1.はじめに
こんにちは。本日は部活動体験会にお越しいただきありがとうございます。
この号は、文化祭後からの新体制での初の停車場ということで、気を引き締めて書いていこうと思います。さて、今回の研究では来夏に迫った東京オリンピック・パラリンピックに向けた交通整備について書いていきます。また、文中では都合上鉄道以外の交通機関についても触れることがありますが、ご了承ください。また、便宜上鉄道が停まるのを駅、バスが停まるのを停留所と表記することとします。拙い文章ですが最後までお読みいただければ幸いです。
2.東京オリンピック・パラリンピックについて
この章では東京オリンピック・パラリンピックの概要を示していこうと思います。
ⅰ東京オリンピック
開催期間:2020年7月24日(金)~8月9日(日)
1964年以来2度目になる東京開催のオリンピックです。リレーなどの競技でメダルが期待されています。2019年12月4日にマラソンと競歩の競技会場が札幌に変更されることが正式に決定され、大きな影響が出ることが懸念されています。
ⅱ東京パラリンピック
開催期間:2020年8月25日(火)~9月6日(日)
パラリンピックは障がいを持つアスリートが参加する祭典です。2000年に開催されたシドニーパラリンピックの際、国際オリンピック委員会(IOC)と国際パラリンピック委員会(IPC)の合意により、「オリンピック開催国はオリンピック終了後にパラリンピックを開催する」などの事項が定められ、以来オリンピックとの協力関係を深めています。
ⅲ会場
「東京大会」と銘打っていますが、会場は東京以外にもあります。とくにサッカーは札幌ドームなど、東京とは遠く離れた場所も会場として指定されています(オリンピックの場合)。パラリンピックの場合、遠くても伊豆や富士までが会場になっています。パラリンピック選手の移動に配慮したものと考えられます。
会場は主に2つのエリアに分けられています。前回の1964年東京五輪の際に使用されたヘリテッジエリアと、都市の未来を象徴した東京ベイゾーンです。これら2つのエリアは無限大の記号をイメージした配置になっており、トップアスリートが灯した情熱と、次世代へつながる可能性、そして語り継がれるレガシーが無限に広がっていくことを表しています。(HPより引用)
ⅳ大会マスコット
例年オリンピックやパラリンピックでは、マスコットが大活躍しています。今大会には、「ミライトワ」というオリンピックのマスコットと、「ソメイティ」というパラリンピックのマスコットがいます。彼らは大会PRにおいて大きな役割を果たすほか、大会中にキャラクターグッズなどの発売をすることで、経済的利益を生み出すという面もあります。また、今大会ではマスコットの最終決定は小学生たちの手に委ねられました。多くの世代の期待を背負ったマスコットであるといえます。
3.今大会で使用されると考えられる公共交通機関
この章ではいくつか代表的な会場をピックアップしてその周辺の公共交通機関を紹介していこうと思います。まず、オリンピックで使われる会場です。
ⅰ新国立競技場 開催競技…開会式・閉会式、陸上競技、サッカー
まず、新国立競技場についてです。設計デザインが決定するまでひと悶着あり、話題になりました。最終的には建築家の隈研吾さんの設計案に決まりました。2019年12月21日には元陸上選手のウサイン・ボルト氏らをゲストとして迎えてオープニングイベントが行われました。
最寄り駅はJR中央線千駄ヶ谷駅や都営大江戸線国立競技場駅などです。また、都営バスの千駄ヶ谷停留所からも行くことができます。
開会式、閉会式が行われることからも分かりますが、このスタジアムは今大会において中心的なスタジアムです。開催される競技も多くの人が集まる人気の競技なので、周辺の交通機関の対策は必須でしょう。
▲中央・総武線各駅停車のE231系
▲国立競技場付近の様子(2020.1.1 天皇杯決勝) たくさんの人が集まっていることが分かる
▲新国立競技場
ⅱ東京スタジアム 開催競技…サッカー、近代五種、ラグビー
こちらも開催される競技が複数あることが特徴です。調布飛行場のすぐ近くに立地しています。
読者の皆さんの中には「近代五種」というものをご存知ない方もいらっしゃるかと思います。近代五種とは、1人の選手が1日でフェンシング、水泳、馬術、射撃、陸上の5つの種目に挑戦するという、万能さが求められる競技です。1912年大会から行われている歴史のある競技でもあります。
最寄り駅は京王線の飛田給駅、西武多摩川線の多磨駅などです。京王バスや小田急バスでも行くことが可能です。京王線沿線であるために、ラグビーW杯で起きたような事案がこの周辺で起こる可能性があります。詳しくは第6章で触れます。先ほどの新国立競技場よりもアクセスが良い印象を受けますが、対策が必要だと思います。
