を感じます。しかも外からの評価を気にしすぎた結果、乗務員の労働環境が劣悪になってしまうのは言語道断であり、安全第一の鉄道業界では、やはり根底にある昭和気質の企業体質を改善するべきだと思います。

6.おわりに

 ここまで、よくない点をつらつらと述べてきましたが、やはり京急が愛されているのは間違いないと思います。このまえのドレミファインバーターの記念乗車券発売では1500人以上を超える人が京急蒲田駅に集まり、長さ300mを超える駅さえ囲んでしまう長蛇の列ができていたようです。

 私も沿線に住んでいて京急には愛着を持っています。他社との違いはよくないといっていましたが、実際に評価できるところは多いのでまた増えるであろうインバウンドや国際化の流れに乗って、いつかの先進的な京急に戻ってほしいです。

7.参考文献

・Moneyvoice 

https://www.mag2.com/p/money/

・京急電鉄ホームぺージ

https://www.keikyu.co.jp/  

・日本経済新聞

https://www.nikkei.com/

・鉄道人身事故データベース

https://jinshinjiko.com/

・Lighthouse

https://en-hyouban.com/

・Diamondonline

https://diamond.jp/


おことわり:Web公開のため一部表現を変更させていただきました。掲載されている情報は研究公開当時のものです。現在とは若干異なる場合があります。

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