その案内、伝わる? ~東海道新幹線品川駅~

1.はじめに

 停車場をお読みの皆様、こんにちは。今回の研究では、東京都港区に位置する品川駅のサインシステムについて書いていきます。元模型班だった私の、最初の研究として頑張りたいと思います。

2.サインシステムとは

 突然「サインシステム」と記されて、どういったシステムなのか疑問に思う方もいるはずなので、大前提としてこの章で解説します。

 サインシステムとは、鉄道駅や商業施設などの公共施設等に設置される案内標識のことです。公共機関におけるサインシステムは、大まかに「誘導サイン」「位置サイン」「案内サイン」「規制サイン」の4種類に分けられます(国土交通省「公共交通機関の旅客施設に関する移動等円滑化整備ガイドライン」より)。


 「〇〇線で△△へ向かいたい。」 「改札を出て、〇〇線・□□バスに乗り換えたい」 「切符発売所で指定席を取りたい」 「駅ナカ(※駅構内に作られた商業施設)でスイーツを食べたい」 など、さまざまな目的を抱えた駅利用者が円滑な移動を行えるようにするには、駅空間上にサインを配置し、行動を補助する必要があるのです。

 首都圏では、高度経済成長期に鉄道の路線網を急速に広げ、乗換駅が多く作られました。そして、地下鉄だけで5つのホームが存在する駅や、6つの会社が乗り入れる駅など、都市開発が進むとともに駅構造が複雑化していった、いわゆる「ダンジョン駅」も多く発生しました。

 また、21世紀に入り、高齢者や身体障碍者でも不自由なく利用するための整備を促進するバリアフリー化や、訪日外国人の増加に合わせた表記の多言語化が進められ、サインシステムに求められる案内の種類も複雑化していきました。

 例えば、駅のバリアフリー化が進められ、エレベーターが整備されると、利用者をエレベーターへ誘導する新しいサインを設置する必要が生まれます【図①】。また、JR東日本では首都圏の駅名標を、韓国語・中国語を加えた4カ国語表記の物に更新しています【図②】。

 以上のことから、鉄道駅のサインシステム整備は、今もなお試行錯誤を繰り返す「終わらない課題」として世の中にあり続けているわけです。

3.品川駅の現状

 品川駅は、京浜急行・JR東日本・JR東海の3社が乗り入れる巨大なターミナルです。


 ③ 駅は2階構造になっており、1階部分がJR東海(以後「新幹線」表記とします)とJR東日本(以後「在来線」表記とします)のホームに、2階部分は京浜急行(以後「京急線」と表記します)のホームとそれぞれの改札を跨ぐ東西自由通路になっています。


④ この平面図は、品川駅の2階部分を平面的に図解したものです(ecuteやアトレなどの商業施設は省略しています)。☆印は改札、△印は他社とののりかえ専用改札を表しています。この図から読み取れる通り、京急線は2階から直接乗り場へ向かうことができません。京急線の改札は高輪口1階部分にあり、港南口から入った場合は東西自由通路を経由し高輪口に向かう必要があるのです。

4.新幹線駅を実際に調査する

タイトルにもある通り、今回の研究では新幹線駅構内に注目を当てて、現サインシステムの利便性・課題を調査し、独自の改善案を提唱していきます。

4-1.視点


 上の表は、どのような点をサインシステムの利便性として調査していくか、4項目に分けてまとめたものです(「公共機関旅客施設のサインシステムガイドブック」より、サインシステムの表現5原則に基づいて改変・作成)。

4-2.想定

 調査では、実際の利用客を想定して進める必要があります。しかし、スマートフォンを使いこなせて、品川駅についてある程度の知識を蓄えた私がモデルでは大して参考になりません。そこで、今回の研究では、京急線に乗り換えるケースを想定して調査を進めていきます(初めて利用する人を想定するものとします)。

5.調査結果

 京急線は羽田空港方面や、直通運転先の都営地下鉄線で押上・浅草方面と、外国人の需要も多くあります。新幹線駅構内では、どのように案内されているのか調査しました。

5-1.2つのルートが存在した

 下調べを進めると、新幹線から京急線に乗り換える方法は2種類あることがわかりました。1つは改札外に出て自由通路を経由するルート。もう1つは在来線コンコースを経由するルート※です。(※3章図④の下半分を参照。新幹線▶在来線乗り換え専用改札と、在来線▶京急線乗り換え専用改札を突っ切る形になる)

 この段階で複雑なのですが、さらに難しいのが、在来線のコンコースを経由するルートは交通系ICカード限定経路になっているところです。ICカードも、東海道新幹線のネット予約サービスである「スマートEX」に登録していないと利用できないシステムになっており、サインでの案内が必要だと思います。

5-2.ホーム上での案内


 上の写真から、京急線の案内が極端に少ないことが分かります。【図⑤】駅構内図にはかなり小さく「京急線のりかえ」と記載されています。【図⑥⑦】ホームのエスカレータには「JR線乗り換え」の案内しかなく(階段の案内も同様)、【図⑤⑧】の案内では、英語表記もされていないので、視認性が低く、サインの連続性もないことが明らかです。