ⅲ有明アーバンスポーツパーク 開催競技…自転車競技、スケートボード
この会場では若者からの人気の高い2つの種目が行われます。また、自転車競技についてですが、BMXという競技が行われます。BMXという小型の自動車を使用して行う競技で、技の華麗さを競う競技や速さを競う競技があります。
最寄り駅はりんかい線の国際展示場駅、ゆりかもめの有明テニスの森駅などです。因みに、有明テニスの森は今大会ではテニスの会場に指定されています。都営バスの有明テニスの森停留所も最寄りです。先述の通り、若者に人気のあるスポーツなので、こちらも対策が必要かと思います。
その他、様々な場所が会場として指定されていますが、ここでの紹介は省きます。
続いて、パラリンピックの会場についてです。
Ⅰ新国立競技場 開催競技…開会式・閉会式、陸上競技
まずは新国立競技場です。アクセスについては先述の通りです。パラリンピックは障がい者アスリートの大会なですが、陸上競技では選手の障がいの種類によって様々な競技の分け方があります。例えば、足のない下肢切断の種目でも義足をつける種目とそうでないものがあります。
Ⅱ有明体操競技場 開催競技…ボッチャ
有明北地区に建設される仮設の競技場です。ボッチャとは重い障がいをもつ人たちのために考案された競技で、「ジャックボール」と呼ばれる白いボールにどれだけ他のボールを近づけられるかというルールのもと、障がいの程度でチームを分けて争います。
最寄り駅は「有明アーバンスポーツパーク」と同じです。この大会において、有明地区に多くの会場が集まっていることから、有明地区が重要なエリアであることが分かります。
Ⅲ東京アクアティクスセンター 開催競技…水泳
先ほどの陸上のように水泳もいくつかの区分けがされています。しかし、例え同じ区分けでプレーしても選手によって障がいの類が違うため、選手ごとに違うフォームでの泳ぎが特徴です。
最寄り駅は東京メトロ有楽町線の辰巳駅、JR京葉線の潮見駅、りんかい線の新木場駅、都営バスの辰巳団地停留所、漣橋南詰停留所です。
今大会に向けて新設される会場は、大会終了後に取り壊される仮設のものと今後のスポーツの発展のために残されるものがあり、とくに仮設の競技場については、観戦チケットを持っていなくてもスタジアムを見に行くために会場を訪れるというのも価値がありそうです。
4.大会中の交通マネジメントについて
交通マネジメントとは交通需要マネジメント、交通システムマネジメント、公共交通需要マネジメントの3つから成る、交通混雑を緩和するためのシステムです。万一、交通マネジメントを行わなかった場合、どのような問題をもたらすか考えてみましょう。以下のような表が東京大会のHPには記載されています。(※HPの図をもとに、筆者が再制作しました。)
(この図は、あくまでも交通マネジメントの実際の大会輸送との関係を示すものです。)
また、実行委員会は本番に向けた実験も行っています。この実験では2019年7月下旬に「チャレンジウィーク」を設け、周辺の企業への時差Bizの実施の要請や、高速道路の入り口を封鎖するといった、実際大会中に行われる予定の取り組みを事前に行い、その効果を調べました。
実験の結果、交通量が一般道で約4%、首都高速道路で約7%それぞれ減少しました。数字を見ただけでは微々たる数字であるように感じますが、円滑な交通網を形成するためには重要だと思います。しかし、この実験によって、この対策の問題点も明らかになりました。それは交通道路の入り口を封鎖したことによって5kmほどの渋滞が発生したことや、一般道の信号の調整を行ったことによる通常より大きな渋滞の発生などです。
この問題に関する解決策として、筆者は一部の道路をあえて封鎖し、輸送用のシャトルバスなどが通るだけのルートを作成することを提案します。団体競技のスポーツでは、たくさんの選手を大型バスで輸送しますから、もし渋滞などの影響で選手の到着が遅れれば、その後の大会運営に大きな影響をもたらしかねません。ですから、選手や大会関係者、観客らを送迎するシャトルバスなどの専用のルートを作成することで、円滑な道路網を確保できます。どうしても、他の道路では渋滞が発生してしまいますが、公共交通機関の利用を呼び掛けることである程度は解消できると思います。
5.JR東日本の対策
今大会では世界中から選手や観客の方が多く集まる見込みです。また、国内での注目も高いです。テレビニュースなどでも、チケットの当選倍率がとても高いということが話題になっていました。
ということは、多くの人が都心部に集中する恐れが高く、通常の通勤客のラッシュ時間帯と、観客が移動する時間帯が重なってしまえば、混雑による深刻なダイヤ乱れが発生する可能性があります。そこで、JR東日本では、深夜帯の臨時列車を増発することを決定しています。また、「大会1年前に向けた取り組み」として、2019年7月22日~26日の期間の早朝時間帯に山手線と中央快速線の臨時列車を増発し、「夏の早起きキャンペーン」を実施することで「時差Biz」の推進を図ろうとしました。大会中もこれを実行することで会場に向かう観客と通勤客を分け、混雑の緩和を図ることができると思います。