 次は、【図⑧】の(駅員により補足された)誘導サインに従い、南口コンコースに上がった際の写真を載せていきます。


 南口コンコースでは、JRのりかえ口経由で、京急線への乗り換えを案内していますが、前述のとおり、スマートEXに登録した交通ICカードを使わなければ、この経路は利用できません。その説明書きもされておらず、不親切な案内であるように感じました。

※下線部については【7章おわりに】をお読みください。

5-4.北口コンコースでの案内


 北口コンコースは、JR乗り換え専用改札と自由通路に出る北口改札に分岐しており、京急線への乗換案内は北口改札と一緒に表記されています。通路に連続して誘導サインが設置されており、わかりやすく継続的な案内がされていました。

 しかし、【図⑫⑬】では「京浜急行線/Keihin-Kyukō Line」と表記しているのに対し、【図⑭】では「京急線/Keikyū Line」と表記されており、統一性に欠けています。

6.改善案

 下の表は、前章で調査したサインの問題点を分類分けしたものです(数字は図の番号を表しています)。それぞれの場所に違った課題が存在するので、利便性を上げる改善案を考えていきます。


6-1.表記の統一化

 誘導サインは、統一された形式で連続的に設置されるのが望ましいとされています。そこで、ホーム・コンコース共に統一された京急線の表示形式を自分なりに考えてみました。【図⑮】※枠内は赤色で構成されています

 案1では、自由通路・在来線駅構内の形式【図⑯】に合わせて、京急線のナンバリングであるKKを表示していますが、誘導サインとしてあまり分かりやすいと感じませんでした。そこで案2では、京急線の直通先である都営浅草線の誘導サイン【図⑰】を参考にし、ナンバリングの代わりに電車のピクトグラムと羽田空港の空港コードである「HND」を用いたマークを表示させ、羽田空港へ向かう電車であることを簡潔に伝えられるようにしました。

6-2.ICカード専用経路の案内

 5-3章で前述した通り、南口コンコースにおいて改善すべき問題点はICカード専用経路の案内不足にあります。

 乗り換えに不慣れな外国人や、きっぷを使ってきた客も多く利用するコンコースにおいて、ICカード利用者にしか通れない経路を優先して誘導するのは、あまりにも不親切です。そこで【図⑱】のように、京急線乗換は出口改札への案内に変更しました。

【図⑲】は、エレベーターを昇ってすぐに位置する貼り紙の改善案です。現状は、コンコースの誘導サイン【図⑱】と同じ内容だったのに対し、改善案ではJR線のりかえ専用改札に関する案内に表示を絞る形にしました。JR線乗り換えに関する案内は2ヶ国語表記であるのに対し、京急線のりかえの説明は日本語表記のみとした理由は、外国人におけるICカード専用経路のニーズが極めて少ないと判断したからです。結果として、文字サイズを大きくすることができ、余白も十分取れているので視認性の向上にも繋がっています。


6-3.改善案を用いた想定

 改善案を用いて、現サインシステムを置き換えた際の合成写真を作成しました。5章の現サインシステムと比較すると、改善点が理解しやすくなると思います。


 いかがでしょうか。ホーム【図⑳】➝コンコース【図㉒㉓】➝自由通路【図⑯】と移動していく際に、赤い枠・「京急線/Keikyū Line」表記で統一された案内が連続していると、不慣れな利用者でも簡単に経路を理解できることが分かります。また、南口コンコースにおいて、在来線乗り換え改札に誤って入ってしまう可能性も大きく減ったと思われます。

7.おわりに

 はじめに、読んでいただいている方へお詫びしなければいけないことがあります。

 5-3章において、不親切だと指摘したICカード専用経路への誘導案内ですが、父親に「1回確かめてきたらどうだ?クレームが来ていてもおかしくないだろう」と言われ、実際に品川駅の駅員へ質問しに行ったところ、現在は、きっぷや普通のICカードでも通り抜け可能になっているとのことでした。つまり、筆者が思うほど不親切な案内ではなかったのです。リサーチ不足でネットの情報に頼りきっていたことをお詫び申し上げます(一応ソースは、JR東海が運営しているサイトだったのですがね…)。

 最後こそグダグダにはなってしまいましたが、駅におけるサインシステムの役割・わかりやすさの重要性をこの研究で理解していただけたら嬉しい限りです。

8.参考文献

・「サインシステム計画学」赤瀬達三/鹿島出版会

・「駅をデザインする」赤瀬達三/ちくま新書

・国土交通省

https://www.mlit.go.jp

・京成電鉄

https://www.keisei.co.jp

・公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団

http://www.ecomo.or.jp

・「スマートEX」気軽にネット予約で新幹線を利用するなら!

https://smart-ex.jp

※現在とは情報が異なる可能性があります

浅野学園鉃道研究部 『停車場』アーカイブ

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