また、前章のように多くの人が集まる品川駅などの大きな駅を対象とした暑さ対策として、医療機関との連携や駅構内の空調設備の設置拡大などの実験も行われました。 山手線などいくつかの路線では先述したマスコットの「ミライトワ」と「ソメイティ」がラッピングされた電車もすでに走行しており、「TOKYO SPORTS STATION」ADトレインという、車内の中吊り広告をすべて大会競技のルール等を紹介するポスター(これをTOKYO SPORTS STATIONという)に変更した車両も1編成運行される予定です。このポスターはJR東日本の特別サイトでも公開されています。大会において、大きなPR効果となることは間違いありません。以下の表は現在決定している深夜帯の臨時列車の増発が行われる路線と、延長される時間です。
具体的な時刻は2020年4月頃に発表とされているので、今頃JRの方が一生懸命考えているのでしょう。実用性の高い、誰もが快適に利用できるダイヤが考案されることを祈るばかりです。
また、今回の臨時ダイヤに関して筆者は次のような対策を考えました。競技会場に向かう観客は大人数の方が、同じ交通機関を使う可能性が高いです。なので、競技の開始・終了時刻に合わせて会場周辺の路線の運行本数を増やせば、特定の時間帯に混雑率が上昇するのを防ぐことができるでしょう。
6.その他私鉄と周辺のバス網の対策
この章では、JR東日本に属さない都心周辺の私鉄や都営バスなどのバス網の対策について紹介していこうと思います。
ⅰ都営バス
まず、都営バスがどのような交通機関なのかご紹介しましょう。都営バスは東京都交通局が運営する交通機関です。日暮里・舎人ライナーなどが東京都交通局の運営する交通機関です。様々な路線が、都内の広い範囲を走っており、4章で挙げた交通マネジメントの観点から言うと、非常に大切になりそうです。
都営バスの利用において、ポイントと言えるのが、無料Wi-Fiが利用できることです。日本人の利用者のみならず、観戦に訪れた海外の方にも優しい取り組みだと思います。都営バスでは以下のような車両が使用されています。都営バスの車両には、段差を軽減したノンステップバスや、環境に配慮したハイブリッドバスなどがあります。
しかし、今大会に関する交通整備の情報は公式HPには書いてありませんでしたので、ここからは筆者が考えた都営バスの対策を書いていきます。
臨時ダイヤの導入
やはり、鉄道と同じように臨時ダイヤを導入することで輸送の効率が良くなると思います。バスは鉄道と比べて狭い範囲を走るので、特定の区間では鉄道よりも集客率が上がると考えられます。しかし、混雑によって積み残し(※混雑のし過ぎで利用者が乗れずに停留所等に残されてしまう現象)が起こる可能性があります。臨時ダイヤで特定の時間帯に運行本数を増やすことで積み残しを限りなく減らすことができます。ですが、臨時ダイヤの導入は難しいのが現状です。なぜなら、バスは鉄道に比べて、渋滞などによる遅れが発生しやすく、それを鑑みた対応をすることが必須だからです。ただし、第4章で挙げた道路の一部封鎖などの対策と連動して行えば、スムーズにダイヤを導入できる可能性もあります。できれば、深夜帯の増発も行えればなお良いのですが、バス運転手の方の負担も考えると厳しいと考察します。
外国人にも分かりやすい表示
都内の狭い範囲を移動する場合、鉄道を利用するよりもバスを利用するほうが便利でしょう。無論、訪日外国人の人たちにもこれが当てはまります。しかし、都営バスの設備の多くは日本語のみの案内であり、外国人の方々には分かりにくくなっています。大会までまだ時間がありますから、方向幕の英語対応など、少しでも外国人に情報が伝わる工夫をすべきです。方向幕に関しては、一応行われていますが、文字が小さいことから、対応が不十分だと判断できます。以前東京都交通局には公式アプリが存在しましたが、2014年3月31日をもってサービスを終了しました。これの外国語版をリリースできれば、外国人の方々にも分かりやすい情報提供が可能になるでしょう。
ⅱ私鉄
多くの私鉄でも、JR東日本と同じように深夜時間帯の臨時列車の増発などの対策が取られることになっています。別会社であるということは関係なく全鉄道会社が協力して対応に当たることが必須です。例えば、都心部を通る東京メトロの各路線から、宿泊施設に近い他の路線への乗り換えがスムーズに行えるよう、表示の多言語化をする必要があります。看板だけでなく、外国語を話すことができるスタッフを駅に配置することも有効だと思います。こちらも臨時ダイヤを導入することが最も有効な手段であると言えるでしょう。
7.その他の問題
この章では2019年に日本で開かれたラグビーW杯で起こった観戦に訪れたサポーターたちが起こした問題について触れようと思います。サポーターたちは試合終了後に電車内でラグビーごっこをしたり、人間ピラミッドを組んだりと、危険な行為を繰り返しました。このような行為は競技会場から宿泊施設までの交通機関内や、競技会場の周辺の繁華街などで多く起こりました。繁華
街等では路上で暴れたことによる器物損壊の被害も出ていて、決して看過できるものではありません。
しかし、被害届を提出しても加害者が既に出国している場合どうすることもできません。また、被害がでないように警察が警戒するのも難しいでしょう。渋谷のハロウィーンのように、狭い範囲で短時間であれば可能かもしれませんが、このような広範囲で様々な時間帯を警戒するのが非常に厳しいのは目に明らかです。ですから、繁華街やその周辺で働いている、または住んでいる人に警戒も呼びかけることが必要だと思います。警察もパトロールをして、指導を加えるなど、できることはたくさんあると思います。空港などの施設でも、マナーを守るように掲示することなどが必要です。
8.まとめ
以下に、この研究における結論を示します。
・交通マネジメントについて
一部の道路を、大会関係者専用ルートとし、一般車両を通行止めにして、大会運営への支障をきたすことのないよう配慮する。その他の道路においても、信号調整等で極力混雑が起こらないようにする。ただし、公共交通機関の利用を呼び掛ける。
・JR東日本の対策について
深夜帯の列車の増発だけでなく、試合の開始前と終了後の時間に合わせて会場周辺の路線で増発を行うのが有効。駅等の施設で熱中症などの被害が出ないように暑さ対策に力を入れる。混雑が見込まれる路線の周辺の企業には時差Bizの実施を呼びかける。(※私鉄にも当てはまる)
・都営バスの対策について
鉄道路線と同様に臨時ダイヤを導入する。バス停等の設備に、外国語の表記を追加する。または外国語に対応できる公式アプリを配信する。
・私鉄の対策について
表示の多言語化を進める。主要駅には外国語に対応できるスタッフを配置する。
(※JR東日本にも当てはまる)
・サポーターへの対策
繁華街周辺には注意を呼びかける。警察もパトロールをして、外国人への注意をする。マナーを守る旨を記したポスターを空港等の施設に掲示する。
2013年に開催が決定した東京オリンピック・パラリンピックがいよいよやってきます。この研究で挙げたように、複数の問題点があるのは事実ですが、いずれにしても素晴らしい大会になるのは間違いないと期待しています。
9.おわりに
いかがでしたか。大会前にこの研究を学校外に向けて発信することができる機会は今号だけだったので、予定を前倒ししてこの停車場で発表することにしました。入部して一年以上たち、去年の今ごろに研究デビューしたのが少し懐かしいですが、そろそろ研究を書くのにも慣れてきたなという印象があります。今回のようなある程度抽象的なテーマで研究を書くのは初めてだったのですが、自己最長の研究となったこともあり、満足しています。諸事情あって写真が少ないのは反省点です。もしも、この研究を読んで、読者の皆さんがこの大会の交通整備について興味を持っていただければ幸いです。
それでは、次回の停車場でお会いしましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました!
10.参考
・東京大会HP
https://tokyo2020.org/jp/
・JR東日本HP
https://www.jreast.co.jp/
・JR東日本東京オリンピック・パラリンピックスペシャルサイト
https://www.jreast.co.jp/tokyo2020/
・JR東日本ニュース「東京2020オリンピック・パラリンピック1年前に向けた取組みについて[PDF]
https://www.jreast.co.jp/press/2019/20190704.pdf
・東京都交通局
https://www.kotsu.metro.tokyo.jp/
・東京都オリンピック・パラリンピック準備局
https://www.2020games.metro.tokyo.lg.jp/
・新国立競技場オープニングイベントHP
https://ourstadium.jpnsport.go.jp/
・東京2020大会の交通マネジメントに関する提言の概要[PDF]
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tokyo2020_suishin_honbu/kotsuyuso_enkatsu/dai2/siryou1.pdf
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